ゴースト、魚を焼いて食べる。
日間冒険ランキング4位になっていました。ありがとうございます。
そして、昨日だけでアクセス数が過去最高になり、累計30000PV、5000ユニークを越えました。
まことにありがたい事なのですが、あまりの事に少々びくついております。
感想もありがとうございます。ご指摘にあったので、改行は個人的にですが、何時もより多くしてみました。
「う~~ん……ここで行き止まりか」
頼み事はシーフェに条件付きで了承して貰い、手に入れた食料を隠し部屋に置いて探索に戻ったトウカは、クラダケが群生している場所の付近を調べていた。
ここまでマッピングを進めていて途中で投げ出さないようにとまずはこの近辺を調べる事にしたのだが、はや数時間が経過しても行き止まりや、ぐるっと回って元来た道へと戻ってしまったりしてしまった。
「結構ぐるぐるとした道があるなぁ」
改めて道を記した地図に視線を落とすトウカは疲れから少し息を吐く。
彼の言う通り、マッピングを終えた部分の道は曲がりくねっているものが多く、また分かれ道も多数あり道と道で合流もしたりする。
これはダンジョンの特徴でもあり、基本的に目印をつけながら進んで行かなければまず迷うような構造となっている。
なので、未確認のダンジョンや新たな階層へと赴く際はきちんとマッピングを行い、それを終えるとマッピングした紙類を国へと提出する。その紙を元に国の探索隊によってより正確な地図を記し、完成させる。
ダンジョンへと赴く者はその完成された地図をダンジョン入口に設置されているカウンターで有料で得る仕組みとなっている。
行き止まりにかち合ったので、トウカは一度来た道を分かれ道が三つある場所まで戻っていく。
「次は……東の方に行ってみようかな」
トウカは方位磁石と地図を見て次に調べる方角を決める。マッピングは隠し部屋のある空間から見て北側を完全に終えた。
残るは東、西、南となっており、現在彼がいるのは丁度東へと向かう道があったので、東へと体を進める事にした。
一旦水筒を開けて中身を煽り、喉を潤してから移動を開始する。
「それにしても、もう一日は経ってるよね?」
地図に鉛筆を走らせながらトウカは呟く。確かに彼の言う通りにゴーストに生まれ変わってから丸一日が経過している。
しかし、トウカはそれをあまり実感出来ていない。ここでは太陽と月を拝む事が出来ず、それによって太陽と月の昇降が確認出来ずに時間の経過が分かりにくくなってしまっている。
「どうしようかな、シーフェさんの所で時計でも交換して貰おうかな……」
雑貨屋と言っても遜色ないシーフェの露店ならば置時計の類いは置いてあるだろうと期待する。トウカはゴーストに生まれ変わった瞬間に体内時計もリセットされてしまっている。
生前ならば朝早く決まった時間に起きて、決まった時間に睡魔が襲ってくるような生活をしていたのだが、生まれ変わった事により、体に染みついた習慣が消え去ってしまったのだ。
流石にここで住むとしたら時間が分からないと生活リズムが狂ってしまいかねないので必要になって来るだろう。
「でも、時計だとどれくらいのクラダケが必要になるのかな? いや、そもそもクラダケだけで交換をしようと思うのもちょっと悪い気が……」
渋い顔をしてうんうんと唸りながらも、トウカはきっちりとマッピングをし、罠が無いかどうかをフライパンで叩いて確認していく。
今の所の罠はトラバサミ一択だけなので、宙を浮いているトウカには危険性の薄い罠となっている。
「ん?」
東へ向けて移動していると、トウカの背後から音が聞こえてきた。それは羽ばたいているような音で次第に近付いてきている。
地図と方位磁石、鉛筆をバッグの中へと入れてトウカはぱっと背後を振り向く。
「あ、魚だ」
トウカはフライパンを片手で構え、飛ぶ魚――フリットサーディンを睥睨する。
フリットサーディンの見た目は鰯そのままだが、口先が異様に鋭くなっており、胸びれが異様に巨大化していて、それを羽ばたかせて空中を移動するモンスターである。
数匹の群れを作って移動するフリットサーディンは水辺に棲むモンスターであり、強さで言えば単体ならばゴーストよりも弱いが、群れを成すとホーンラビットよりも強くなる。
「えっと、……四匹か」
