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三章 ヒーローとはなんなのですか?

三章 ヒーローとはなんなのですか?


 ちょっとした話なのだが、竜殺しである男は、実は転生という言葉を信じていない。

 来世なんてあるなんて最初から思っていない。

 じゃあお前が恋人に言った言葉は、一体なんだったのかと思われるが、あれも彼にとっては本気の言葉だ。


 彼は信じていないが、彼女は信じていた。

 それだけで十分だったのだ。男は平然と現実だけ見ていたというだけ、しかしそれでも幻想にしがみつきたかった。


 振られた男の無様な執着だ。

 そう考えていられる間は、彼女を忘れることはないだろうと言う。なんとも惨めな男だと笑ってやれるかもしれない。

 ま、男なんぞ馬鹿であるからこそ、と言うこともあるのだろうが、なんと言うか尽く人生に失敗したヒーローらしい馬鹿さ加減だ。


 彼と彼女が出会って恋に落ちて六年でそれは終わり。

 現実を見ていた彼だけが生き延び、幻想を形に変えようとしていた彼女は殺された。

 皮肉な形かもしれないが、生きる事なんぞ、そんな物と思わなければ、やっていけるような代物じゃない。


 転生後とか適当に吹いているくせに事実、彼はもう終わったことだと思っている。

 だがそれが忘れる事と一緒ではない。まことに馬鹿馬鹿しい限りではあるが、英雄の末路としては比較的ましなパターンではある。


「白銀と竜との戦闘映像は流石に教材としては入らないか」


 顎と呼ばれた竜との戦いが終わり、一定値のダメージを与えたために帰還した現在最強のヒーロー白銀だが、竜の力はやはり絶望的で、山梨あたりまで侵攻を許してしまっている。


「ま、見せたところで現代の若者らしく絶望するか、血気に逸るか、どちらにしろ使い物にならなくなる可能性しかないから見せる必要もないか」


 明月によって渡された資料を見ながら、相変わらずの非常識な破壊力だと竜が放った重力砲のあとの報告などを見て失笑するしかない。


 本来竜の力さえあれば、太平洋で津波の一つや二つ起こしてしまえば、日本如き大陸は波に浚われそうなものだが、お優しい限りの竜達は、人間の抹殺にしか興味がないのだろう。


