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8

部屋に扉を叩く音が響く。


「失礼します」


そう言って入ってきたのは、先程ナスターシャに短く声を掛けられ走り去っていった衛兵だった。扉を閉めた衛兵は敬礼をすると、ナスターシャの前にまでやってくる。


ナスターシャの前に立った衛兵は軽く会釈すると小脇に抱えた木箱を差し出し、箱を開けて見せた。


箱の中には一着の黒衣がキレイに折り畳まれて収まっていた。


「うむ」


ナスターシャは黒衣を手に取ると両肩口の辺りを掴み、上から下へと伸ばしてみせる。


それはガイナが着ていた丈の長い黒衣に似ていた。


肩には王国紋章が刻まれた銀のプレート。襟には将軍格を示す三本のゴールドライン。黒衣を纏うガイナにアルベセウス。先の二人とは違い丈の短い青衣を纏うナスターシャ。三者それぞれに、背中には王国の誇る三将軍を意味する『トライアングルフォース』を象ったエンブレムが縫い描かれているのだが、今ナスターシャが手にする黒衣は違う。背中には『トライアングルフォース』エンブレムではなく、『銀剣』。


王国エンブレムに重なるように、柄を上にして垂直に立つ銀剣が縫い描かれていた。


「あ、あの……本当にこのお方でよろしいので? ……その黒衣は――」


思うことがあったのか、思いすぎたのか、横にいた衛兵の口から思わず口をついて出てしまっていた。


「余計な心配はいらぬ。姫様の許可は既にもらっている」


「! そ、そうでしたか。こ、これは失礼をしました」


誤って粗忽を働いたことに気付いた衛兵は慌てて直立に姿勢を正し、無礼を詫びると足早に部屋から出て行った。


ナスターシャは、持っていた黒衣を隼人に差し出した。


「オレ?」

「そうだ」


ナスターシャの手から隼人の手へと移った黒衣。近くで見ると所々に傷んだ箇所があった。それは、この黒衣が以前誰か他の者が着ていたと予想させるに十分であった。


「――リゼルハイン・ガウスバーク。三年前にこの城を去った者の……そしてその黒衣を所有していた者の名だ」


隼人が問おうとするよりも先に、ナスターシャが答えを口にした。


「リゼルハイン?」


「ああ。私達とは一線を画した将軍でな。私達がこの国の将軍に就く前――一時期この国は『紋章憑き』が存在せぬ時期があったんだ。今も昔も争いが止まぬ時代だ。分かるだろ? そのような国、他国の格好の餌食というものだ。事実、まるで申し合わせたかのように、他国からの侵略行為が一斉に強まったのは間違いない。その落ちた戦力を補うために、外部から戦力となる者を早急に招致する必要があったんだ。情けない話だがな……」


「それがリゼルハインってやつか?」


「そうだ。リゼルハイン・ガウスバーグ。金で雇われた将軍、そして最強属性の一つ『雷神レイブンヴォルゲリード』――『雷の紋章』を持つ者だ」


「へぇ……やっぱ強いんだろ?」


分かりきったことなのだが、隼人は聞かずにはいられなかった。


「ああ、強いな。リゼルハインたった一人で戦況を一変させるほどだからな。そうだな、バティスガロのサイ……いや、ザンドレッドに匹敵するかも知れんな。それほど強い」

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