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私の気持ちとお前の気持ち。

作者: 椎名真鈴

 仕方ないでしょ、これが私なんだから。と、いつも言いたくなる。

 城戸陽菜(きどはるな)とは中学に入学してから仲が良くなった。中学三年となった今では親友と呼んでもおかしくない存在だと思っている。私は陽菜に話せないことはないし、彼女も私にはなんでも話せる、と言っていた。

ただ、私は彼女に対して怒りに似た感情を抱く時がある。今がその時だ。

「今スイッチ、入ったね。」

陽菜のその一言は私の機嫌メーターを一気に落とす。

陽菜が言うには、私はふとした瞬間、幼稚園児のような行動をし小さな子供のような声を出すそうだ。つまりスイッチとは“幼稚園児スイッチ”のことだ。陽菜が勝手にネーミングしたものだが。

 確かに傍から見れば、男ウケを気にしている性質(たち)の悪い女のようにも見えるだろう。だけど、私にそんな気持ちなど一切ない。

私自身、それに気づいたことはない。つまり、無意識というやつだ。それなのに陽菜は、男好き、とでも言うような目で私を見てくる。口元は笑っているが、目が笑っていない。もともと一重で大きくのない目が私を見つめる。その目を見ているとじりじりと追い詰められるような、そんな気がする。

陽菜が何を思ってこの言葉を言っているのかは私にはわからない。陽菜だって無意識に出てしまう言葉、なのかもしれない。

 人の心を知ることは私にはできない。できる人なんているのだろうか。

「私の気持ちくらいわかってよ。」

「俺の気持ちなんかわかんねぇだろ。」

そんな言葉を聞いたことがあるが、気持ちとは実際に体験した事のない人にわかるくらい単純なものなのだろうか。

どれくらい嬉しいかなんて、どれくらい辛いかなんてわかってほしくない。

だって、お前にわかるほど私の気持ちは単純ではないのだから。

と、私は思う。

 だから、陽菜が何と思おうと私の知った事ではない。私がなんと思おうと陽菜なんかにはわからないだろう。それでも構わない。私の気持ちとお前の気持ちは全く違うのだから。

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