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紋章憑き~世界最強の男がやって来た世界は、キスもエッチも無い世界のようです  作者: 琴崎大寿
第一章 ワケも分からぬまま、この世界で最強を目指すことになりました
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「ちっ」


 

さてどうしたものか、と女性に意識を向ける。隼人の眼前に立つ、申し訳程度に、肩から胸を保護する甲冑を装備した女性。


頭には、純白の羽がふんだんにあしらわれたカチューシャ、唇には薄くルージュが引かれ、甲冑の下は薄手ながら上質な生地で仕立て上げられた水色よりも薄い色をしたワンピース。獣皮と白銀で加工されたハイヒールブーツが無駄にゴツゴツしく、上半身とのギャップを感じさせる。


女性を間近で見た隼人。色々な感情が隼人の頭の中をグルグルと回り始めた。


ヤバイくらいの美人さんである。まず隼人が生きてきた中で初めてお目に掛かるくらい、それくらいとびっきりの美人さんである。しかもハリウッドスター? 少なくとも一般人からは到底感じたことのない、何というか、大物感を感じさせるオーラを纏っているみたいな? そんな物を目の前の女性から感じた。こいつは普通じゃない。


『ん? ……普通?』


さっきまで女性が空に浮かんでたことや、竜神とやらの会話を思い出し『今更普通もクソもねぇな』と一人苦笑した。


「何が可笑しい?」


「え? あ、あー悪い悪いコッチの事だから」


女性が右腕を突き出す。その手に、召喚された銀のランス(突撃槍)が握られ矛先を隼人に向ける。


「私の名はナスターシャ・セレンディーテ。お前は何者だ? こんな所で一人何をしていたのだ? しかも服も着ずに変なかぶり物をして」


「え? 今のどうやったの? 手品? てか、これ槍だよな? マジもん?」


「質問に答えろ。ここで何をしていた」


「何もしてねーよ」


「ウソを吐くな。ならなぜこんな辺鄙な場所に一人でいるのか?」


「んなもん知らねーよ。なんでか知らねーけど呼ばれたみたいよ、オレ」


「呼ばれた? 誰に? 貴様の他に誰も居ないではないか?」


「いや、オレも姿は見てねーんだけどな。なんか、竜神……なんだっけ、ラルファだっけ? なんかそんなヤツの声が聞こえてよ? そいつがオレを呼んだってっさ」


隼人の言葉を聞いたナスターシャは驚愕した。


「ラ、ラルファだと? 今、ラルファと言ったのか? お、お前が竜神に選ばれた、だと? そのようなウソを私が信じるとでも思っているのか?」


「ウソって言われてもなぁ。ホントの話だしよ。つか、ラルファって誰なんだ?」


「ラルファは『神』の一人だ。しかも『竜神』と呼ばれる、プリマヴェーラの歴史上最も優れた力を持ったとされるお方の一人だ……しかし」


ナスターシャは隼人に突き付けたランスの切っ先を下げる。


「ん?」


「……こんな話、誰もが知っていることだがな……お前、一体どこの国の人間だ?」


「オレ? 日本よ。名前は隼人。黒澤隼人だ」


「ニホン? クロサワ、ハヤト? 初めて聞く国に、全く聞き慣れない名前だな」


薄々だが内心自分の置かれた状況を気づき始めていた隼人。


ナスターシャの口から出てくる一言一言にに多少の動転はあったものの、嘆息を漏らし『さて、どうしたものか』と暢気に構えるだけであった。彼の性格は至って単純で超が付くほどの楽観的。物事を深く考えない『なんとかなるだろ』精神であった。


「だと思うよ。多分オレこの世界の人間じゃねーと思うしな」


「この世界の人間ではない? 何を言っているのか全く分からんのだが」


「分からんだろ? オレも自分で言っておきながら『あり得ないよなぁ』って思ってるくらいだからな」


「……まあその話は後だ。とりあえず、まずは――お前に解放の言葉を口にしてもらいたい」


「解放?」


「先程のお前の話を聞いてる内に気になったのが、その胸の紋章だ」


「あ、これ? なんか知らない内に出来てたけど、何なのこれ」


暫しの沈黙。


「――もし、お前の話が本当だとしたら……その胸に浮かんだそれは『紋章』、『竜の紋章』だということになる」


「へー、そうなんだ。で? その紋章って何なの?」


ナスターシャは要点を絞って簡潔に説明してくれた。


この世界には人々に崇められる『神』が数多く存在する。


その『神』の力を受け継ぐことによって、属性の上位とも言える超常属性という絶大なる力を手に入れることができる。その力、一騎当千に及ぶとも言われており、そんな『神』の力を受け継いだ者達は『神』から『紋章』を与えられ、人々からは『神代行者』=『紋章憑き』として崇め称えられる存在という。


