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とりあえずはこんなものか――隼人が唇を離す。
ナスターシャは恍惚とした表情で隼人を見つめる。さっきまでの隼人とはまるで別人に見えた。胸のドキドキが収まらない。
しかし、隼人のレクチャーはこれで終わったわけではなかった。むしろスタートしたばかりだ。隼人の脳内では、明日以降のナスターシャ調教カリキュラムが凄まじい早さで組まれていっていた。
落ち着きを取り戻したナスターシャに隼人が声を掛けた。
「初キスされてみた感想は?」
ナスターシャが少しの間を置いて感想を口にする。
「……そうだな。一言で言えば、『すごかった』だな。何が『すごかった』のか? と聞かれても答えに困るのだが、とにかく『すごかった』それに尽きる……今もまだ少し興奮している」
「それって悪い意味でか? 最初『不潔』とか『汚らわしい』とか散々なこと言ってたよな」
「そ、それは……」口籠もるナスターシャ。
「実際、聞くのと、やるのとでは全然違ったってことか?」
頷いたナスターシャが恥ずかしそうに笑った。
「『愛』を伝えるのにはとても適した……すごく純粋で分かりやすい行為だと思う。うん。隼人からの『愛』が強く感じられた。そうだな、多分それが『すごかった』んだな」
「オレからの『愛』が伝わって何より」
「伝わったが、それを受け入れてはおらぬからな。そこは勘違いするなよ?」
「なるほど。でもよ?」
「ん?」
「まだまだ。キスってのはこんなもんじゃないからな? 序の口よ序の口」
「そ、そうなのか? あ、あれ以上の『すごい』キスがあるのか?」
驚きの声を上げるナスターシャの顔が、先程のキスを思い出したのか朱に染まる。
「でも、そのキスはまた今度な。今のキスでこんな状態で、ディープキスなんてやったら卒倒しかねねーわ」
「ディープ、キス? な、なんか響きが卑猥な感じがするが……」
「卑猥な感じじゃなくて、まんまエロいよ」隼人が「ほら」と舌を出す。
「舌と舌でキスすんのよ」
「し!? し、しししし舌だとっ!? い、いいいいい一体、ど、どどどどどうやってだ!?」
目を大きくし、今日一番。いや、生きてきた二〇年という人生の中で一番の驚きの声を上げたナスターシャだった。




