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アルベセウスは笑う。
「難しいな」
「難しい?」
「どのラインで話をするかによって意味が大きく変わる。『プリマヴェーラ』という大陸カテゴリーでの話なのか。それとも『壁』の向こう側、『アスカンドール』を含めた話か――そして『プリマヴェーラ』に限って言うとすれば、『最強』という言葉は大きく意味を持つ。それは我々『紋章憑き』の宿命なのだ」
ナスターシャが無言で頷き、アルベセウスは言葉を続ける。
「ナスターシャからも説明されたとは思うが。私達が持つ『紋章』は神の力を得た証明。神の力を得ることによって超常的、爆発的な力を発することが出来るようになるのだ。その力の凄まじさは……キミも直に実感することが出来るだろう……しかし、この力。無償で得るものではないのだ」
「は? どういうことよ」
「『紋章』を持つ者同士の試合が義務づけられるのだ。単純に、姿無き『神』の代わりに、我々『紋章』を持つ人間が『神々』の優劣を決める為にやり合うということだ」
そう言うとアルベセウスは簡潔に説明する。
『紋章憑き』同士が対峙した時、紋章が輝き共鳴反応を示した場合、必ず戦わなければならないこと。
試合に敗れても『神』の力を失うことはないこと。
しかし、試合放棄は即刻『神』の力を剥奪されること。
無共鳴な場合でも戦い合うことは出来る。当然その時の結果は戦歴として残ること。
国と国が争うのとは別で、同じ国の人間同士が試合をすることは普通にあること。
『神撃』とは違い武器等、魔法等の使用は認められること。
そして、アルベセウスとナスターシャの『紋章憑き』順位が――
第五位アルベセウス・ガンルーク
第七位ナスターシャ・セレンディーテ
「へぇ、ランキングがあんのか。てか二人とも上位なんだな」
「我々も『神』の力の上にただ胡座をかいてるだけにはいかぬ。『神』の憑き人として、失格の烙印を押されるようなことにでもなれば、『神』の力は失われ――それは即ち国の崩壊を意味するのだ」
「ふぅん……で? 一位ってどんなヤツなの?」
「一位か。一位は、帝王。ヴァティスガロ帝国の帝王――『獣神ディブロウ』の力を受け継ぎし者――ザンドレッド・ルドリフスだ」
「……名前からして強そうなイメージだな」
「イメージだけではない。ザンドレッドの強さを一言で表すと『化け物』だ。ここ二年、ザンドレッドに土を付けた者はおらぬ。そんな私もザンドレッドに敗れた者の一人なのだがな。今では、ザンドレッドの事を『絶対王者』と呼ぶ者も少なくない」
自嘲気味に笑うアルベセウス。が、直にその笑いが消える。
「――しかし、今の私は昔の私ではない。同じ過ちを起こすことはない」
ナスターシャが笑う。
「あれは本当にレベルの違う戦いだった。『イーヴェルニング』の力を手に入れて間もない一戦という、運の悪さもあったから仕方がないのもあるがな」