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報告書の内容を読み終えたリリスは視線を落とす。言葉が出てこない。
原因は、それぞれの目の前に置かれた三枚の報告書であった。
アルベセウスとガイナの二人は腕を組み、黙る。ナスターシャは、一度目を通した報告書を再び手に取りパラパラと軽く流し見る。
そんな中、最初に口を開いたのは赤髪のガイナであった。
「どうするよ。今回のコレは少しばかり厄介だぜ?」
ガイナは報告書を手に取ると、一枚、二枚、三枚と広げて置き、見せる。
どうやら報告書には、よろしくないことが書かれているようだ。ガイナは皆が報告書を読んだ上で、一人話を進める。
「ま、この紙に書かれてる通り、『魔の紋章憑き』はもうじきここにやってくるだろう。姫様の持つ紋章の力を求めてな」
「そいつは問題無い。私が相手をすればいいだけだ」
アルベセウスは鼻で笑い一蹴した。
「はっ、お前ならそう言うと思ったよ」
ガイナは笑う。しかし、すぐに険しい顔に戻る。
「だがな。過信だけは絶対すんじゃねぇぞ? お前はいつも相手を見下す癖があるが、最初から本気でいけ。そしてこの戦いに誇りなんていらねぇ。姫様の持つ紋章の力が外部に漏れることだけは絶対に許されねぇんだからな」
少しばかり興奮したガイナは、アルベセウスの方に身を乗り出しテーブルをドンと叩いた。
「……『戦乙女ワグナス』の紋章。この紋章を持つ姫様自身には何ら力はない。だが、姫様の伴侶となる契りを交わした者には絶大なる力が与えられる――心配するな。私もアルベセウスも、何が一番重要であるかくらい分かっているさ」
ガイナとアルベセウスの会話に、ナスターシャが勝手に割り込んできた。
「……ほんと頼むぜ」
ガイナはイスに腰を下ろすと、残り二枚の紙を手に取った。
「……問題はこっちだ。東のダンテ、西のルベリコットが同盟を結んだことだ。これは流石にやばいことになるぞ。なんてったってダンテには『剣の紋章憑き』、ルベリコットには『盾の紋章憑き』がいるんだからな。まさかその二国が組むことになるとはな……俺達が束になっても勝つことは難しいぞ」
「問題無い。ダンテとルベリコットが同盟を結んだとしても、即、我が国へと侵攻を始めることはないだろう。知っての通り、ダンテは南のバティスガロと戦争中だ。そんな中でダンテが我が国へ攻撃を仕掛けるのは自殺行為と言っていいほど無能で無謀なことだ。十中八九、この二つの国の同盟はバティスガロを一気に叩く為のものであろう」
「……そうだといいんだがな。で? もしそうだとしてだ。アルベセウス、お前はどう思う? あのバティスガロが落ちると思うか?」
「まあ、まず無理だろう。バティスガロにもダンテやルベリコットに引けを取らぬ有能な紋章憑き達が存在する。中でも帝王ザンドレッドに、『神子の紋章憑き』である、将軍サイ・ザ・レベリーの戦闘力は桁が違うからな。ただ、剣と盾との紋章憑きを抱えた国同士の同盟が、どれほどの相乗効果を得ることになるのかは私にも分からん。太古の時代、剣と盾の神は一心同体であり、『最強』の一人にも数えられていた程だからな」
「んだそれ。結局お前にも分からねぇってことかよ」
「ふっ、そう言うことだ」
「しかし――余所がどうなろうとも、勢力図が変わろうとも、いずれにせよ我が国は世界各国から狙われる宿命なのだ。日々覚悟だけは持っておかねばならない」
ナスターシャのその言葉に、ガイナとアルベセウスは黙って頷いた。




