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13

一体は頭から下腹部にかけて口が並ぶ、目無しの化け物。下品に涎を滴り落とす。


一体は腕が四本生えた化け物。前と後頭部に大きな目が付き、眼球が異様に動きまくっていた。


一体は足が蜘蛛のように生えた化け物。首に骨が通っていないのか、三六〇度不気味に動いていた。


現れた喰人が早速、異変に気付いた。


「コレは一体、ドウいうこと、ダ?」


おびただしい数の同胞の無惨な姿を目に捉えた喰人は瞬時に感付き、肌の色が戦闘色である紫に変わる。しかし喰人達は同時に恐怖も覚えていた。


「ダレだ……どこニ隠れてイル! 姿ヲ見せロ!」


喰人達は必死になって辺りを見渡す。


「――別に隠れてなんかいないんだけどね」


自分の背よりも高いところから聞こえた声に、喰人達は一斉に上を見た。


丘の上に立つケイヒルの笑う姿を捉えた瞬間。蜘蛛足の喰人が絶叫を上げながら跳躍しケイヒルを襲う。単純に圧死を狙った攻撃だ。地響きと共に丘の頂上が粉砕されるが、既にそこにはケイヒルの姿はない。より上の空へと跳んで回避していた。


しかし回避した先、ケイヒルの眼前には、読んでいた目無しの喰人が現れる。


「これはなかなか!」


そう一言発したケイヒルに、縦一列に並んだ口から、赤い波動弾が一斉放射される。


言った言葉とは裏腹に、ケイヒルの顔から笑みが消えることはない。咄嗟に体を丸めたケイヒル。その身が黒い『障気』を揺らめき纏ったところ、喰人の放ったレッドラインバーストが直撃する。大爆発。夕闇の空が一時煌々とした赤に染まる。


じきに爆発も収まり夕闇が戻ってきた空から、喰人、そして波動弾を浴びたケイヒルが落ちてくる。ケイヒルは全くの無傷だった。ケイヒルは地上に降りるなり、服に付いた埃を払う。やはりその顔には笑みが浮かんでいた。


轟音とともに砂が舞い上がる。後ろを一瞥したケイヒルは、また服に付いた砂埃を払った。ケイヒルの背後に蜘蛛足の喰人が降り立ったのだ。三体の喰人は上から睨むようにケイヒルを見るだけで動かない。どう行動すればいいのか分からないのだ。為す手立てが思い浮かばない。強者と弱者の構図が出来上がっていた。


「残念。攻め方は悪くなかったけど、攻撃力が不足してるから何をやっても無意味だよね。今のがもしロゼだったら僕死んでたんじゃないかな?」


楽しそうに話すケイヒルは鞘を手に取り、剣を抜く。ケイヒルの纏っていた黒い『障気』が剣へと移る。


「マ、待て! き、貴様ハ一体何者ナノだ」蜘蛛足喰人が必死の形相で問う。


「僕かい?」振り向くケイヒル。握った血錆の剣が……黒銀の輝きを取り戻していた。


「そ、そうだ」畏怖を感じた喰人達は後退る。


「どうせ今から死ぬんだから聞いても意味ないよ?」


刹那、ケイヒルの一撃が蜘蛛足喰人の胸に、ツバいっぱいまで深く突き刺さる。


一瞬の出来事に、理解するのにコンマを要した蜘蛛足喰人は遅れて胸に目をやる。


「ほらね」


「キ、貴様ァ!」


「――ズィータ――」ケイヒルは呟いた。


剣を握る手の甲。古の文字が綴り書かれた――『魔』の紋章が血色に輝くと、一瞬にして剣を握ったケイヒルごと蜘蛛足喰人の体を貫く。


白目になった蜘蛛足喰人は頭から前のめりになるような格好で倒れた。


「ひイィっ!」


「お。オいッ! ドこに行ク!」


惨劇を目の当たりにした? 目無しの喰人が逃げた。背中に聞こえる四手の喰人の声を無視して逃げる逃げる。ズン……ズンと大きな足音が響く。


ケイヒルは身を捻り空中で回転すると、逃げる喰人の背中を目がけて剣を投げ、呟く。


「――ルド リッヒ ヴァリッチ――」


ケイヒルの手元から離れた剣は爆発的な加速を見せると、黒光線となり、逃げる喰人の体を背中から貫通した。貫通した黒光線は鋭角に方向を変えケイヒルの元へと、これまたすごい速度で戻ってきたが、ケイヒルはそれを慣れた手つきで掴み取った。正確には剣の方から、差し出された手に収まった感じだ。


