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人魚、ダンジョンから出される。

 空はまるで吸い込まれるかのように澄んだ青が何処までも続いていく。雲もまばらに存在してるが、それは決して空の蒼さを濁すように薄く広がるのではなく、空にそれなりの間隔を開けながら点々と空を浮かんでいる。

 正午を過ぎ、真上を過ぎた太陽の煌めきは地上へと降り注ぎ、地表にいる全てのものはその暖かで偉大な光を浴びる。

 ただ、その太陽の光を反射し、押し戻そうとしているのが海だ。

 波打つ水面が太陽光を反射して煌めき、直視すれば太陽を直接見る程ではないが目を傷めてしまう。

 海も天に広がる広大な空と同じように、性質の違う青さを持って何処までも何処までも広がっている。

 空と違い、雲が覆う事はないが波が立ち、常にうごめいて景観を巡るめく変化させていく。

 時折、水面下で泳いでいる魚が飛び跳ねたり、それを狙って鳥が海に潜り、嘴や鋭い鉤爪を持つ足で魚を捕える。また、魚を狙う鳥を更に狙うかのように鮫や海洋のモンスターが潜って来た所や水面に近付いて来た所を一気に咢を開けて食らい付いていく。

 そんな海をセイルは眼下に捉えていた。

 その日――ダンジョンに転移される前――は水の中からでも確認出来た太陽を軽く浴びて体を温めようとでも思い、家族に一言告げてから護身用の短槍を携えて海の外へと赴いた。

 水面から顔を出したセイルは一度燦々と輝く太陽に目をやり、あまりの眩しさに手を翳して目に直射させるのを防ぐと、辺りを見渡して何処か日光浴をするのに適している場所は無いかと捜し出した。

 日光浴をしようと思ったのは特になんて事はない。太陽の光に当たりたいと思っただけだ。別に体温調節の為に太陽に当たるようにする必要と言うのは無く、人魚の中には一生を水の中で過ごす者さえもいる。なので、人魚にとっての日光浴とはいわゆる趣味にも等しいのだ。

 ぐるりと辺りを見渡したセイルは、遠くに陸に面した丁度よさそうな岩場があるのを見付け、そちらへと泳いで行った。岩場は少々高い崖を擁しており、そのままロッククライミングの要領で海側から昇るのには辛く、また陸に上がってから岩場に向かうのにも一苦労する立地となっていた。

 それならば岩場の直ぐ隣の砂浜で波を感じながら日光に当たれば労せずに目的を果たせそうなのだが、セイルはそうしなかった。何となく、あの岩場で日光浴をしたいと固執的な欲に駆られて岩場の上を目指した。

 海側からのロッククライミングも、陸地経由も人魚にとっては苦難となるが、セイルは別の方法で岩場の上へと赴いた。

 セイルは岩場付近まで到達すると、一度海にそれ相応に深く潜り、視線を上へと向け、そして勢いよく上方向――それも少し斜めに向けて泳ぎ出した。そのまま水面に顔を出すが、勢いが削がれる事も無くセイルの体は宙へと躍り出た。

 海から飛び出たセイルはそのまま弧を描くように空を移動し、勢いが削がれて頂点に差し掛かり落下しそうになった所で岩場へとその身を着地させた。

 普通に飛び出しただけではこうも上手く勢いを落とした上での着地は出来ず、セイルはそれを踏まえた上でどのくらい潜るか、飛び出すまでの速度はどれ程かをある程度予測して実行したのだ。

 実行は成功し、セイルは怪我をする事も無く岩場に着地すると、尾ひれを岩場の端から垂らすようにして腰を落ち着かせた。短槍を脇に置き、セイルは青く澄んでいる空へと視線を向ける。

 海の中からではあまりよく見えない性質の違う青さを誇る空を見上げたセイルは、自分の体を温かく熱してくれる太陽光を受けてやや微睡みそうになる。そうなりながらも空に浮かぶ雲の変化をその目に映していった。

