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二人のところへと戻った隼人だが、まだ話は続いていた。
『大事な客人』と言っておきながら、その『大事な客人』をそのまま放置するとか。どういう神経してるんだ。と少しイラッとする隼人は、欠伸を豪快にして見せた。
「――そして次にマウロノの件だが。彼は人間の身でありながら『紋章憑き』であるキミに『隷属戦』を要求してきた。これは紛れもない事実。『同格』という単純かつ明確な規定を以て行われる『隷属戦』において、マウロノのこの要求は愚弄、この上ないことだ」
「いや、私は受けても構わんぞ? 身の程というものを分からせる意味でもな」
「お前のことだからな。そう言うとは容易に予想は出来たが、そうはいかぬよ」
「もしかしてそれが受け入れなかった理由なのか?」
「そう言うことだ」
「……ふむ。なんだか拍子抜けだな。もっと、こう大事な感じをな?」
「十分大事なんだがな。一つ勘違いをしてほしくないのだが、受け入れなかった理由はそれだけではない。良いか? 仮にだが、万が一にでもキミがマウロノに不覚を取るような事態となったら我が国の戦力の半分が削がれることになるのだ。それがどれだけ重大なことか、分からぬキミではないはずだ」
ナスターシャは苦笑する。
「『不覚』? お前は私のことをその程度にしか評価していなかったのか。残念だ」
「逆だ。高く評価しているからこその決断だ。マウロノの実力に関しては、伝え聞いた事でしか判断出来ぬからな。不覚的要素が有りすぎる」
「リレイアはどうなる? マウロノがその『伝え聞いた』通りの実力だとしたら、リレイアを失うことになるぞ? お前はそれで良いのか?」
「まあ、待て。この件にはまだ続きがある」
「続き?」
「ああ。リレイアとマウロノの一戦は『隷属戦』となっているが、その本丸は私なのだ」
「どういうことだ?」
「マウロノは結局最後まで『紋章憑き』との『隷属戦』に拘り、譲らなかったのだ。そこで私が一つの条件を出した」
「条件?」
「それがリレイアとの一戦だ。マウロノがリレイアとの『隷属戦』に勝利することが出来れば、その時は特別に私が相手をすることになっている」
「なるほど。しかし、どうしてお前なのだ? 私が相手をしても良いのではないか?」
「リレイアは我が軍所属の副将軍だ。上官である私が出るのが当然だろ」
「まあ、そうだな。しかし大丈夫なのか? 不覚的要素の多いマウロノ相手に、よもやの『不覚』は取らぬだろうな」
皮肉を込めて言うナスターシャ。アルベセウスが笑う。
「笑わせてくれる。私を誰だと思ってる?」
「アルベセウス・ガンルーク。『火の紋章憑き』だな」
「そう言うことだ。それが答えだ」
ナスターシャは苦笑いを浮かべ肩を竦めた。
話が終わったらしい。のを見計らって隼人が口を開いた。
「終わった?」
「待たせてしまって申し訳ない」
憮然とした表情を返す隼人。その時、丁度部屋の扉を叩く音が聞こえた。
「マーグ、戻りました」
そう言って部屋へと入ってきたマーグの両手には大きな木箱。
マーグはアルベセウス達の前までやってくると一礼し、両手で持った木箱を隼人へと差し出した。それを受け取った隼人。見た目と違い、箱の重さは軽かった。
箱を開けると、一着の、アルベセウスと似たようなダーク系を基調とした服が入っていた。
「私の判断で、高位専用の制服を用意させていただきましたが、よろしかったでしょうか? 一応ライン色は赤ではなく白を選んではいますが」
「いや、それで構わん」
アルベセウスの言葉にマーグは頭を下げると部屋から出て行った。