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ナスターシャが素直に、ゆっくりと目を閉じる。綺麗に整った長い睫が小刻みに震える。前置きが長かったせいか『キス』への期待感が半端なく膨らんでいた。
それは隼人も同様だった。ナスターシャの『初キス』の為に、初めてのキスに良い印象を持ってもらう為に、隼人なりに頑張ってムードを演出してあげていたのだ。
それがやっと報われる。隼人は心の中で手を合わせると『では、いただきます』とつぶやき、そっとナスターシャの唇に自分の唇を重ねた。
目を閉じたまま、『まだかまだか』と次の行動を待つナスターシャに衝撃が走った。『何か』が唇に触れているのが分かった。目を閉じてるせいか、意識がより『ソコ』に集中する。『されている』のがよく分かる。とても優しい感触だった。これが『キス』か、と感じるも、すぐにその感触が消えた。気になって恐る恐ると目を開ける。瞳に映った隼人が笑顔で言う。
「どう?」
「……どうと聞かれても、まだ良く分からぬ……」
「だよな。じゃ、もう一回やろうか」
ナスターシャは頷くと、隼人に言われる前に目を閉じた。
また、ナスターシャの唇に隼人の唇の感触が伝わってきた。触れたまま。それはさっきよりもほんの少しだけ長く感じられた。そして感触が消えた。
ナスターシャが閉じた目を開くと、先程と変わらぬ、笑顔の隼人がいた。今度は何も言わないままジッとナスターシャを見ていた。恥ずかしい。堪らずに、隼人の視線から逃げるようにして伏し目がちになったナスターシャが唇を指でなぞる。
「こ、これが……キス、というものか? う、うむ。何かよく分からぬが……そうだな、悪い気はしない、か」
しかし『キス』への期待値が高かったのか、ナスターシャの心には燻る何かがあった。
そんなナスターシャの気持ちをまるで見透かしたかのように、隼人はナスターシャの顎に右手を添えると上向かせる。ナスターシャは動揺する。断り無しに始まる三度目のキス。
「な、なに……んっ」
言葉を口にする途中に、またキスをされたナスターシャ。
今度のキスは、ナスターシャの瞳には隼人の顔がハッキリと映っていた。隼人も真っ直ぐにナスターシャの目を見ていた。一瞬でナスターシャの瞳が潤い始めた。
違った。
先程までの『キス』とは明らかに違っていた。唇が強く感じられる。隼人は一時も視線を逸らしてくれない。顎に手を添えたまま、唇を少し離す。本当にほんの少しだけ離す。隼人が『私』の唇をジッと見てるのが分かった。そして、ナスターシャが喉を鳴らすのと同時にまたキスをしてきた。ナスターシャの唇を啄むようにしてキスをする隼人。時折唇を重ねたまま顔を動かしナスターシャの唇を味わう。為すがままに唇を許すナスターシャ。頭の中がカラッポ。何も考えられなかった。隼人の唇の感触しか頭の中には残らなかった。息をするのが苦しい。それほどナスターシャは興奮していた。
すごい、すごい、すごい。と、ひたすら同じ言葉を唱えていた。