 移り行く雲、餌を求めて大空を飛ぶ鳥を目で捉え、吹き抜ける風は潮を含んで少々べたつくが、それでもあまり気にならずにセイルにとっては水の中では感じる事の出来ないものとして心地いいと思った。

 三十分以上も日光浴をすると、完全に微睡みに負け、こくりと首が前後にと不意に動いてしまったが、セイルはあまり気にせずになるがままにしていた。

 微睡みに負け、意識が散漫になっていたのが原因だった。

 敏感な聴覚を持っている人魚であるが、普段の状態ならばいざ知らず、リラックスして注意を怠っていたので聴覚は本来の機能を発揮出来なかった。

 セイルが気が付いたのはある意味で運がよかったのだ。

 背後でじゃりっと小石を踏んだ音が聞こえたのだ。

 微睡みに負けそうになってたセイルはそれを頑張って払い除けてばっと首を回して後ろを振り返った。

 すると、目よりも上に太陽光を反射する海とは違う太陽の煌めきを反す白い何かが左から右へと駆け抜けた。また、彼女の目の前にはあまり見かけた事が無かった人間の男がそこに立っていた。

 よく見れば、人間は剣を握っていたのだ。

 それを確認した一瞬後に、セイルの視界に赤い何かが下りてきた。そして、鋭い痛みが額に走ったのだ。

 手を額に当てると、どろっとした赤い液体――血液が多量に付着していた。

 どうして血が出ているのでしょう? と訳が分からなかずにパニックになりかけたセイルはそれでも何とか平静を装い、未だに額から血を流しながらも、目の前の人間へと視線を向けた。

 そして悟った。人間は剣を持っている。その剣の刀身は白い。骨よりも寒々しくはないが、セイルはその白がどうも好きにはなれなかったと思い、それと同時にあの白は先程目の上を通過した白と同じであったと分かった。

 つまり、だ。

 セイルが額から止めどなく血を流しているのは、目の前の人間が手に持った剣で切り掛かったからに他ならない。

 それを理解してしまったセイルの顔には恐怖が支配した。

 殺される、と。

 理由は分からないが、自分は人間に殺されてしまう、と。

 恐怖で体が強張って震え出し、奥歯をカタカタと鳴らし始めた。眼には涙が滲み始めていた。護身用にと持ってきた筈の短槍の存在を記憶から一時的に消してしまい、為す術がないと誤解してしまった。

 いや、短槍を持ってきたと忘れなかったとしても、こうもセイルの体から自由が奪われてしまっていれば、どちらにしろ短槍を操って退ける事も出来なかっただろう。

 恐怖に震えるセイルを見ていた男は何食わぬ顔で先程振り抜いていた剣を一度戻し、再びセイルから見て左から右へと薙いだ。先程とは違い、額に向けてではなく、セイルの腹に向けての斬撃であった。

 恐怖に震えるセイルに回避する余裕はなかった。

 だが、天はセイルを見放さなかった。

 首を回して後方へと振り向いた姿勢を取っていたセイルは人間の取った行動によって恐怖が限界まで達してしまい、意識を失った。それによって崖の端に腰を下ろしていた体は均衡を失い海へと向けて真っ逆様に落下していった。

 そのまま海にでも落ちていれば、意識を失ったままのセイルは血の匂いで集まってきたであろう海洋のモンスターに抵抗出来ずに蹂躙され骨も残さずに食われて死んでいただろうが、セイルは海には落ちなかった。

 きっかけは彼女の尾ひれだった。

 セイルの尾ひれが崖のある一部を叩いた。それがトリガーとなり、岩場に埋まっていた転移陣を発動させたのだ。

 セイルと、それと人間の男は転移陣から放たれた黄金色に輝く光に飲み込まれ、その場から消え失せた。意識を失っていたセイルは自分が転移陣を発動させた事も、それから発せられた黄金色の光に飲み込まれたのも記憶に刻んでいなかった。

