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衛兵は不思議そうに首を傾げる。
「あ、あの、仰ってる意味がよく分からないのですが?」
「だから人間は空を飛ばないのって。魔力? なんだそれ? 魔力ってあれか? さっきお前が槍とか馬呼び出したりしたやつか? あんなもん普通の人間が出来るもんじゃねーだろが。その時点で人間じゃねーよ!」
「は、はぁ。と、申されましても……あの」
衛兵はなんとも困った表情でナスターシャを見た。
「……実はこの男、俄には信じられないことなんだが、この世界の人間ではないと言っていてな。確か、ニホンとか言う国からやってきたと言ってたか?」
「そ」
「この世界の人間ではない? それは何とも……言葉に困りますな」
「まあ、この話は後で詳しく聞かせてもらうとしよう。実際興味もあるしな」
「それはオレもだっつーの。それよか、まずは『神撃』ってやつよ」
「そう慌てるな。始まるのは日が暮れてからだ。それまでの間、城で時間を潰すことにしよう。それに、流石にその格好のままっていうわけにもいかないしな」
「あ、あの、もしかしてこのお方は今日の『神撃』に出るおつもりなので?」
「そうだが? それがどうかしたか?」
衛兵達がどよめいた。
「ナ、ナスターシャ様? 今日の闘者、ご存じですよね?」
「知ってるぞ? たしかアルベセウスの所の者達だったな?」
「ち、違いますよ! やっぱりご存じなかった……今日の『神撃』は、ヴァティスガロ帝国のマウロノ副将軍と、アルベセウス様の部下であられますリレイア副将軍との『神撃』に変更されてるんです」
「な!? ヴァティスガロだと!? 一体何のようでこの国に!?」
「い、いえそれは私には分かりませんが……それと、あの、マウロノ副将軍お一人ではありません。『土の紋章憑き』であられますダンダーク将軍もご一緒です」
衛兵の口から出てきた『ダンダーク将軍』という言葉を耳にした途端、表情がみるみると険しくなったナスターシャは大きく舌打ちした。
「ダンダークだと? ……あのゲスも一緒か。なるほど。と言うことは今回の『神撃』、間違いなく普通の『神撃』ではないだろうな」
「なあなあ? さっきから何話してんだ?」
「あ、ああ……ちょっとな。私が留守にしている間に予期せぬ事が起きていたそうだ」
「予期せぬこと?」
「ああ、それでだが……すまない。今夜の『神撃』は中止だ」
「はあ!? な、なんでよ!? 超楽しみにしてたのによ!」
「それは本当にすまないとしか言いようがない。おそらく、今夜の『神撃』はただの『神撃』ではなくなってるはず――『隷属戦』だろう」
ここでまたもや衛兵達がどよめいた。隼人はチンプンカンプン。
「れいぞく戦? 何それ」
「言うなれば、勝者が敗者を配下にすることが出来る契約試合だ。しかし、だ!」
ナスターシャは続く言葉を言う前に、隼人達を残して城へと歩き始めた。隼人は慌ててその後を付いていく。
「お、おい。どうしたんだよ急に。どこ行くのよ?」
「アルベセウスのところだ。そして問いただす。なぜこの『神撃』を認めたのかを!」
「なんか問題あんのか?」
「大ありだ! 言いたくはないがリレイアとマウロノ。同じ副将軍だが、圧倒的に向こうの方が強い。次元が違うと言っても良いくらいにな」
「へえ、そんなになの?」
「マウロノ。ヤツは生身の人間でありながら、並の『紋章憑き』を相手にしても全くひけを取らぬ程の実力者だ」