 丁寧に人類だけを殺戮しつくしてくれている。


「先輩達も馬鹿だよな、人に期待するっていうのは、裏切られるって枕詞付きそうなものなのに、挙句に勝手に信頼して暴走するんだから」


 ヒーローは存在している限り人としては失敗作だ。

 皮肉ばかりが新しい油でもさしたように、口から滑らかに滑り出す。


「救いようが無いのはこっちも同じだけどな」


 過去ばかりに、しがみついて自分も未来さえも見ようとしていない。

 時折人類滅亡も、有りなんじゃないかとさえ思う時が彼にはある。ヒーローなら誰しもが抱えるような内容の言葉だ。

 竜はその裁定者だとのたまい、竜化しようとして勝手に死んだ馬鹿も何人か居る。


 救いようが無いと言われれば仕方の無い話だ。

 実際どうしようもない程に救いがたい存在ではある。救ってやる価値は物の見事に無いだろう。


「竜も結局は、理想に敗れたヒーローってだけの代物だし」


 現実に食いつぶされたファンタジーの残骸に過ぎない。

 竜はそんな遺物だ。

 その思考を究極まで、馬鹿げた方面に跳ね上げた存在こそが竜だと言う専門家もいる。

 そんな理論はともかくとして、その人生の最後の最後に人を守るためにその命を焼き尽くし、その上で生き延びた彼らが目にするのは、少なくとも希望ではないのだろう。


 どれだけ高潔な人間の守護者であろうと、竜になれば人を殺す殺戮機関と成り果てる。


「じゃあ何で俺は竜にならないんだろうな。理想どころか生きがいさえも死滅してるってのに、約束ってのは難儀だ」


 彼はあの日から生きていたいと思った事は困った事に無い。

 死にたいとも思わないが、現代でありきたりな惰性の下に生きている。

 ここで彼女との約束の為と言い切りたい所ではあるのだが、口ではそういっても、結局は惰性に過ぎないと彼は思っている。


「どうでもいいけどさ、とりあえず頑張って生きるのが俺のとりえだし」


 やる気もなさそうに彼だけに用意された個室に入り寝転がっている。

 一応名目はあったはずだが、そんな内容はとっくに忘れているし、職場では竜の情報はここでしか見ることは出来ない。


 そんな理由から入り浸ることが多いのだが、今日は完全に休憩である。一瞬眠りに誘われまどろんでしまうが、ドンとどこからか大きな音が響く。


「ん、ちょっと音量が大きすぎたか」


 どうにも無駄につけていた備え付けのテレビからは、無駄に山梨にて竜を撃退と言う放送が流れていただけだったようだが、そんな放送を馬鹿じゃないのかと考えてしまう。

 竜殺しの彼はきちんと断言してやれるが、白銀は逃げ延びただけに過ぎない。


「ったく、言いつけを守らなかったのかよ。あいつらとやりあえるのはあいつぐらいだろうに、馬鹿なことばかりするな本当に」


 達磨で逃げ切ったかと言われれば、少しばかりかわいそうな代物だが、どちらかと言えばよく残った方と褒めてやった方がいいのかもしれない。

 今回の撃退と言う言葉は、はっきり言えば白銀を生贄にして時間稼ぎをしただけなのだ。

 これは人しか殺さない竜だからこそ出来る行為だ。

 ヒーローの体に呪詛と呼ばれる演算を付与し竜に食わせることで、強制的に竜を休眠状態に置く。


 文字通り時間稼ぎなのだ。

 無駄に白銀が粘ったことにより、竜は山梨まで侵攻してきた。これは困った事に大失態でもある。


 達磨になるほど食われなければ竜は止まらなかった。無制限に人の魔力を食い荒らす竜だからこそ、可能な時間稼ぎだったが、こんな事を経験させ続ければ、ヒーローだって狂うというものだ。


「対竜演算の打診までしやがって、無駄にプライド高いからなあいつは、餌になるのはお断りだったか」


 それで十分人が守れるってもんだろうがと、賞賛の言葉を与えられる彼女を当然のように侮蔑の言葉で罵倒する。

 先輩もそろそろあいつを捨てるかもしれない。せっかく竜の下にいける餌だと言うのに、世界最強のヒーローの役割を、わかっちゃ居ないとため息でも吐きそうな勢いだ。


「ああ、なっちゃいない奴らばかりだ。あいつもこいつもあれもそれも、竜を止めるのには生贄が一番だなんて、一番ましな案だろうが死ぬわけでねーのに」


 そんな事をぶつぶつといいながら、次の講義の際に教える内容が増えたと少しばかり彼は喜んだ。

 なにげなく自分が教師をしていることに少々の感動を覚えるが、同時にまた生徒が興るのだろうと嫌な顔をしてしまう。


 それどころか絶望ぐらい感じてしまうかもしれない。


 それこそ竜を見るよりも、竜殺しの希望を抱く彼ら若者だからこそ、生徒には簡単に教えられる内容ではないだろう。

 言えるはずも無いのだ、竜とやりあえるといったヒーローの役割は所詮竜への餌という事実を、教えるべきなのであろうかと。


「子供のうちには俺みたいにすさめともいえないし、心を削れって言うのもな、俺の性に合わないし」


 だがこの教師と言うのも彼女との約束だった、つくづく自分には彼女しか居ないと、それ以外は何も無い空っぽの人間のようだ。

 自嘲気にそりゃそうかと呟く、自分はきっとあのときに何もかもを消し去ってしまったのだと。


「こんな人間が教師やっててもいいのかね、教えるどころか、卒業生もそうだけど、逃げろ生き延びろとかそんなことしか教えてない。これは人類の存亡をかけた時間稼ぎだとか行ってた気がするぞ」