トウカは自分の方へと向かってくるフリットサーディンの数を冷静に数える。彼は空飛ぶ魚に遭遇するのが初めてで、ホーンラビットよりも強い事を知らないでいる訳ではない。
実は、北の方角を調べている際に既に彼はフリットサーディンに遭遇しているのだ。遭遇回数は三回。群れ一つの個体数は三匹であり、三回ともトウカはフリットサーディンを返り討ちにしている。
「じゃあ、今回もさくっとフライパンをぶちかまそうか」
トウカは迫り来るフリットサーディンへと自ら躍り出る。
「せいっ」
先頭を行くフリットサーディンが突進攻撃を繰り出す前にフライパンを横に薙いで真芯で捉え、壁へと吹っ飛ばす。
「たぁっ」
二番目の魚は突進体勢に入ったにもかかわらず、真上から振り下ろされたフライパンの底が頭と背面部へと強打し、衝撃と重力に従って地面に激突する。
「うわっと」
三番目のフリットサーディンは先頭がやられる直前に突撃体勢に入っており、二番目がやられると同時に胸びれを体にぴたっとつけて空気抵抗を失くした状態でトウカへと突進する。その速さはホーンラビットの初撃以上である。
フリットサーディンが群れを成せばホーンラビットよりも強くなるのはこの素早さが影響している。一匹だけならば突き刺さった所を攻撃すれば怪我は負うが無理なく倒す事が出来る。
しかし、数匹の群れを成す場合は一匹が突き刺さっている間に他のフリットサーディンが突進を行い、仲間が攻撃されるのを邪魔してくる。そして突き刺さっていた一匹はその間に退避し、再び突進を繰り広げていくのだ。
いわゆる、コンビネーションによって狙った獲物を仕留めていくのが、フリットサーディンの特性である。
トウカはフリットサーディンの軌道上にあたる胸をフライパンで防御する。フリットサーディンはそのままフライパンの底に激突し、貫通出来ぬまま失墜していく。
「最後っていたっ!」
地面に落ちた三番目に止めのフライパンをお見舞いしたトウカの右肩に最後まで生き残ったフリットサーディンが突撃して貫く。
「こんの!」
歯を食い縛りながらトウカは肩に刺さっているフリットサーディンを左手で掴んで引き抜き、頭部を壁に打ち付けて絶命させる。
「いたたた……やっぱり一匹増えると無傷は無理か」
瞬時に孔が塞がった肩を擦りながら、トウカはものの十秒で倒したフリットサーディン四匹を拾い集めて、軽く埃を払う。
生まれてまだ一日と少ししか経っていないトウカがどうして群れを成したフリットサーディンを撃退出来た理由はホーンラビットの肉を食べていた事に起因する。
シーフェが説明していた通り、モンスターはモンスターを食べる事で進化していく。しかし、進化をせずとも能力を往生させる事も出来るのだ。トウカはホーンラビットの肉を食した事により、反射神経と敏捷性がやや上がった。
その結果、初遭遇であったフリットサーディン三匹に突撃されても避ける事が出来、更には飛んでくる所をフライパンで叩いて撃墜させる事も可能となった。
続く二群目のフリットサーディンは一群目よりも労せずに倒す事が出来た。
一度同じ相手と相対した経験もあるのだが、出会う前に前の三匹を食していたのも影響している。フリットサーディンを食した事によって敏捷性の他に空中での制御能力も向上した。
トウカはシーフェからモンスターを食べれば強くなると聞かされて大雑把に理解していた。なので、ダンジョン探索での危険性を減らす為に自分の力を強くする為に倒したモンスターを食しながら進んでいる。
ここまで来るのに計九匹ものフリットサーディンを胃に収めていたトウカにとって、飛ぶ魚は敵ではなくなっていた。今の彼であれば、生前と同じ敏捷性と反射神経を備えているのでホーンラビットも労せずに仕留める事が出来る。
「……さて、と。いただきますか」
トウカは四匹全てをフライパンの上に乗せると、それを一旦地面に置き、下ろしたバッグからコンロを取り出す。食料を隠し部屋に置いた際に、セイルが間違って触って火を点けないようにとわざわざ持ってきた次第である。
コンロのつまみを時計回りに回して点火し、その上にフライパンを乗せる。時間が経つ毎にじゅぅぅと言う焼ける音が鳴り出し、香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。
片面が焼けたと感じたら、トウカは手首のスナップを利かせてフライパンを一回だけ振るう。その一回だけで全てのフリットサーディンは焼けていない面を下にし、焼けた面を上にして暫し待つ。