 それから少々経ってから目を覚ましたセイルは直ぐに喉の渇きを覚えた。あまりにも血を流し過ぎていた為に体が危険と判断して即座に水分を要求し出したのだ。

 そんなセイルの目の前には、一人のゴーストがいた。彼女はゴーストに水を求めるとまたもや意識を手放してしまった。

 それから目を覚ますと、セイルの額には包帯と言う彼女が知らなかった物が巻かれており、血を止められていた。

「あ、目が覚めました?」

 と、目の前に浮かんでいたゴーストが目を覚ましたセイルを見ると胸を撫で下ろして安堵の息を吐いた。

「よかった。あ、これ水です。一気に飲まないでゆっくりと飲んで下さいね」

 ゴーストは水筒と呼ばれる水を入れる容器をセイルに蓋を開けた状態で手渡した。

「……え?」

 セイルはゴーストの行動が分からずに目を瞬かせながらそれを受け取った。

「結構血を流してたので、流れた分を補う為にもどうぞ。全部飲んでも構いません」

 優しく微笑みながらもゴーストはセイルに水を飲むように促した。セイルは水筒の口から中を覗くように目を近付けて確認すると、確かにそこには水が入っているのが見て取れた。

「あの、この水は?」

「僕が持ってた奴です。すみません、今それしかなくって」

 セイルの問い掛けにゴーストはすまなそうな顔をする。

「……あなたの、分は?」

「僕の事は気にしないで下さい」

 その発言はつまり、この水は本来ゴーストの飲み水であったと言う事だった。セイルは辺りを見渡し、ここには水が存在しない事を見て取れると、これだけしかない水は貴重なものだと即座に理解し、水筒をゴーストに渡すように腕を伸ばした。

「ですが」

「いいから」

 ゴーストは首を横に振り、身振り手振りで水を飲むようにセイルに催促をした。セイルはすまなそうな表情を作り、軽く頭を下げてから水を口にした。水は体中に染み渡るかのようで、失われた水分が少しであるが補給されたのだと感じられた。

 これがセイルとゴースト――トウカとの出会いであった。

 トウカはその後もセイルを放って置く事なぞせずに安全な場所まで運び、何かを堪えながらも彼女の為に出口を捜す事までした。

 セイルはトウカには頭が上がらない思いであり、これ以上負担を掛けたくない、何か役に立ちたいと思うようになった。

 今から一週間前には荷車に乗りながらトウカと同行して出口を捜した。その際に荷車を引いていたのがトウカだったので結局負担を掛ける結果となってしまったと消沈したりもしたが、トウカをティアーキャタピラーの群れから守る事が出来、彼から感謝の言葉が貰えたので、役に立てたと嬉しくなった。

 その日の夜に遠くから泣き声が聞こえて目を覚ませば、トウカがいなくなっていたのだ。それを一緒に寝ていた風の精霊であるシーフェを起こして伝えると、彼女は即座にトウカを捜しに出て行った。

 そしてシーフェが戻ってくると、意識が無く、息もしていないトウカも一緒になって帰ってきた。

 そこから一週間、セイルはトウカの為にと彼を抱き締め、歌を歌って回復を促した。

 目を覚ましたトウカから、自分が人間だったと訊いた時には驚いたが、それでもトウカはトウカだとして彼を怖がる事をしなかった。それよりも、堪えていたものが爆発してしまったトウカの傍にいて彼をさせたいと思うようになった。

 トウカが目を覚まして直ぐ後にシーフェが話があると言って彼を隠し部屋から連れ出していった。その際にセイルに注意するような旨を伝えた。

 セイルは注意をしていたが、合図となったノックが聞こえると警戒を解いて行けの中から上半身を出した。

 すると、彼女の左腕がもがれた。セイルは一体何があったのか分からずに激痛の走る左肩を抑え、痛みに耐えかねて声を上げ、池の底へと落下していった。

 そして、池の底で自分の左腕をもいだ存在を見付けてしまった。

 それは紛れもなく人間であった。彼女に恐怖を植え付けた存在はトウカと同じ顔をしていた。

 嘘、とセイルは何度も心の中でその単語を羅列していった。

 トウカがどうして自分を傷付けるのか?