 事実は事実だが、ヒーローの夢と希望を抱く若者達には、現実は不条理すぎるかもしれない。

 ヒーロを目指すものすべてが希望を抱いているわけではないだろうが、だがあらゆる意味で、この事実はヒーローを目指すものたちの心をへし折るのは間違いない。


 人類の竜への勝利は一回きりだと言う事実、そしてその竜殺しは使い物にならない。

 そして何より、その命を削ってまで人類を救う気は無い。最もそれは彼がヒーローになったときから換わっちゃ居ない話だ。


 そうヒーローには大切なヒロインが彼には欠けている。

 彼が救う価値を持つ存在が居なければならない。それを出来るのはもうすでに死んだ、息吹と呼ばれた竜だけだ。

 いや春風と呼ばれた女だけと言うべきなのだろうか。


 どこまで言っても彼は春風と言う人物に捕らわれ、それ以上前には進めない。果たして人の救えないヒーローに何の価値があるのか、そんなことは彼自身もわかっているだろうが、終わった人間にそれを求めるのは酷と言う物なのかもしれない。


「ああ、とは言っても、俺の我に生徒が関わって死ぬのもなぁ。授業だけは真面目にやらないと、俺のミスで人が死ぬのは一度っきりでいいしな」


 だがいまだに彼をヒーローと呼んでもいいのは、きっとこういう部分なのだろう。

 そんな彼の心根はともかくとして、実は堂々と授業をサボっている彼は、二人の生徒から見つけ出され引き釣り出されることになる。


「俺はお前らの為に政府に掛け合ってたんだぞ」

「寝ながらテレビ見ているやつの何を信じるんですか」

「俺を信じろよ」


 台無しな言葉を吐く。

 生徒達の冷たい目線も気にせずに、言ってのける胆力はある意味ヒーローだが、それが人に尊敬される類のものではない。


「あー先生とりあえずさ、授業頼むよ。ヒーローの経験は私達の未来に役に立つんだからさ」

「そうか、しかたないか、なら今度竜の映像貰って来てやるか。古巣だったら、ある程度資料請求の許可がおりやすいだろうし」


 生徒からの動揺を楽しそうに感じながら彼は笑い出す。

 ぶーぶーと文句を言う生徒を軽く宥めつつ、彼が経験した実戦の話などをしながら教室に向かう。

 それが後のヒーロー達に役に立つのかわからないが、彼は自分の生徒だけには最強のヒーローになってほしくはないと考えてしまう。


「さーて、今日はイップスワンの得意技だった並列演算の基本を教えてやるか」

「いやそれって大魔法使いクラスの技術だから簡単には出来ないんじゃ」

「本当ですか、あの現象殺しに使った演算じゃないですか」


 生徒達を竜の餌にするのだけは彼はごめんだった。

 多分彼が死ぬときはきっと、生徒の誰かが餌になったときなのだろう。


「いや生徒のうちに現象殺しの技術を教えられても困りますよ」

「基本だっての、そんなの簡単に教えるほど俺も冒険しないってんだ」


 そうなる事をどこかで願いつつも、約束を破るようになるんじゃないだろうかと、不恰好な思考が浮かんですぐに消える。

 ここでもし生徒達を餌にするようなら、来世の彼女はきっと自分を好きになってはくれないのだろうと、彼女はそういう人だった。


「はい、はい、私は覚えたいですよ先生。応用とかも」

「黙ろうか、流石に今の私達じゃ無理だからさ」


 そんな彼女の最後の約束だからこそ、彼は今も頑張って生きているのだ。

詳しくは説明しないけど、災害は生物災害、自然災害である現象災害、そして現象災害の複合災害があります。そして大災害に竜が存在しています。

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