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明け方の邂逅、永遠の刹那

作者: しゅがー


かふぇおれ:『音楽聞きすぎて死にそうww』

カフェイン:『こんな真夜中に何聞いてんの?』

かふぇおれ:『ロック(´・ω・)』

カフェイン:『ロック聞いて眠くなるわけねえだろ。馬鹿か』

かふぇおれ:『うるさいニート(`∀´)』

カフェイン:『フリーターと呼べ』

かふぇおれ:『え、何。家でも買ってくれんのwktk』

カフェイン:『お前がパソコン買ってくれたらな引きこもり(`Д´+)』

かふぇおれ:『自宅警備員といえ』




ギシリ、と椅子の背もたれに寄りかかりながら大きく伸びをする。

草木も眠る丑三つ時。外はもちろん真っ暗だし、聞こえる音といえばパソコンのキーボードを叩く無機質な音と脳内アドレナリン放出を助ける音楽だけ。


私が一つ文字を打てば、画面の中が少し動いて、しばらくするとそれに対する返事が返ってくる。

壁を一つ隔てた隣の部屋から。




事の始まりは5年前、私がまだ普通の生活を送っていた頃まで遡る。

兄はすでに引きこもりで、月に1回顔を合わせるかどうかで、仮に合わせたとしても会話などまずしなかった。…正直私には、兄とまともに会話した記憶がない。

そのうち私も部屋からでなくなって、私と兄の繋がりはすっかりなくなった…はずだった。

『暇なら下記まで

http://xxxx………』

いつ交換したかすら覚えていない兄のメアドから、多分交換して初のメールが来た。

そのとき私はよっぽど暇だったのだろう。何の用心もすることなくそのアドレスをクリックした。


そこは小さなチャット部屋のようで゛カフェイン゛という名の一匹の狼がいた。…そして今に至る。



この際、名前が若干似ているのはスルーしよう。


毎晩こうして、2次元の兄と顔を合わせているものの、3次元の兄とはここ3,4年顔を合わせていない。

もちろん髪型も声質も背丈も何も覚えていない。佐藤優哉、名前をフルで覚えていただけでも充分奇跡に値すると思う。ぶっちゃけ、生きているか死んでいるかも分からない。




かふぇおれ:『てかお兄、ちゃんと生きてる?』

カフェイン:『お前とチャット出来る程度には元気』かふぇおれ:『うん、じゃあ大丈夫だねww』

…我ながら、中々歪んだ兄妹だと思う。3年間顔を合わさずに、毎晩チャットだけでコミュニケーションをとる兄妹なんて常識的に考えても非常識的に考えても歪んでいる。


そうこうしている間に時間は過ぎ、もうすぐ夜が開ける。

そうしたら私は眠りについて(多分お兄も)、太陽がサンサンと空に輝く。




カフェイン:『…なぁ』

かふぇおれ:『…何?私そろそろ寝たいんだけど』

カフェイン:『俺とさあ、二人で家出ねぇ?』かふぇおれ:『うん、いーよ』

カフェイン:『二人で世界ぶっ壊さねぇ?』

かふぇおれ:『うん、いーよ』カフェイン:『お前さあ、俺に殺されてみねぇ?』

かふぇおれ:『…うん、いーよ別に。じゃあ、オヤスミ』



珍しくシリアスな雰囲気を出し始めるもんだから、何を言い出すのかと思えば…。

一方的に就寝の旨を告げて、私はパソコンをスリープモードにする。


ベッドまで移動するのさえ面倒くさくて、私はそのまま机に突っ伏す。

…そして、その姿勢を取ること数分。ようやくウトウトとし始める私。


あ、寝れそう――と、そう思い始めた、その矢先だった。


――コンコン



控えめにドアを叩く音が耳に飛び込んできて、口の中で小さく舌打ちをする。

本能的に、これはお兄だ、と思った。


ノック音は数回で止んだが、ドアの前には人影が一つ。

無視し続けることも可能だが、私が部屋のドアを開けない限り兄はずっとそこに立ち続けるだろう。

それこそ未来永劫、永久的に。



「いーよ、入ってきて」

「……」


返事はない。

重たい体を引きずってドアまで行く。


ゆっくりとドアを開けるて視線を上に持っていく。

…そこには思ったよりも背が高くて、思ったよりも整った顔立ちの男が一人。右手には鈍く光る何か。


あぁ、これが私の兄か…、と染々と実感する。


――なんだぁ、想像してたよりもかっこいい…。



「お兄…」


振り上げられるそれには目もくれず、私はどこか他人事のように緩く笑みを浮かべる兄の顔を見つめていた。

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