 トウカがどうして人間の姿をしているのか?

 トウカがどうして自分をさも興味も無いような目で見てくるのか?

 セイルには分からなかったし、分かりたくともなかった。

 状況が呑み込めずにいたセイルは、何時の間にか馳せ参じていたシーフェに引っ張り上げられて、荷車に乗せられて移動させられた。

「セイルさん! しっかりして下さい! セイルさん!」

 ふと、彼女の鼓膜に訊きたかった、けど訊きたくも無かった声が打ちつけられた。

 彼女はのろのろと瞼を上げて声のする方へと視線を向けると、そこには先程自分の腕をもいだトウカの顔があった。

「きゃぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼」

 恐怖に駆られたセイルはトウカの顔を見るなり金切声を上げた。そして、少しでも遠ざかる為に、少しでもトウカの近くにいかないようにと身を捩った。

「セイルちゃん! 落ち着いて!」

 恐怖に顔を歪めるセイルの視界にトウカが入らないように体を割り込ませたシーフェがセイルの体を押さえつけながらも耳元で確かにこう言った。

「セイルちゃんを襲ったのはトウカくんじゃない! トウカくんはセイルちゃんにそんな事しないの分かるでしょ⁉ だから落ち着いて!」

 セイルの耳には確かにそうは言ってきたのだが、直ぐ傍に自分を襲った存在と同じ顔をした者がいるとなると、冷静に言葉を解釈しようとする機能が損なわれていて意味が理解出来ないでいた。

「御免セイルちゃん! これ呑んで一回眠って!」

 喚き散らすセイルの口にシーフェは睡眠薬を流し込み、無理矢理に彼女を静かにした。

 セイルは、そこから先は寝ていた為に記憶が無い。また、強制的に眠らされた事により一時的ではあるがトウカの顔をした人間――リビングデッドに襲われた前後の記憶が封じ込められた。

「…………ん」

 睡眠薬の効果が切れると、セイルは気怠い感じがしながらもゆっくりと瞼を上げていく。

「ここ、は?」

 そう呟くと左肩付近に痛みが走り、右手で抑える。

「おはよう、セイルちゃん」

 と、視界の上の方からシーフェが顔を出して挨拶をしてくる。

「おはよう、ございます」

 呂律がやや回らない舌で必死に挨拶を返すと、シーフェはセイルの視界から外れる。

「トウカくん、セイルちゃんが目を覚ましたよ」

 シーフェがトウカに向かってそう声を掛ける。

「トウ、カ様…………っ⁉」

 トウカと言う単語で一時的に封じられた記憶が一気に雪崩れ込んでくる。

 だが、だからこそ奇妙でもあった。

 左腕をもがれた筈だが、セイルにはきちんと左腕の感覚があったのだ。それが理解出来ずにいながらも、トウカが近くにいると分かると、それだけで体が震え出す。

「セイルさん、さようなら」

 トウカは、決してセイルの視界に入らないようにしながら別れの挨拶をする。

 それがどんな意味を含んでいるのか、セイルには分からなかった。もしかしたら、命を刈り取ろうとする前の台詞なのでは? とさえも疑ってしまう。

 しかし、トウカはセイルの命を取ろうなぞ思ってもいない事が次の言葉から伝わった。

「怖い思いをさせて、すみません。セイルさんは家族の下に帰って、もう二度と、こんな危険な場所に来ないで下さいね。それが、セイルさんの為ですから」

 それは、心の底からセイルの事を想っての発言だった。いくら自分を傷付けた相手がトウカだったとしても、それ以前のトウカを知っているセイルは彼の心遣いまでは忘れておらず、恐怖が薄まったのを感じ取った。

