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十四章 解答 本文を参照してください

 十四章 解答 本文を参照してください


 時間は少しだけ先に行く、竜殺しを旗頭とした、ヒーローの反乱は成功した。

 ましてその名前を聞いた人々は驚いただろう。

 大英雄竜殺し、それを騙りと誰もが思うほど荒唐無稽な事実であったのは間違いないだろう。世界最弱のヒーローと、言われ続けた男だ。メディア受けする経歴ではあり、彼が竜殺しではないかという都市伝説はあったが、誰も事実とは思わなかっただろう。


 恋人を殺したというその悲恋から、彼の名はさらに轟くことになるが、同時に何故ほかの竜と戦わないという不満の声があったのも確かだ。

 だが、彼の身体状況を知ってしまったら、反論の声は消え去った。重度魔力障害、本来であるなら一時間と持たずに死ぬ障害だ。それを無理矢理生かし続けている状況で、竜との戦いなど出来る訳がない。


 生きる事によって竜の牽制を行い、人類最後の壁となり続けている。などと聞かされて、その男の人類に対する献身に感動しないものはいただろうか。

 反乱を行ったヒーロー組織は、彼が現状の前線に対して許せない事態が起きた為、反乱を行い災害に対しての対策を行う必要があった為の承知とした。わかりやすく言うべきだろう、竜殺しを盾にして、全ての責任を彼の押し付けているのだ。


 しかし太陽はそれを受け入れているのか、あの時からの魔力障害の影響をどうにか散らして、良くなった体調になっても動く事もなく、言われるがままに従っていた。

 ただの象徴としての力しか、彼自身ないことも分かっていたし、自分がどう扱われるかも理解している。ただ疲れるのは、連日に及ぶ白金の死体についての問答だけだ。


「さあ、俺の心の中じゃないですか」


 問われたとき、鼻で笑うようにして太陽は、答え続けていた。

 困った事に彼の演算技術の所為で、ヒーローなどが使う拘束具が使え無い、挙句に体調が体調だ不用意に薬も使えない。

 ただ彼の意思によって、ここに居る状況だが、殺すわけにも行かないため、扱い辛いが、暴れることもしない太陽にある程度は、小康状態が保たれている。


 そんな彼が唯一、彼らの思い通りにならないのが、白金についてだけだ。

 繰り返される問答は、当たり前のように暖簾に腕押し、自然と苛立つ者たちが増えるが、不用意に彼に暴れられては、それこそ行動が困難になる。

 装甲すら纏わずに、暴れてあの結果なのだ。そんなものが暴れだしたら、前線の被害がどうしようもない事になる。


 その報復としてできることなんて、僅かであったがしないよりはましだ。


「それでまた、独房行きと、せっかく状況を動かしてあげたのに、仮にもこの組織にトップであるはずのあなたが、何をやってるんでしょうか」

「いや、お前の姉の死体だってよ。馬鹿だな、そんな物この世にあるわけないのに」

「私としても、あれが姉の死体でないのなら、一体どこにあるというのですか。聞いたところで言うつもりはないのでしょうけど」


 だが彼は、いつもの通り心外だなと、不服そうに声を上げる。

 

「何度も言ってるだろう、心の中さ、俺の生涯のトラウマだぞ。あいつを殺した証明だ、そりゃ刻まれ続けるってものだろう」

「そうですか最低ですね」

「ま、ある意味じゃ、あいつは俺だけのものになったと言えないこともないのか。そう考えたら少しは幸せと思うべきなのか、なんだっていいか。な、独房の主」

「うるさいですよ、私とあなたでは、扱いの差が違います」


 北方の残党退治から帰ってみると、本営は反乱によって乗っ取られ、現場を混乱させた罪で白銀は独房ので謹慎が決まってしまった。

 現最高戦力の白銀がいなくなれば、それこそ戦線が今の段階では押されてしまうので、処罰と行かないところが、この世界での矛盾だろう。


 しかし不思議な話でもある、なんでこの世界においては、一二を争う貢献者が、揃いも揃って独房暮らしだ。

 恩赦の一つもあっていいと思うのだが、あいにくとそういう事はない。正直に言えば都合のいい道具ではあるが、使い勝手の悪い道具でもある。

 なんとも扱いにくい存在であるのは言うまでもないだろう。だが目の前の彼女は多分だが、リミッターの開放における最初の試験体だ。


 彼女のヒーローとしての素質は、はっきり言って姉と同クラスと考えていいだろう。

 その彼女が解放されれば、どれだけ戦力的に有利になることか、ヒーローを救うと言っていた幹が、そんな素質を誇る彼女をどうにか出来る訳がない。

 そして仙人、現在は彼女の代わりに緩衝地帯における防衛を任務としているが、彼女もまたその被験者の一人になるだろう。


 そのための最終調整が今行われているところだ。

 竜の全てを太陽に宛てがい、旧首都までの奪還を企んだ境界線侵攻作戦は、もう始まりを見せつつあったといっていだろう。

 それがどうあっても太陽という英雄の最後の戦いであるのは間違いなかった。


 カルテット、多分あとにも先にも存在しない四人のヒーローに与えられた名であった。

 その全てが竜になっているのだが、彼らは本当に優れたヒーローであった、北海道奪還戦の際にも、彼らがいなければ根室と釧路すべてが災害化した、五百六十二種複合災害に対しての対抗手段などなかった。

