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12

ケイヒルはその場でしゃがむと、さっきまで自分がいた場所に視線を移した。


そこには大地が無かった。あるのは『黒』。その『黒』は怪しく蠢き、徐々に徐々にと大地を喰らい『黒』の支配を広げていくのだが、活動の限界が近かったのか『黒』の侵食は鈍り始め、やがて停止した。これが『地食』と呼ばれる現象の内の一つだ。


そして『地食』をゲートに、世界に現れる化け物――通称『喰人』


多手、多足、多頭、多角、多口、と様々な奇形生物のなりをしたケイヒルの四、五倍はある巨大な怪物が『地食』周辺一帯、至る所に倒れていた。


血にまみれた大地。嘔吐を催す程の強烈な血臭。普通の人間なら卒倒しそうな凄惨な現場に、ケイヒルは満悦な笑みを浮かべていた。


「きっと、こいつらと違ってものすごく強いんだろうね。どうだろう、勝てるかな? 僕自身、今まで結構な数を『喰らって』きたから、案外イケそうな気がしてるんだけど」


「いや、今回は様子を見るぞ」


「どうしてさ? ヴェルゼモーゼスともあろうものが、戦う前から逃げるのかい?」


予想外の返答に、ケイヒルは驚いた。


「戯けが。誰が逃げると言ったか。口の利き方に気をつけろ」


「おっと、これは失礼したね」


「ふん……安心しろ。お前が戦うことに変わりはないわ」


「それじゃあ、どうして」


「出現する場所が場所だ」


「ああ……なんだ、そう言うことかい」


「何も無駄に入り乱れる必要などない。残った方とお前がやればいい」


「でも、ヴェルゼモーゼスはそれでいいのかい?」


「なにがだ?」


「『ロゼ』が生き残ったら、僕たちが目的にしてる『力』を失うってことじゃないのかい?」


「その時は『ロゼ』を喰らえばいいだけだ。『ロゼ』一人、それだけの力を秘めているからな」


「へぇ、そうなんだ。でも残念だな、それを聞くと尚更戦いたくなってきたよ、僕は。……それに」


ケイヒルは立ち上がると東へと目を向けた。かなり日が傾き、遠くに広がる景色は暗く、よく見えない。だが、ケイヒルは感じていた。


「……そこには、僕を不快にさせたヤツも居るようだしね」


「どっちでもよかろう。残った方が、より優れた力を持ってるということだ」


「……まあね」


短い言葉で、一旦会話を切ったケイヒルは視線を元に戻した。瞬間、大地が小刻みに震える。


「さっきので最後だと思ったんだけど、どうやらまだ残ってたみたいだね」


向けた視線の先。


『地食』に侵された漆黒の大地が、五つ又矛の形に大きく歪に盛り上がる。上がる。上がる。上がる。それは、張られた膜を内側から強く押している。そんな感じに似ていた。当然、膜には強度がある。限界を超えれば……


バチンと大きな音を立てて『黒』が弾けた。一カ所、二カ所、三カ所、四カ所、五カ所、六カ所と次々と。


姿を現したのは太く屈強な腕。皮膚に浮かび上がる無数の血管は異常なまでにぼこぼこと忙しなくと脈打っていた。


『地食』を突き破って出た腕はフラフラと彷徨い、侵されていない大地の感触を見つけるや、手を掛け一気に飛び這い上がる。破れた『地食』はまるで黒い水飛沫のように豪快に飛び散った。


大地に音を立てて姿を見せた三体の『喰人』

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