12
時刻は夜の食事も終えた七時過ぎ。『神撃』まで後二時間と迫った頃。
限られた者達だけが歩くことを許された廊下に、軽やかに走る足の音が響き渡る。
食後の全力走。長く金色に輝く髪が乱れるのも、スカートがひらりひらりと派手に舞うのも気にせずに、一人の女の子が走る走る。横っ腹が痛くなり始めた頃に目的である部屋の前に到着した。
勢いそのままに扉を豪快に開く。
「遅れてしまい申し訳ありません!」
慌てた様子で円卓の置かれた部屋に入ってきた人物は、国を支配するにはあまりにも幼く、そして可愛すぎる王国の女王リリス・アン・コルタドールだった。
日が暮れ、明かりの灯された部屋には既にアルベセウス、ナスターシャ、隼人という面々が円卓の席に着いていた。なぜかアルベセウスとナスターシャの二人の表情は硬い。
隼人の顔を見たリリスは小さく「わぁ」と呟くと、ナスターシャが引いた椅子に腰を下ろした。振り返り、お礼を笑顔で返すリリス。
ナスターシャは笑顔を向けるリリスに笑顔を返すと、「走ってきたのですか? 姫様、もう少しお淑やかになりましょう」と言い、その乱れた髪を手グシで優しく整え、隼人の隣、自分の席へと戻っていった。
「……この女の子がこの国で一番偉いの?」
隼人は小さくボソボソとナスターシャに聞いてみた。コクリ頷くナスターシャ。
「……マジか」
隼人がリリスに視線を向ける。リリスも隼人の方を見ていたようで丁度目が合った。
リリスが微笑む。……か、可愛いじゃねーか。少し胸がときめいた。
見た感じは十代半ばか。リリスのパチッとクリッとした大きな目の瞳は青く澄み、金色の髪は大袈裟でも何でもなく、まるで透き通ってるかのように綺麗で美しい。長い髪は結い上げてポニテにしてくれた方が断然好みだ。と、隼人は個人的に思うのだった。
視線を席上に戻す。
円卓の席には中央にリリスが、リリスから向かって右にアルベセウスが、向かって左にナスターシャと隼人は並ぶように座っている。
リリスの小さな顔が爛々と『早く早く』と右、左と、キョロキョロと忙しなく動き、進行を促す。
コホンと一つ咳払いしたアルベセウスが話し始める。
「それでは話を始めたいと思う」
「お願いします」
リリスの声にアルベセウスが小さく頷くと話し始めた。
「まずは――姫様も既にナスターシャからお聞きになったと思いますが、我が王国に新たな『紋章憑き』が加わることになった。その『紋章憑き』というのがそちらの彼、クロサワハヤト。ハヤト、姫様にご挨拶をお願いする」
アルベセウスに紹介された隼人が困惑な表情で立ち上がると、頭のあまりよろしくない隼人なりにリリスに向かって頭を深々と下げた。




