32
さて、と。そうと分かれば――隼人は意識をナスターシャへと戻す。
「確認だけどよ。『隷属戦』ってのは、負けたヤツは勝ったヤツの配下になるんだよな? それってつまり、何を要求しても良いって解釈で間違いないな?」
「そうだ」
「OK。それじゃあ終わらせよう」
「随分とあっさり言ってくれ――っ!?」
隼人はナスターシャの両脇から両腕を抜くと、すかさず左腕をナスターシャの首へと回し、右腕の上腕辺りを強く掴んだ。ご存じ、裸締め――バックチョークというヤツだ。
「まあ、あっさり終わらせるんだよな」
「んぐ!……なんだ、こ、ん……なっ……」
「無理無理」
ナスターシャは首に回された腕に手を掛け力を入れるが、ガッチリと決まった裸締めはビクともしない。
徐々に締め付ける力を強めていく隼人。見事に決まった、頚動脈洞だけを圧迫した裸締めはナスターシャに苦痛というものを殆ど与えていなかった。
ナスターシャの長い爪が隼人の腕に刺さる位に強く抵抗するが剥がせない。
直感的に『ヤバイ』と感じたナスターシャは、本能がそうさせるのか『詠唱』を口にする。『魔法』を唱える。
しかし無理だった。言葉が上手く紡がれない。詠唱無くして『魔法』を放つことは出来ないのだ。
焦ったナスターシャはヒールブーツの踵で隼人の足を何度も踏みつけるが、隼人は全く痛みを感じた素振りを見せない。視界がぐらつく。意識が揺れる。
それはナスターシャが生まれて初めて経験することだった。
『なんだ、これは……。な、なぜこんなものが……』
ナスターシャの体が小刻みに震え出す。その震えは次第に激しさを増していく。
ナスターシャは初めて、後ろの隼人に恐怖した――殺される。
騒然とする観衆。衝撃的だった。それはマウロノがリレイアを破った時の比ではない。リーンハルスが誇る『双将』が何も出来ない。させてもらえないのだ。
ガイナははやる気持ちを抑えているのか、拳を強く握り、黙って戦況を見つめていた。
隼人がナスターシャの耳元で言う。
「オレの勝ちだな?」
ナスターシャは頷く。
「よっし」隼人が腕の力を緩める。
隼人が技を解いたと同時に、ナスターシャが膝から崩れ落ちた。
「大丈夫け?」
ナスターシャは咳き込みながら隼人を強く睨む。
「な、何が! けほっ! っ……だいっ……じょ……こほっ! 大丈夫か、だ! 殺す気だったくせして!」




