餌に飼いならされた狼
こちらは男性目線になっております。短いです。
爽やかさとは程遠い作品ですが、よろしければお付き合いください。
「どうして貴女は、そう誰にでも無防備なんだ」
そう言って俺は彼女の手首をつかんだ。
まさか、いきなりこんな街中で遭うとは思わなかったのだろう。驚いたように目を見開き、呆けているのをこれ幸いと無理やり引っ張っていく。
特別、行き先など決め手はいないが、少しでもここから遠ざかりたかった。
「痛っ。痛いから放してよ!」
彼女が抗議の声を上げる。
俺はそんな抗議の声を無視して歩き続けた。
少々用事があって歩いていると、聞きなれた声が聞こえてきた。そうかと思えば、彼女は親しげに男と話していたのだ。誰にでも優しいのは、彼女の良いところだと思う。
―――しかし、ものには限度があるのだ。
明らかに彼女には警戒心というものが欠けている。
現に相手の男の内には、下心がある事が丸わかりだった。…それだというのに、彼女はまったく気付かない。ほんとに、イライラしてしょうがなかった。
不満を体中で表現するように、歩いていた。
そんな突然起こしたこちらの行動に、とうとう彼女も苛立ってきたのだろう。少し大きな声で抗議してくる。
「痛いってば!!腕に跡が残ったらどうするのよ」
そんな声を受けて、初めて手に力がこもっていたのに気づく。無意識のうちに、強く握りしめていたようだ。
彼女の腕に視線を落とすと、確かに少し赤くなってしまっていた。白く細い腕に、その色は目立つ。常ならまずやることのない荒々しい己の行動に、内心驚きを隠せない。……それと同じくらい、目に鮮やかな赤に意識を奪われていた。
様々な感情が身を巡り、俺は少しの間をおいて彼女にこたえた。
「それもいいな。そうすれば、貴女が誰のものか忘れないだろうし。
ほかの奴も……手を出さなくなるだろう?」
俺の愛の言葉のあと、彼女は驚いたような顔をした。
―――嗚呼、さすがに本当の事を言いすぎたか。
普段の優しい俺からは、到底想像できないであろう言葉も、紛れもなく己で育っている想いなのだ。自身がもてる優しさのすべてで、彼女に接していきたいと考えているのに、うまくいかないのは間違いなく彼女が原因なのだ。
自分勝手な思考にとらわれている俺だったが、彼女の顔を見て驚いた。
彼女が、うっすら微笑んだのだ。
予想外に向けられたその微笑みは、俺が永遠に…この愛から抜け出せないことを、物語っていた。
”あぁ、俺はなんて女にとらえられたんだ”
そう思いながらも、それを喜んでいる自分が確かに存在している事を知る。
もう、逃げられない。
次は女性目線になっています。
こちらも短いですが、読んで下さるとうれしいです。