そして、およそ五百年という長きに渡り、『神の力』が解放されることなく今現在まで空位となっている『紋章憑き』が存在し、それが、先程隼人が口にした『竜神ラルファエンクルス』の力を継ぎし『竜の紋章憑き』と、あと一つ。『巨神バロン』の力を継ぎし『巨の紋章憑き』だということ。


「なーるへそ。それじゃあ、この胸のやつが『竜の紋章』ってことか?」


「それを確認するために、お前に『解放』の言葉を言ってもらいたいんだ。お前が本当に『紋章憑き』になっていたら『解放』の言葉で『神』の力が解放されるだろう。そして一度力が解放されれば、お前が死なぬ限り力の消失はない」


ナスターシャはそう言うと、続けて『解放』の言葉を隼人へ告げた。


言葉を聞いた隼人。流石に緊張の顔が見えた。


「頼む」


ナスターシャの請いに隼人は一回二回と軽く深呼吸をし、気持ちを落ち着かせると解放の言葉を口にする。


「力解き放て偉大なるプリマヴェーラの神々よ」


突如、辺り一帯がまるで夜になったみたいに暗くなった。


「うおっ!?」


突然のことに、驚いた反応を見せる隼人。ゴクリと喉を鳴らし、隼人とは違った驚きの反応を見せるナスターシャ。


「ほ、本当に竜の力を受け継ぐ者……だったのか?」


「お、おい! ど、どうなってんだコレ?」


「大丈夫だ。これで問題ない。そのまま続けてくれ」


ナスターシャの言葉に、隼人はコクコクと頷き残りの言葉を口にする。


「そ、その力、今この時よりオレがもらい受ける――オレの名は黒澤 隼人――『竜神』に選ばれし者!」


隼人の声が闇夜となった世界に響き渡る。


一秒、二秒、三秒、と静寂が辺りを支配するなか、隼人の胸に浮かび上がった『紋章』が光り輝く。


刹那。


耳を劈く裂音と共に闇夜を貫き現れた一本の光柱が隼人を直撃した。


ほぼ絶叫に近い叫び声を上げた隼人であったが、それは条件反射的なもので痛みは一切感じなかった。


闇夜はまるでガラス細工のように割れ散って日常の世界へと戻った。


心臓バクバク。汗をダラダラ流し片膝を付く隼人。


隼人の方にナスターシャは歩み寄ると手を差し出した。


「解放完了だ」


隼人は差し出されたその手を掴むと、生気が感じられない掠れた声でポツリ呟いた。


「……し、死んだかと思った……」


「大袈裟だ」


ナスターシャはそう言って笑い、隼人を引き起こすと自分の胸を見るよう促した。


「なんじゃ、コレ!」


自分の胸へと視線を落とした隼人は驚きの声を上げた。


そこには先程までの『体を丸め込み眠りに付く竜』ような紋章ではなく、大きさが右上半身全体に広がるような形で、まるで――生きるモノ達全てが決して逆らうこと抗うことの出来ぬ絶対的な力の象徴を見せ付けるように大きな翼を広げ、空に向かって咆哮するかのようなシルエットエンブレムが浮かび上がっていた。


「まさか、お前の言ったことが本当であったとはな」


「で、これでオレってばどうなったんだ?」


「うむ。先程も言ったが、これでお前は『神』の力を得たことになる。しかし――」


「しかし?」


「『竜神』の力が一体どれほどのものなのかは私には分からぬ」


「ふぅん。でもスゴイことには違いないんだろ?」


「それは間違いない。そうだな……」


そう言ってナスターシャは細い顎に手を持っていくと視線を落とし考える仕草を見せる。


じきに考えが浮かんだのか視線を隼人へと戻すとこう告げた。


「今日の夜に行われる隊対向の『神撃』に出てみないか? 解放終えたばかりのお前の慣らしには丁度打って付けだと思うしな」


「しん、げき? なんだそれ?」


「簡単に言えば、武器を一切使わない一対一の試合形式の喧嘩だ」


「へぇ」


「それに、お前のその体付きを見た感じだが、恐らく素人ではないんじゃないか?」


「え? 分かる?」


「やはりな。で、どうする? 出てみるか?」


 最初の『試合形式の喧嘩』と聞いて隼人の気持ちはとうに決まっていた。ウズウズしていた。


「予定の試合もおじゃんになってアレだったし、それにこっちの格闘技のレベルってのがどんなものかも少し興味あるしな。いいぜ、出ても。てか出たい」


「よし決定だ。それでは早速街へと戻るとしよう」


「戻るって、近いのか? アンタみたいに空飛べねーぞ、オレ」


「リリマーレンを喚べば良いだけだ」


「リリマーレン?」


「来い、リリマーレン」


ナスターシャが一言そう言うと、空には大きな魔法陣が出現する。 その魔法陣が割れて開いていくと、奥から一頭の羽を生やした白毛の巨馬が勢いよく跳び出しナスターシャの前に降り立った。


唖然とする隼人。ポツリと呟いた。


「……マジでファンタジー」

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