咆哮のような断末魔の絶叫が響き渡る。止まぬ絶叫を背にしたケイヒルが四手の喰人へと視線を向ける。


「どうせ死ぬんだからさ、逃げずにかかってきなよ」


四手の喰人はケイヒルの持つ剣に目がいった。


「そ、ソノ剣はなんダ」


「? この剣? さあ、僕にもよく分からないんだけど。聞く一説によると『神具』って呼ばれるものみたいだね。まあ、見たとおりすごい武器だとは思うよ」


絶叫が止み、次に轟音が響き渡った。蜘蛛足の喰人は今絶命した。


「フ、ふん。結局はそンな武器ニ頼らナケれば貴様ハ弱いのだロ」


「何だって?」『弱い』という言葉に、敏感に反応したケイヒルの表情が一瞬陰る。


「何度だッテ言っテやろウ! 所詮貴様ハ作ラれた強さニ酔っテルだけダ! 我ワレは違う! 己ノ力のみで戦う勇敢な種族なのだ! 我は今ココで朽ちるだロウ。しかし! 直にあのオ方ガ降臨サれる! あのお方ガ! あノお方が! ワズワルド様が我ワレの仇をきっと取ってくレよう!」


「ワズワルド? もしかしてロゼのことかい?」


「ソうだ! ロゼだ! 貴様が如何なる武器ニ頼ろうガ、あれ如きの力など、ロゼの前でハ、ワズワルド様の前では貴様ナド取るに足らん存在なのダ!」


長く熱の籠もった弁を聞き終わったケイヒルの肩が震える。愉快すぎた。


「……あれ如きだって? もしかして、お前はあれが僕の本気だと思ったのかい?」


「ど、ドういうことダ」


限界を超えたケイヒルは高らかに笑った。


「ナ、何ガそんナに可笑しイ」


そんな言葉を無視して笑うケイヒルの頭に妙案が一つ閃いた。


「……いいことを思いついたよ。確かめよう」


「確かめル? ……一体何ヲだ」


「お前が崇めるワズワルド様と『弱い』僕。どっちが強いのかをね。お前、知ってるんだろ? ワズワルド様の、それはそれは素晴らしい強さをさ」


「い、イヤ……そ、それは、チ、ちょっと待テ!」


「またつまらぬことを」ヴェルゼモーゼスが深く嘆息を吐いた。


「光栄に思いなよ? 僕が本当の力を見せるのは滅多にないんだからさ。まあ、でも『弱い』僕が見せる本気なんてたかがしれてると思うけどね」


必要以上に『弱い』というフレーズを口にするケイヒル。表情には出さないが、結構むかついていた。なぜ自分より遥かに弱いヤツに『弱い』ヤツ呼ばわりされないとならんのか、と。ケイヒルは血錆の剣を横に構える。


「……馬鹿が。僕に舐めた口を利いたことを後悔するがいいさ! ――ユァ ルゥ ドゥ ヴィエンリッヒ デス ヴォーゲン――ヴェル ゼ モーゼス――」


『魔』の紋章が裂音上げて真紅に輝く。


体から吹き上がる『障気』が黒柱となり天を貫いた。


これから何が起こるのか。純粋に恐怖で震える喰人が見上げる中、ケイヒルを中心に立ち上る黒柱は、大地を覆うように半球形に開いていく。少しずつ徐々に緩やかに。空ごと、広大な大地を飲み込まんと広がる『黒』。


ケイヒルの作り出す『夜界』が徐々に、徐々に、徐々に、徐々に、徐々に、徐々に……出来上がった。


『夜界』に飲まれたケイヒルに喰人。喰人は今頃になって逃げ出す。絶対にろくな死に方をしない。朽ちる覚悟は冷めていた。


逃げる喰人を見向きもしないケイヒルは冷たく口にする……解放の言葉を、死の宣告を。


――リーズ レベクター マイン リッヒ――ツヴェルディフ デス ヴァルキューレ――


『夜界』の外、本物の夜空の元に喰人の絶叫が響き渡った――悪魔、と。

長期に渡って執筆を中断していました。

昨年末と年始早々と不幸が続き精神的にもきつい状況に追い込まれました。


詳しくはまた活動報告にてお話しさせてもらいたいと思います。


稚拙な作品ではありますが読んでくださっている読者様、本当に申し訳ありませんでした。

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