「そろそろかなっと」
もう一度フライパンを振るい、両面が焼けたのを確認すると、トウカはコンロの火を消し、フライパンから手を放して両手を合わせる。
「じゃあ、いただきます」
トウカは焼いたフリットサーディンの頭と尾ひれを掴み、腹にかぶりつく。充分に焼けた身はパサつく事も無く、腸はやや苦味があり、やや脂がのっていて甘味がある。骨も柔らかくなっており食べても問題ないのでトウカはばりばりと食べ進めていく。
食料が手に入りにくい場所と言う事で、トウカはフリットサーディンの頭さえも顎で砕いて飲み下していく。頭は腸と同様に苦味があったが、食べられない事は無かったので平然と食べている。
探索はやはり体力を使うので、九匹食べた後でも十数分で四匹のフリットサーディンを食べ終えた。
「ごちそうさまでした」
指先を舐めた後に食料となったモンスターに感謝の祈りを捧げ、フライパンの上に出たフリットサーディンの脂を近くの地面の上に流す。魚の脂は一滴も残さずに地面へと滴り落ちて染み込んでいく。
「本当、このフライパンは凄いな」
トウカは素直にこのダンジョンで見付けたフライパンに感心する。
なにせ、このフライパンは凹まず、焦げ付かないどころか汚れが簡単に落ちるのだ。ただ傾けるだけで綺麗に流れ落ちていくので洗う必要はない。
その事を知ったのは最初のフリットサーディンを食べ終えた時に水筒の水を使って洗い上がそうとした際に傾けたフライパンを見た時だ。
また、更に高性能な事に、焼いたものの臭いさえも残らないのだ。
魚を焼いた後のフライパンは間違いなく猫が寄って来る臭いを滲みつかせてしまうのだが、このフライパンはそんな事は無く、汚れと共に臭いまでも綺麗に落としてしまうのだ。
なので、トウカは魚臭さに悩まされる事無くダンジョン探索に精を出せている。
「さて、と」
フライパンの汚れを文字通り落としたトウカは熱が引いたコンロをバッグに仕舞い、地図と方位磁石、鉛筆を取り出して探索を再開する。
「……セイルさんにも食べさせたいな」
地図に鉛筆を走らせながら、トウカはぽつりと呟く。
今の所自分だけしかフリットサーディンを食べていないので、隠し部屋で待つセイルにも食して貰いたいと思うのだが、フリットサーディンは大変痛みやすく、常温で数十分放置するだけで異臭を放ってしまう。それは生だけではなく焼いた状態でも同じなのだ。
なので、トウカは自身の能力アップの為だけではなく、単に食材を無駄にしない為にも倒したらあまり間を置かずに焼いて食べているのだ。
「……痛まないように運べる方法って何かないかな?」
うんうん唸りながらも、トウカはきちんと罠があるかどうかをフライパンで確かめ、マッピングを続けていく。
「あれ?」
フライパンで罠を調べて、トラバサミが発動した際に、トウカの視線は右へと引き寄せられる。
「これって……宝箱?」
彼の視線の先には豪奢な装飾の施された宝箱が鎮座していた。彼はこのダンジョンで宝箱を見付けたのはこれで三個目だ。
約一日での成果で言えば、やや少なめの方だ。ダンジョンに潜る者の平均は一日五個である。運がよかったり要領がいい者の場合では一日十個もの宝箱を発見する場合もある。
「……開けようか」
トウカはフライパンを脇に挟んで宝箱の蓋に手を掛ける。一回目はフライパンで、二回目は三叉であった。少なくとも宝箱の中にはここで生き抜くのに必要な物が入っていると本能が告げてくるので、彼は少々中身に期待していたりする。
「布団とか入ってないかな?」
彼個人としては布団を所望していたりする。寝る際に雑魚寝は基本的に腰や背中を痛めてしまうので、寝るのならばなるべく負担の掛からない柔らかい布団の上が望ましい。
また、布団を所望する別の理由としては、セイルを敷布団代わりにさせたくないと言うものがあり、どちらかと言えばそちらのほうが気持ちは強い。
昨日は不可抗力とは言え、そのような状況を作り出してしまったのだ。それは彼女に悪いし、何より思春期シャイボーイなトウカにとっては耐えられない事であった。
「布団、布団」
自身の願いを呟きながら、トウカは宝箱を開ける。
「……………………え?」
トウカは宝箱に入っていた品物を見て目が点になる。
宝箱に入っていたものは――――。