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幕間 ???、求める。

 何かは池の中に沈んでいた。

 白い砂の上に足を着き、ただただ上を眺めている。

 舞い落ちるヒカリゴケが顔に触れても、開けたままの瞼に収まっている目に触れても気にしていない。

 何かはここは怪しいと踏み、扉を偶然五回音が鳴るように押して入った。

 それは正解であった。

 求めるものの一つは数分の差で隠し部屋から出て行ってしまってたのだが、もう一つの求めているものはここにあった。

 手に入れる為に、求めるものを持っていた、何かに向けて背を向ける形で池から上半身を出した人魚の左腕ごと奪い取った。すると、痛み故か人魚が悲鳴を上げた。

 奪い取ったはが、場所が悪かった。

 踏み出しながら人魚の左腕を引き千切ったので、何かはそのまま池の中へと突っ込んでしまった。それでも、奪った左腕は離さなかった。

 池の底へと沈みきると、何かは人魚の左腕を適当に放り投げて求めていたものを眼前へと持っていった。それさえあれば、願いが成就されるのは確実だ。あとは、もう一つの求めるものが手中に収まりさえすればいいだけだ。

 何かは、このダンジョンで目を覚ました時、胸の辺りに孔が空いているかのような感覚に襲われた。

 それが何のか分からずにダンジョン内部を彷徨っていた。だが、食べればそれがなくなるような気がしたのだ。なので、その過程で何かに襲い掛かってきたモンスターを返り討ちにし、自然と肉を口にした。

 最初に襲ってきたのはシェードバットだった。シェードバットは何かを見付けるとそのまま肩に噛み付いて血を吸い始めたので、何かは頭を掴んで胴体と分断した。

 次はフリットサーディンの群れで、どんどんと突進して体に突き刺さって来ても何かは動じる事も無く一匹ずつ引き抜いて頭を食らった。

 一番多く相手したモンスターがチャージボアであった。黒い体毛に赤々と煌めかせる鋭い眼光が特徴で下顎から出る牙が前方に飛び出している全長一メートル五十センチの猪型のモンスターは何かを見付けると直ぐに突進をした。

 何かは避ける間もなく正面から喰らって吹き飛び、壁に体を叩き付けた。しかし、それはけろっとしていて、チャージボアを少しばかり驚かしたが、猪は続けて突進を行った。

 その時、偶然であるが何かはそれを寸前で避け、チャージボアは壁に激突した。当たり所が悪かった。その壁は角が立っており、頭を陥没させて脳を損傷し、息絶えたのだ。それを目の当たりにした何かは猪の肉を食した。

 それからもチャージボアと相対した何かは、三匹目までは偶然と同じような場所柄で同じような方法で倒し、四匹目からは無理矢理首を引き千切って絶命させた。

 何かがチャージボアと遭遇した回数は二十一。食した回数も同じだ。

 チャージボアを多く食した事により、それに比例して何かは力が上がり、ネコグマでさえも苦も無く殺せる程の力を得てしまった。

 しかし、いくら食べても胸に孔が空いたような感覚は消えなかった。なので、どの肉も一口だけ食べて、残りは放って置いた。

 何かが最後に食べたのは人間だ。それを食した事により、進化が始まった。

 自分の体に何が起きているのかはどうでもよかったが、自分の胸に孔が空いたような感覚を、進化する直前に浮かべた笑みの意味を理解した。

 進化してからは、胸に孔の開いたような感覚を埋める為に一週間ずっと捜し歩いた。何を求めているのかを理解したので、もう何かはモンスターの肉を喰らわなくなった。

 この空間へと入る為の扉を見付けたのは、その方向から音が聞こえたからだ。そちらに向かうと、他の壁とほんの僅かにだが違和感を感じる部分があるのを見て取れた。

 怪しいと踏んで入ってみれば、求めていたものの一つがあったのだから、何かにとっては儲けものだった。

 手に入れたものを見て、何かは顔を笑みで歪ませる。

 ふと、何かの眼前が僅かに赤く染まったので、視線を上へと向けた。そこには、先程それが腕を引き千切った人魚が泳ぐ事も儘ならずに落ちていく様が見て取れた。

 人魚は痛む場所を右手で抑えながらも、望んでか望んでいないか定かではないが、何かの顔を見ると目を見開き、恐怖で顔を歪めた。

 そんな人魚の体は急に落ちるのをやめた。それは人魚が泳ぎ出したのではなく、第三者が人魚の体を支えたからだ。

 第三者は人魚の怪我を見ると、水底へと視線を彷徨わせ、何かを見付けると目を見張るが目当ての物を捜す為に直ぐに視線を逸らす。

 そして、目当ての物――人魚の左腕を見付けると人魚を支えたままそちらの方へと向かい、それを掴んで上へと目指して泳ぎ出した。その際に、何かに一瞬だけ顔を向けて睨みつけた。

 何かは人魚にも第三者にも興味も関心も持っていなかった。なので、人魚がどのような表情をしても第三者が睨んだとしても関係なかった。

 なので、上へと向けていた視線を直ぐに逸らして手に入れたものに落とした。

 何かが手に入れたもの――それはフライパンだ。

 このダンジョンに生まれ落ちたゴーストが偶然宝箱を開けて見付けたただものではないフライパン。

 何かは、このフライパンの本来の機能を一目見た時に本能で悟った。いや、もしあの時進化をしなければフライパンなぞは気にも留めなかっただろう。進化したからこそ、フライパンの重要性に気付かされたのだ。

 眼前に持っていっていたフライパンを片手だけで持ち、適当に振るう。水の抵抗を普通に受けたフライパンはよろよろとぶれながら振り切られる。

 真面に振れない状態であるにも関わらずに、何かはフライパンを振り続ける。

 すると、次第によろよろと力無く振るわれていたフライパンはスムーズに、そして素早く振り抜かれる。

 二十もしないうちに無理のない振り方を覚えたのか、水の抵抗をものともせずに振り抜いて見せた。

 その様子に、何かは口角を上げて笑う。

 しかし、口は笑っているが目は全く笑ってはいない。

 感情も、そして生気も感じさせない目は虚ろである。

 そんな目で再び上を見る。

「待……ッテ、テ」

 水中の中でもきちんと聞こえる声を口にすると、軽く跳んで体を浮かせ、足をばたつかせてゆっくりと、しかし確実に上へと向かって行く。

「待……ッテ、テ。……ト、ウカ」

 何かは求めているもの――ゴーストの名前を呟きながら、ぎこちない泳ぎでゴーストを捜しに行く。



 何かの外見は人間のそれと全く同じだ。

 しかし、決定的に人間と違うものがある。

 それは、呼吸を全くしない事、心臓が動いていない事だ。

 何かは既に死んでいる。

 死んではいるが、生きているかのように動いている。

 それが、何かの正体。

 生ける屍――リビングデッド。

 リビングデッドが求めるものはこのダンジョンで生れ落ちたゴースト。

 リビングデッドとゴーストは違う存在であるが、同じでもある。

 リビングデッドは失ったものを取り戻す為にゴーストを求める。

 ゴーストを求めて泳いでいるリビングデッドの顔は、求めているゴーストの顔と全く同じである。



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