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紋章憑き~世界最強の男がやって来た世界は、キスもエッチも無い世界のようです  作者: 琴崎大寿
第一章 ワケも分からぬまま、この世界で最強を目指すことになりました
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「ご武運を」


階段両脇に立つ衛兵の言葉を背にして隼人は階段を下りる。


底が見えない程の長く薄暗い階段を下りていく隼人。一歩一歩と下り『ソコ』に近づくにつれ、小さかった『ソレ』は大きくなっていく。


音の正体『ソレ』がやがて、歓声、悲鳴、野次、怒号だと分かると否応にも隼人は高揚感を覚え始める。しかし、隼人は音の正体に若干の違和感を覚えた。


踊り場を何度が過ぎた先に明かりが見えた。出口だ。もうこの時には観客と思われる大きな声がまるで地鳴りのように響き、隼人を震わせる。


出口の手前、優しそうな笑みを携えた一人の男性が頭を下げ隼人を迎える。恐らくこの男性がナスターシャの言っていた『受付』のことなのだろう。


隼人も小さく頭を下げた。


「お待ちしておりました。今宵のメインイベンターをお勤めなさいます、『竜の紋章憑き』クロサワ ハヤト様でございますね?」


「オレ、メインなの?」


「当然でございます。二人の『紋章憑き』が出られます『神撃』が前座のワケがございませんよ」ニコリと笑う男性は、こう言葉を続ける。


「今年最大のビッグマッチでございます。では行きましょうか――」


「おうよ」


隼人は受付の男性と並ぶようにして所々コケの付いたレンガ造りの広い通路を歩く。


隼人は前を見たまま隣を歩く男性に尋ねた。


「なあ? 今、試合やってるんだよな? たしかこの国の副将軍と、余所の国の副将軍ってのが」


「左様で――リレイア様とヴァティスガロ帝国のマウロノ様でございます」男性が答える。


隼人は先程覚えた違和感の理由が分かった。


『歓声』が全く聞こえないのだ。大きく聞こえてくる声の全てが怒号だった。その怒号の質は、ヘタをすれば人を殺しかねないほど。


隼人は直感的に、これ……やべぇだろ――と感じると、同時に歩く速度が上がった。駆けた。


「あ、ハヤト様!」


男性も慌てて追いかける。


通路を抜け出た先。薄暗い空間を歩き続けた目には少しばかり堪える眩い光が隼人を迎え入れた。


 隼人の目に映るのは、歴史の教科書やネットで見たことのある円形闘技場……そうコロッセオそのものだった。感動、本当ならそうだったはず。


しかし、隼人の目に映る、目の前で繰り広げられる光景が、それを許さなかった。


「……んだよ、これ……」


一人の女性が一人の男性にやられていた。しかも一方的に。


追いついた男性が隼人の背後から言う。


「ただいまリレイア様とマウロノ様の隷属戦でございます。お下がりになってください」


リレイアとマウロノの隷属戦が行われる真っ直中。隼人が出てきたのは二つある闘者専用の入場口の一つ。隼人のすぐそばで二人の隷属戦が行われていた。


マウロノの拳が、蹴りがリレイアを襲うたびにリレイアの体が宙を舞う、地を跳ねる。


リレイアは足の力だけで立ち上がろうともがくようにして体を動かす。その姿はまるで芋虫のよう。リレイアの両腕は肩から折れていたのだ。


「え? 何、もう終わり? よわっ。こんなので副将軍が務まる国ってどうなのよ? え、どうなのよって!」


笑うマウロノが、もがき立ち上がろうとするリレイアの顔を容赦なく蹴り上げる。


這い蹲るようにして倒れるリレイアの、血で赤く染まった髪を掴んで引っ張り起こす。


「……っく。はな……せ」


弱々しく抵抗を口にするリレイア。


マウロノはその様子に笑みを作ると、容赦なくリレイアの顔面に拳をめり込ませた。


「がはっ」


血にまみれた顔面。一瞬白目を剥いたリレイアの目から涙が飛び散った。泣いた。


闘技場を包んでいた怒号はいつの間にか消えていた。繰り広げられる凄惨な出来事に闘技場内は静まりかえっていた。実力が違う。ヴァティスガロとはこれ程のものなのか、と畏怖をも抱き始めていた。


そして隼人は怒りを覚えていた。


「……なんで誰も止めねぇんだよ」


「え?」


隼人は震える声で言うと闘者達の舞台へと足を踏み入れた。

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