 あの当時壁海を滅ぼし意識不明になっていた白金が、療養中の間の作戦は、日本の災害対策において要とも言うべきものであったのは間違いない。結界自体が限界を迎えかけていた頃だ、時間も差し迫っていた以上、これ以上の選択はなかったのだろう。


 だがそれ自体が最悪であったのは間違いない、その戦いにより竜が現れたのだ。

 その最初の竜は狡猾であった、最強の竜である息吹によって休眠に追いやられるまで、閉鎖結界を破壊し、己の魔力で発生させた災害たちを全て一斉攻撃をかける。

 無制限の魔力を持つ竜は、そうして人間を殺すために災害を生み出し続けた。それによって人類は追い詰められ、首都の戦いにおいて爪が生まれ、竜を当滅するために白金が派遣され、息吹が生まれた。


 最初の竜は、それすら目論んでいた形跡がある。

 人を竜に変える事を、狙っていたといっても過言ではないのかもしれない。だが同時にウロコは臆病でもあった、竜における司令塔であったそれは、休眠とともに息吹が打倒されると、災害を生み出しながら、機会があれば攻勢をかけつづけている。

 そして、その機会は訪れることになる。


 限界を迎えた竜殺しの戦線投入。

 これは竜にとっては、最大の好機でもあった。限界を迎えたということは、まともな力はもう残っていない。

 彼らの記憶にある太陽は、元々長期戦のできる様な、状態ではなかった。


 確実に竜殺しを屠ることにできる機会。

 それを鱗が逃すはずがない。


 そんな事を知っていながら、姉も彼氏だった男に妹は辛辣だった。


「どうせあなたは次の戦いで竜に殺されます。はっきり言ってしまえば餌です、そのことについて思うことはないのですか」

「別に、全員殺してやれば少しはほかが楽になるか。そうなったらもう限界だろうけどな」

「どうあってもその余裕は崩れないんですか、最悪ですね。少しは泣き叫べばいいのに、そうすれば溜飲も下がるというもの」


 フンと鼻を鳴らす、隣の部屋だというのに薄い壁のせいで話せているが、そんな仕草まではわからないだろう。

 ただあぐらをかいたまま、腕を組んでいた太陽は、目を瞑る。


「別にな、泣き叫びたくないわけじゃない。ただ意味がないんだよ、お前の姉の死体なんかあさったって無駄だ。それじゃあもったいない一つ有益な話をしてやろう、そもそも竜ってなんだと思う」

「おとぎ話のトカゲ、というわけではなく、人の災害化でしょう」

「そうだな、間違っちゃいない。だがな、竜と対峙して、あいつを殺して、ひとつだけ結論が出てるんだ。そもそもな、世界に最初に刻まれた災害はな、柴犬でもなければ神話の化物でもない」


 彼は言う、あまりにも荒唐無稽な話をさも事実のように、否定的に吐き出していた。

 その響きを聞いて、ヒーローは心臓をつかみながら激しく動揺に身震いしながら、目を見開いて震えだした。


「人間だよ、そもそもな人間は災害なんだ。どう考えても、それ以外ありえない」


 それほどに彼の言葉は、常識を覆すじゃない。人の根底部分を罵倒するような内容であった。

 しかし声色は、どこまでも平静で、嘘などどこにも感じられなかった。


「は、何を言ってるんです。それは、それの意味は」

「そのままだ、人は生物の中でただ一種、魔力を持って生まれるんだよ。

 俺たちの心臓には、魔力の生成機関が存在する。魔力を扱うために、体が出来てしまっている。純粋な生物で、そんな存在が存在するか。人類は生まれながらの災害、そう仮定しないとな竜に対して結論が出せなくなる」