「僕の所為で、人間だった僕の所為で、怪我をさせてしまって、すみません」

 トウカの謝罪に、セイルは目を見張る。

「今、何」

 て言いました? と訊き返す前に、トウカは告げる。

「もう、あなたを襲ったのと同じ顔をしてる僕の顔を見る事が無いので、安心して下さい。シーフェさん、お願いします」

「任されたよ」

 セイルがトウカに詳しく訊こうとするよりも早くに、セイルの体が勝手に動き出す。いや、彼女の体が動いたのではなく、地面が動いているのだ。そこで、彼女は自分が荷車に乗せられているのを思い出す。

 真実を彼から告げられないまま、セイルの視界には実に久しく見ていなかった、太陽が顔を出している空が眼に入った。

 つまり、セイルはダンジョンから出て来れた事を意味している。これで、海へと帰る事が出来るのだ。

 しかし、セイルにとってはそれは些末な事でしかない。

「トウカ様っ!」

 痛む左肩を抑えながらも上半身を起こして後方を見やるセイルはトウカに真実を伝えられていない。真実が分からぬままに、勝手に外に連れ出されるのは納得がいかなかった。なので、セイルはどんどんダンジョンから遠ざかっていくとしてもその間にトウカに真実を話して貰おうとしたのだ。

 だが、後方にあるぽっかりと空いたダンジョンへと続く出入り口にはゴーストの姿は無かった。

「トウカ様っ!」

 もう一度ゴーストの名前を呼ぶが、小さくなっていく洞窟から姿を見せる事は無かった。

「シーフェさん、止まって下さい!」

 荷車を引くシーフェに止まるようにせがむが、シーフェはセイルに背を向けたまま首を横に振る。

「止まってあげたいのはやまやまなんだけどね、そうするとトウカくんとの約束を破っちゃう事になりそうだし」

 シーフェが引く荷車はどんどんと速度を上げていく。木々が生い茂る山道もなんのそのと突き進んでいく。

「約束って何ですか⁉」

「セイルちゃんを家に送り届ける事だよ。トウカくんは、それを望んだんだ。僕といると、怖がるだろうって言って」

 シーフェの言葉と先のトウカの発言によって、真実は分からないまでも、ある程度の確信は持つ事が出来た。

 自分を襲ったのは、トウカ自身ではないと。

 そもそも、襲い掛かってきたのはトウカと同じ顔であったが人間だったのだ。襲われて直ぐに顔を見たトウカは、紛れもなくゴーストそのものだった。なので、確証は真実味を帯びている。

 あくまでも、彼はセイルの為にと色々としていたのだ。それは、彼女が目を覚ましてから視界に入らないようにしていた事と、もう二度と会う事はないと言う旨を伝えた事からも窺えた。

 セイルは、自分を恥じて、悔やんだ。

 どうして、自分を襲ったのがトウカだと思ってしまったのかを。

 どうして、トウカの顔を見て恐怖してしまったのかを。

 どうして、一緒にいる事を約束した相手から遠ざかろうとしてしまったのかを。

 彼がどんな思いをしていたのかも知らずに、勝手に恐怖して、勝手に距離を取ろうとして、それがとてつもない後悔として雪崩れ込んでくる。

 どうしてあの時に冷静に頭を働かせられなかったのか? もしきちんと機能していたのならば、トウカを見て悲鳴を上げずに、彼を傷つける事は無かったのにと後悔する。

 今まで自分の為に色々としてくれたゴーストの心を傷付けてしまった事に後悔する。

 しかし、いくら悔やんだとしても、トウカに謝ろうとしても、既に洞窟は見えなくなっており、声も届かない位置まで来てしまった。

 セイルは顔をくしゃくしゃにして、涙で頬を濡らした。

 嗚咽を漏らす人魚を乗せた荷車は、人間の眼につかぬようにしながら海を目指す。


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