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「どうって、舌を絡めるようにして舐め合うんだよ」
ナスターシャは隼人に聞こえるくらい大きく喉を鳴らす。
「し、し、舌を舐め合う……」
目が宙を彷徨う。無い知識で想像を試みるナスターシャ。口の中で舌が勝手に動く。
どのような想像をしているのか、ナスターシャの目尻に光るものが溜まってくると突如「あああああああああああああああああああっ!」と絶叫し顔を両手で覆い隠した。
「む、む、むむむむむむ無理だっ! わ、わたわたわたたたたたたわた、わ私には、無理だぁ!」
顔を覆い隠したまま大きく頭を振るナスターシャの絶叫は止まない。それは半狂乱に近い状態だった。いつもの凛と澄ましたクールビューティなナスターシャの面影など微塵も無かった。
び、びっくりした……。一体何事だよ。顔を引く付かせる隼人。
フルフルと体を震わせてナスターシャが隼人を睨む。
「な、何だよ。何睨んでんだよ。お、オレはまだ何もしてねーだろ。お前が勝手に想像しただけだろ。お、怒るのは筋違いだからな!」
隼人に向けてた視線をフイと逸らすと口をモゴモゴと動かす。
「……べ、別に怒ってなどおらぬ」
しおらしく落ち着きを取り戻したナスターシャ。隼人が肩を竦めて見せた。
「ま、なんだ。突っ走って『やらなくて』良かったすわ。な?」
ナスターシャが頷き喋る。
「今は……本当に無理だ。気を保てる自信が全然無い」
マジで、ナスターシャはどんな想像したのかが気になったが隼人は聞かなかった。話をぶり返すのはとても危険だと判断した。見てて面白いけど。
「……でもいずれ、するんだろ? その、ディ、ディープキスとやらを……」
「当たり前!」満面の笑みで隼人は言った。
「でもアレだ。普通のキスに慣れてからだな」
「な、慣れるだろうか」
隼人が笑う。
「毎日してたらイヤでも慣れるっしょ」
「ま、毎日するのか!?」
「毎日は言い過ぎか。とりあえずオレがしたい時はよろしくって感じだな」
唸るナスターシャが観念したかのように溜め息を吐いた。
「……どうせ私に拒否権はないのだろうな」
「当然。それじゃあ……」
隼人がナスターシャの頬に手を掛けるとこちらに向かせた。
「え? ……あ、っん」
今日四度目のキス。戸惑うナスターシャの瞳がやがて震えて閉じる。ナスターシャは隼人のキスを受け入れた。
時刻は丁度〇時を回った頃。東京生まれの東京育ち。名は黒澤隼人。職業、格闘家。突然ワケも分からずプリマヴェーラにやって来た隼人。姿無き『竜神』は隼人に『最強になれ』との思いだけを一方的に託すと勝手に消えた。そんな隼人の長い一日は、ナスターシャへのおやすみのキスで幕を下ろす。
ナスターシャが部屋から出て行った後。一人この先のことを考える。考えれば考えるほど色々と不安が頭を過ぎったが「ま、どうにかなるか」と眠りに付く隼人だった。