「どういうことです、そんなふざけた事を言える理由は、いくらなんでも冗談でも許される言葉ではありません」

「そうだろうな、そうだったら出来の悪い悪夢だろう。だが理由がある、覚えておくといい、これが本当ならな竜殺しはただの人殺しに変わる」


 目を瞑っていた太陽はゆっくりと目を開く。

 自分が死ぬことはもう確定だろう、体の状況を考えても一年も生きていけないのは明白だ。理想に食いつぶされたヒーローたちは、役にも立たないと理解している。

 その中で自分が残せる事なんて、もう僅かもないだろう。自覚は確信に変わり、知る者は殆どいない、彼の仮説は白銀に刻まれる。


「あいつを殺したときな、正気に戻ったんだよ。楔を破壊したら、あの馬鹿娘、復活とか馬鹿なこと言ってたんだよ。最も、それと一緒に心臓貫いてたけどな」


 竜殺しを成し遂げた事実であろう言葉だ。

 だが納得いく部分も存在してしまう。人間が膨大な魔力を浴びた時に起きる現象は細胞分裂停止だ。

 それ以外にも生殖機能などの異常、そういったモノになるはずなのだ。


 だが人類は災害になった。竜という名の最悪に。

 しかしもう一つの可能性が存在してしまう。心臓に打ち込んだ、装甲の楔だ。

 白銀はすとんと何かが落ちたのような納得をする。


「つまり竜とは、人の災害化ではなく、装甲の災害化だというのですか」

「その通り、元々装甲は古典演算で災害憎しで作られた呪いだ。そして最も災害らしい災害が、人間であるならわかるだろう。竜は本当の災害を殺そうとしているのさ」


 人が呪った災害、だがそれが人類だったらどうなるのだろう。

 彼は笑っていた、声を押し殺しながら、何度体を震わせるように、こんな事実を知ったら幹先輩はどうなるのだろうと。


「だから誰にも言えない、上層部はその全て知りながら握りつぶすしかなかった。そうでなければヒーローは殺されるからだ、いやヒーローに殺されるか、だから何度も問いただすしかなかった。その病と共に、これからの事を考えれば、人に救う価値があるのか無いのか」

「そして私はないと答えるしかない。誰だってそう考えているのは明白だった」

「だが、それでもヒーローを増やさなければ、人間は絶滅するなんともどうしようもない状況だろう。詰んでいるというのがここまで分かりやすく証明された機会もない」


 一度喋りだすと彼は、今までの鬱憤を晴らすように止まらなくなっていた。

 本来こんな事を話すつもりなんてなかった、だがもう彼自体は終わる、自分があと何ヶ月生きていられるかなどもうわからない。

 寿命というならもうあの時尽きている、それを無理やり引き伸ばしているだけだ。


 現状の証明がなされている中、この二人の会話を聞いていた物はどう思っただろう。

 ゆっくりと薄めで監視されているレンズを除く、薄ら寒い笑みで太陽はじっとそれを見続けた。

 竜が何かを知らされて、もう止めようがない事態になったぞと、じっと見続けていた。

 

「これが破滅の一歩手前か、息吹の行動の意味もようやくわかったけど、竜になりながら装甲を操って、時間稼ぎをしたんだ姉さんは」

「そうだ、そして、今の状況はそれを台無しにしている所だな。別に悪くないけどな、幹先輩は真面目すぎた、そして知ら無さ過ぎたんだ。本当に可哀想な限りだ、ありとあらゆる終を自分で後押しするなんて、ざまぁみろって所か」

「気高い理想に、崇高な理念、両方揃って台無しですか。世の中ままなりませんね、もうなんかどうでも良くなります」


 そんなもの揃えてもいいわけにしかならないと、口にしたくなったのを抑えながら、太陽は一度だけ視線をレンズから外す。

 かわいそう等と思っている訳ではない、あと作戦実行まであと一月、それを超えなければどちらにしろ、なんの意味もなく人類は破滅するだろう。


「そんなの何時もの事か、世界で正しく災害と言われるべき人間、別に大した話じゃない。どいつもこいつも根幹を間違うからそんな風になる。

 一度だけ周りを見ろ、それで十分だろう。俺はそれだけで今まで生きてきたぞ」

「意味がわかりませんよ。私の周りにはふざけた姉の彼氏と、同性愛者の同僚と、うるさい上司ぐらいですよ。全員死なれても困りますけどね」

「俺は無理だな、流石に限界だ。ま、俺は死んで欲しくない奴がいるから動くだけだ。だから任せるぞヒーロー、俺が死んだあとはお前が目立つだろうしな。俺の生徒を少しは救ってやってくれ」

「教師みたいな発言ですね、救えないことの恐怖を知ってて私に押し付けますか」


 ああと、楽しげな声が響いていた。


「救えなかったからな、だから救いたいんじゃねーか、俺はいっつもそうだったぞ。空回りばっかりだけどな。それももう限界だ、次に装甲まで使ったら俺は間違いなく死ぬ」

「でしょうね、あなたはもう限界です。もうどうしようもない、よく今まで生きて、助けてくれましたよ」

「まだもう少しだけ頑張るっての、水野たちの解答を聞きたいからな。

 あいつらは危ういが、呪いはかけておいた、乗り越えられるならましなヒーローになるだろうよ」


 負けて負けたる人生、決意を立てて成し遂げられた事などあったのか、深く考えると失敗ばかりだった気がする。

 その中で、少しは残せたなと太陽は頷いた。


「あとは言うことはないか。いや、俺の論文を見ておけ幹先輩、題名はふざけていたせいで通らなかったが、あれは竜に関する対策の全てを載せてある。あなたが絶望を運んだんだ、少しは責任を取れ」

「挙句に、自分を殺す相手にまで押し付けますか。随分と余裕があることで」


 鼻で笑う、白銀の言葉に太陽はただこき下ろすような態度を見せた。


「馬鹿か、余裕がないから相手に押し付けるんだよ」

「それはごもっとも」

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