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一気に隼人との距離を詰める。ナスターシャの細く鋭い膝が前傾だった隼人の顎を狙って飛んでくる。隼人は体を横にずらし寸でのところで避ける。
「は、はえーな……って!?」
跳び膝蹴りからの派生で、若干強引とも言える角度からナスターシャは回し蹴りを繰り出す。
『マジかっ!』
予想だにしない攻撃に、驚きの顔を見せる隼人。咄嗟に体を逸らして、ナスターシャの蹴りを鼻先かすめて空を切らせる。これには今度はナスターシャが驚きの表情を作った。
隼人が軽く息を吐く。
早い。とかそんな次元のレベルではない。こんな動きをする人間を見たことがない。言ってしまえば『不可能』な動きだ。『浮く』ことが出来るこの世界の人間だからこそ出来る芸当。隼人は最後の回し蹴りを躱しておきながら、自分で自分を褒めた。
また、隼人は軽く息を吐いた。そして笑った。
「あれ? 打撃はしないんじゃなかったっけ?」
「気が変わった。二度と舐めた口がきけぬよう完膚無きまで叩きのめして、お前の性根を正してやることにした」
「なるほど。是非やってもらいたいもんだな」
隼人が仕掛ける。駆けた。一瞬でナスターシャとの距離がゼロになる。
「なっ!?」
慌てたナスターシャが拳を突き出すが、隼人はそれを難無く掌で叩き落とすと、そのままナスターシャの手首を掴む。クン、と引き込み体を入れ替える。瞬く間に背後を取られるナスターシャ。
背後を取った隼人は、すかさずナスターシャの両脇下から両腕を差し入れると、首の後ろへと回し組んで締め付ける。俗に言う羽交い締めだ。
「ぐっ」
ナスターシャが苦悶の表情を浮かべる。力を入れて技を振り解こうとするがビクともしない。
な、何だ、コレは?――ナスターシャが慄く。ナスターシャはマウロノと同じ感覚に襲われていた。しかも背後を取られている。どうすれば。ナスターシャは焦る。
しかし、そんなナスターシャをよそに、隼人は……。
「ん~香しい……ん~良い匂い……サラサラ~」
ナスターシャの髪に鼻を付け、フローラルな香りを堪能していた。
ナスターシャは赤面した。




