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本当に『死ぬ』と思ったのであろうナスターシャの目には涙が浮かんでいた。
「殺す気なんてねーよ」
「嘘を言うな!」
「嘘じゃねーよ。殺人者になんかなりたくねーし! あ? もしかしてアレか? 『落とされた』ことないのか? 落ちそうになったのを『殺される』とかと勘違いしたとかか?」
「『落とされる』? そ、それは一体どういう意味だ」
「技を極めて意図的に失神させるんだよ。んで、失神したことを『落ちる』って言うの」
「……そ、そんなにも簡単に失神するものなのか?」
「極まり具合によるけどな」
「へぇ、なかなか興味深い話だな、それ」
ガイナだ。後ろにはリレイアもいる。
「どんなヤツにでも効くのか?」
「効くんじゃね? オレの場合、少なくとも『タップ』……降参してきたヤツ以外は全部『落として』きたし」
「なるほどな」
「一回、クイッと極めてやろうか? どんな感じか分かると思うよ?」
ガイナは即座に首を左右に振った。
「いや、遠慮しとく」
「あ、そう?」
「嫌な気持ちはしたくないんでな」
「なんだなんだなんだぁ? 情けないぞ、ガイナァァァ!」
突如として、馬鹿でかい声が闘技場に響く。
その声に、ガイナ自身は気にした素振りは見せないものの、隣のナスターシャの顔が見る見ると険しくなっていく。
間をおいて、巨体を揺らしてノソノソと闘技場に現れたのは、ヴァティスガロ帝国将軍――『土の紋章憑き』ダンダークだった。
観衆はどよめき、緊張が走る。
「ナスターシャ。お主もお主だ。我に敗れる前に、このような輩にやられおって。悲しい。我は悲しいぞ」
ダンダークは額を抑えて、わざとらしく悲しさを表現してみせる。
「黙れ」
「そのような恐い顔をしても無駄だ。なにせ、今のお主はこの輩の奴隷に成り下がったのだからの。奴隷の分際で我に偉そうな口を利くな」
「貴様ァ……」
空気が読めない。イヤ、空気を読んだ隼人が横から口を挟む。
「おっさん誰だ? なんかむかつくおっさんだな」




