上
ちょっと無理な設定かも知れないです。
が、もともと一人称練習のつもりで書いていたのでようやく?書きたい感じにできたかな、と。
無理な設定には目を瞑って頂ければ光栄です……
もう一話だけ投稿します。
なぜでしょう。
どうしてなのでしょう。
出来れば気付きたくはありません。
ですが――あのあまぁーい言葉。
私はロサーヌの言葉に騙されたと気づいてしまったのです。
そう、これは壮大な計画でした。
元の世界で男であった私は、今、ヒラヒラとレースのたくさんついた可愛らしい服を着せられ、ぴったりとフィット。
栗色の長い髪の毛がふわりと肩まで伸びていて、胸はぷるんと大きく、スカートを穿いている腰まわりは女の子そのもの。
……そう言えば今は女の子でした。
そしてそして極めつけはこのお淑やかな物腰。
これはこの街へ来るまでに、ララにちょうきょ……教えられた成果です。
決して元々こんなお淑やかな物腰などではなく、前はもっと淡々としたものでした。
そう、これは壮大な計画だったのです。
「メイちゃん! こっちも頼む!」
「はぁーい!」
短いスカートをはためかせ、私はパタパタと走ってテーブルへ。
もちろん以前、ローリーに言われたようスカートがめくり上がりすぎないよう、細心の注意を払って。
今、私は酒場でしかも何故か再びウェイトレスとして働いていました。
ロサーヌいわくしばらく拠点として活動するための活動資金を集めるのと、あとはダンジョンや、近場に金になるような魔法結晶の目撃情報など、ようするに情報収集を兼ねてと言うのですが、ううむ、あの様子だと怪しいと私は考えます。
「メイちゃんエール!」
「はぁーい! ちょっと待って下さいー」
それに……楽だから、そんな言葉が私を誘ったと言うのに。
……言うのに何故こんなにも忙しいのがしいのでしょうか。
まっこと不思議でなりません。もしローリーに今の状況を言えばきっとすぐに連れ戻してくれるでしょう。
きっとこれはロサーヌの陰謀――そう私は売り飛ばされたのです。
なぜならもし情報収集とお金が目的ならサラも一緒に働いて良いはず。
おお、なんと哀れなメイなのでしょう。
元々は男であったはずなのに次第にもやがかかった様に記憶が薄れていき、ララにはちょうきょ……教育され、挙句の果てに心を許したローリーとは別れる決心をしたと思えば、酒場に売り飛ばされてしまう。
これは悲劇のヒロインの物語。
ただし主人公は居ませんでした。
「よう、メイ。忙しそうだな」
「……良いご身分ですね……」
呼んでいたのはどうやらロサーヌでサラとルペルトも一緒、なるほど私が咄嗟に言った言葉は上手いと褒めてやりたくなります。
同時に私の顔は今、さぞかし引きつっている事でしょう。
「あー、メイちゃんが一緒に来てくれてほんっとに良かったー。あたしこう言うの苦手なんだよね」
「苦手も何も一回やらせたら大変だったじゃねぇか」
ルペルトはため息を吐いて、サラに指摘を入れます。
「そだっけ?」
「気に食わねぇ客をぶっ飛ばして拠点にするどころか街を追い出されたんだ。忘れたとは言わせねぇぞ」
ルペルトがサラに睨みを効かせ、サラは申し訳なさそうに、あくまで私が思うに申し訳なさそうに、ですが頭を掻きました。
「んでもさぁー、ジジイどもパンツ見ようと凄く姿勢低くしてさ」
「ちょうどあんな感じですか」
「あー、そうそう! あんな感じ! メイちゃん、ほんとよく耐えれるよね」
「私も出来ればやりたくないんですが……」
ああ、あのジジイ共にパンツ見られて、情報収集など見方を変えれば完全な接待な気がします。
出来ればあのジジイ共には一発、痛烈なパンチをお見舞いしてやりたいところですが、私の腕は非常に細く、心もとないものになっていたのでやめておきましょう。
でも表に出れば本当に強いので、そこだけは勘違いしないで欲しいところです。
表に出なくてよかったですね、ジジイ共。
「おーい! メイ! 今度はこっち頼む!」
「はーい! 呼ばれたんでまた……って言うかロサーヌさん達もちゃんと調べものとかしておいてくださいよ」
私はそれだけ言い残して、呼ばれたテーブルへと駆けます。
すると後方から声が耳に届いて来ました。
「頑張れよー、ハッハッハ」
……ルペルトの声が憎い。
私は久しぶりにここまで感情を高ぶらせました。もちろん負の方向に。
ここは私もあのパーティーの一員としてやはり威厳を示すべきでしょう。一睨みくらい効かせてもきっと良いハズです。
私は振り返り、ルペルトを――
「うぎゃあ」
振り返った途端、お盆の上に乗せていたエールがふわふわと風船のようにゆっくりと宙を舞う所が見えました。
もちろんこれは私が見えただけで――
――ぴしゃこんこん。
そんな音がなると同時に私は、ぶるり、と身震いをします。
寒い。
そういえばこの身体になってからと言うもの、よく運動面ではヘマをやらかしていました。
始めは身体に慣れていないのかと思っていたのですが、どうも違うようで単純にこの身体の運動能力が極端に低いと言うことがよく分かってきて、なんだか不便にも感じますが、仕方ありません。
「ううう……」
エールで濡れた上半身をのそのそと起こす姿は、きっと哀れなエールの滴る可憐な美少女――なのになぜ誰も助けに来ないのですか?
