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「や、止めろぉ!」
叫ぶナスターシャ。両腕使えぬナスターシャは耳が塞ぎたくても塞げない。
いいや、やめないね――愉快。楽しくて仕方がない。隼人はどSかもしれない。
「あのさ? お前って男と付き合ったこととかないの?」
「あ、あるわけないだろ!」
「なんで?」
「な、なんでも何も……ひ、必要無いからに決まっているだろ!」
「ふぅん……じゃあ、当然キスもしたことないんだよな?」
「き、キス? な、なんだそれは?」
「き、キスが分からんのか。じゃあ言い方変えて……接吻もしたことないんだよな?」
「せっ、せっぷん?」
隼人にはナスターシャの頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる姿が容易に想像出来た。隼人は焦りに近いものを感じ始めてきた。
「え? じ、じゃあ口付けは? これなら分かるだろ」
「ど、どういうことだ? 最初の『キス』と『せっぷん』『くちづけ』どれも同じ意味なのか? お前が何を言っているのか私にはさっぱり分からぬ」
マジかー。そう来たかー。隼人は考える。
もしかして、これはナスターシャだけの話ではないのかもしれない。
まわりくどいのは抜きに率直に聞いてみた。
「この世界で、男と女が唇重ねるのって、何て言ってるんだ?」
「何だそれは? なぜ男と女がそんなことをせねばならぬ。不潔だ。汚らわしい」
的中。隼人の予感は大的中。『キス』が存在しない世界でした。
「もしかして、それがお前の言う『キス』とか言うやつなのか? 何のために? 意味のある行為なのか?」
「大事な行為に決まってんだろ。愛情表現よ」
「愛情!? 唇を重ねることがなぜ愛情表現になるのだ!? 言葉で言えば済む話ではないか? 本当にお前は何を言っている? 到底理解出来ぬぞ」
ええええええ!? そこから!? そこからの話なの!? 隼人は頭をとても悩ませた。
少し、今は『胸』のことは考えられない。それほど、まさかの展開だった。
隼人は暫し考える。
そしてふと思い出す。ナスターシャが見せた『キス』に対しての反応を。
そう言えばナスターシャは『不潔』だ『汚らわしい』とか言っていた。
隼人は少し掘り下げて考えてみることにした。この世界の貞操概念を。『もしかして』が隼人の頭を過ぎっていたのだ。
よし。隼人はこれも率直に聞いてみることにした。
「あのよ。ストレートに聞くけどさ。性行為って分かる、よな?」
返ってきた答えは。
「せいこうい? なんだそれは?」
やっぱりかー。やっぱりそうなんかー。
この世界には『性行為』なるのもが存在しておりませんでしたー。
そら『おっぱい』食べられたことないはずだわ。




