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何というか、ドヤ顔に近い感じで言うナスターシャ。
それに対して、意表を付かれたかのような、驚きに近い表情を見せるアルベセウス。アルベセウスのそれとは違った意味の驚きの表情を見せる隼人。
「勘弁してくれよ……冗談だろ?」
「心配するな、間違っても本気を出すようなことはしない」
強者の余裕かのような、両手を腰に当て一層ドヤ顔感を強調して言うナスターシャに隼人は――ダメだ、こいつ勘違いしてやがる――と、ポカーンと一瞬口が半開き状態になった。
「ち、ちげーよ。そう言う意味で言ったんじゃねーよ。オレが言いたいのは、女殴る趣味は無いってことよ」
「何とも優しい気遣いなことだ。だがしかし、それは無用だ。何しろお前の攻撃は一切私に当たることはないだろうからな」
「彼女を普通の女性と思わないことだ。色々と制限を掛けた『神撃』とはいえ、『紋章』を持った彼女の『基礎的能力』は人間のそれを遙かに超えているのだ」
それを聞いた隼人は鼻で笑う。
「アホか、それを言うならオレも『紋章』持ってんだから同じ条件だろ」
「それが違うのだ。『紋章憑き』として得た経験値は『基礎的能力』へと大きく反映されていく」
「経験値? 『基礎的能力』? なんかアレだな。ゲームでいうレベルアップからのステータスアップみたいな感じ? 要するに、戦えば戦うほど強くなっていくってことか?」
「まあ単純に言えばそうだ。キミの現在の『基礎的能力』がどれほどのものかは分からぬが、ナスターシャに関して言えば、彼女は既に三〇を越える実戦を積んできている。わかるだろ? この時点でキミとナスターシャでは『基礎的能力』に大きな差があるのだ」
隼人は肩を竦める。
「はいはい。とりあえず、お前は強いオレは弱いって図式なんだろ? お前等の頭の中では。その舐め腐った思考オレが粉砕してやるからな。覚悟してろ」
「楽しみにしてる」
最後まで余裕の表情を見せる二人に隼人は、しかめっ面をし舌打ちするだけだった。
そして時は少し遡る。
『双神』の紋章憑きを抱えるリーンハルスから遠く離れた西の地。
剣士らしき一人の青年が、突然暗くなった空を見つめる。青年の肩には、自分の身の丈ほどの長剣が提げられていた。青年は大袈裟に大きく溜め息を吐くと、眉間に手を当てヤレヤレと言った感じで首を左右に振った。その顔は口元をつり上げ、不気味に微笑む。
「僕は少しご機嫌斜めになりそうだよ」
一人喋り始める青年。身振り手振りを交えたそれは一人喜劇にも見える。
「ヴェルゼモーゼス。キミは『最強』じゃなかったのかい? なんだいこれは? キミも感じてるよね? ヴェルゼモーゼス……この突然現れた、えもしれない『気』の塊はなんだ?」
青年はゆっくりと右手を天に突き出し、パッと開く。右手の甲には紋章が刻まれていた。
「どこの『神』だか知らないけど……僕を怒らせるのは感心しないなぁ」
先程までの笑顔だった表情は消えさり、負の感情を露わにする青年。
青年は背筋も凍るような冷徹な目で、東の方角を睨む。僕を不快にさせるヤツはそこにいるんだね。青年はまだ見ぬ敵を睨み続けた。
「まってなよ『化け物』。直に僕が『喰らい』にいってあげるからさ。『最強』はこの僕――ケイヒル・バウナー・ラウ・カウンスだ」
青年の嘲り笑う声が『夜』空に響き渡る。……世界に『最強』は二人もいらないよ。
作られた『夜』空に突き出した右手。紋章が血の色に輝いた……