ああ、スカートがめくれあがっています……情けない。
立ち上がって周りを見渡せば、気まずそうに目線を合わせない男、ニヤニヤと拍手をしている先ほどのジジイ共、そしてロサーヌとルペルトはニヤニヤと笑いながらも、ララに頭をひっぱたかれていました。
……あれは……見ましたね……
「メイちゃん! 大丈夫?」
「て、てんちょー……」
「ほら、良いから着替えておいで」
「はいぃ……」
情けない、と思いつつも私はお言葉に甘えることにして、店の奥へと引っ込んでいくのでした。
夜。
と言っても、私が酒場で働いていたのも夜になるので、閉店後と言うことになります。
私を含めた四人の冒険者パーティーの面々が集合し、円陣を組む形になっていました。
秘密の会談のようです。
まあ実際、秘密の会談みたいなものなのですが。
初めに口火を切ったのはロサーヌでした。
「で、メイ、今日はなんか聞けたか?」
「……ダメでした……って言うか……二人ともなんで私が転んだときニヤニヤ笑ってたんですか」
「深い意味はない、なあルペルト?」
「ああ」
真面目に頷いているけれども見切っているのですよ。
そう、この二人はきっと私のパンツを見たからニヤニヤと笑いながらララにひっぱたかれて居たのは、エブリシング、お見通しです。
「知ってるんですよ……あそこで私を助けてくれれば良かったのに……でもパンツ見てたんですよね……」
ふぅ、とロサーヌとルペルトは顔を見合わせて観念した、と言うように手を上げました。
ここは私が前に居た世界とは違うとはわかりつつも、まるで名推理に観念した犯人のように見えます。
ちなみに私は名探偵です。
「ああ、可愛いパンダだった」
ふ、とロサーヌは鼻で笑う様子は、まことに憎くて仕方がありません。
酷いものです。
どれくらいか、と言われると思わず、うぐぅ、と声が出るくらいでした。
よりにもよって十六歳前後の少女がそんなものを着ていたら、そして見られたらと思うと恥ずかしいのです。
この世界にやってきてからモヤがかかった様にだんだんと消えて行く記憶の中で、そう言えば昔は二十ちょいちょいだった気がして、そんなことを考えていると――
ああ、今すぐに布団の中にもぐりたい。
……切り抜ける方法……そう、ここはちゃんと事実を伝えればよいのです。
事実は皆で共有すべきでしょう。
あのパンツは貰ったのです。
――そう。
「……だってララにもらったのがパンダだったんです」
「ちょ! メイ!」
ほー、と意味深な表情でララを見るロサーヌ。
ふふふ、これでララも巻き添えです。
「なんで私にまで飛び火させてんのよ!」
「貰ったものは仕方ないんです」
「もう! この話終わり! ロサーヌ、ルペルト! アンタらこの話覚えてたらタダじゃおかないからね!」
はいはい、とロサーヌとルペルトはララをなだめているようですが、この二人、絶対後でララと私をからかいに来るでしょう。
たとえこの街でなくとも、きっとことある毎に思い出すに違いありません。
私も早いところこの二人の弱みを握らないと、冒険者パーティーの中でドレイ扱いされてしまうのでは……
……でもよく考えたら既に同じようなものかも知れないですね。
ほろり、と零れそうになる涙を考えないようにして堪えます。
「ところで、ロサーヌさんたちはどうだったんですか? 冒険者ギルド、行ってきたんですよね?」
「ああ」
「どうだったんですか?」
「どうだろうな、冒険者はみんな一攫千金を狙うもんだから情報を隠したがる。そういう意味で酒場に行ってたんだが」
「えっと……?」
「まー、メイちゃんの事を見守るのが私たちの仕事って感じかなー。後はメイちゃんに話聞いて欲しい人、指示したり」
ララの口から信じられない言葉が飛び出てきました。
私はしばらくの間、打ち上げられた魚のように口をパクパクと動かして、どう答えていいのか分かりませんでした。
きっと今の私の目は飛び出していることでしょう。
「……だ……」
「だ?」
「だからいつまでも貧乏冒険者なんですよ……! ちゃんと仕事してくださいっ。それにもし私がお金を稼がなかったら、今日のこの宿どうするつもりだったんですか……?」
「野宿だな」
「そうね」
「ああ」
……なんというパーティーに入ってしまったのでしょう。
私は別の街にまでやってきて初めて、ローリーと一緒に居ればよかったと後悔するのでした。