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第9章:函館編・上「鉄路の咆哮、星の城に舞う雪」

 洞爺湖の静寂を背に、旅はついに南下の一途を辿ります。

 目指すは、北の鉄路の終着駅――函館。

 

 そこで私を待っていたのは、時空を超えて現れた一人の「戦友」でした。

 和泉守兼定を腰に差したその男と向かうのは、函館最強の補給基地。

 幕末の志士が「現代の洗礼」に悶絶する、波乱の函館編・前編です!

【07:30:洞爺湖温泉・ホテルの朝食会場】

 

「……佐藤様。またですか。その皿の上の『茶色い山脈』は何の抗議行動ですか?」

 

 冷子の冷徹なツッコミが、脳内に直接響く。

 

 目の前には、北海道産ジャガイモのコロコロッケ、厚切りベーコン、そして三杯目のカレー。昨夜、洞爺湖の夕食バイキングで胃袋の限界リミットを突破したはずなのに、目の前に「無料」という名の戦場があれば、貧乏性の防衛本能が黙っていない。

 

「いいか冷子、これは食事じゃない。函館までの鉄路を生き抜くための**『高エネルギー圧縮燃料』だ。もやし生活に戻れば、このカロリーが血となり肉となるんだよ……ッ!」

 

「左様ですか。その過積載されたカロリーが、単なる体脂肪という名の『デッドウェイト』にならないことを祈ります。……さあ、チェックアウトです。1分遅れるごとにもやし1/2袋分の損失が発生しますよ」

 

【08:30:洞爺湖温泉街 〜 JR洞爺駅】

 

「佐藤様、余韻に浸るのもいいですが、このバスを逃せば特急に乗り遅れます。そうなれば函館到着が12時を過ぎ、行程にも支障が出ますよ」

 

 冷子の警告通り、俺は重い腹を抱えて路線バスに飛び乗った。

 

 車窓から見える洞爺湖が遠ざかっていく。約15分、340円の運賃を支払い、俺はJR洞爺駅のホームに立っていた。

 

【08:52:JR洞爺駅(特急北斗4号・函館行)】

 

 ホームに滑り込んできたのは、力強いディーゼルの咆哮を上げる特急北斗4号。

 

「よし、乗るぞ冷子。ここからは鉄路の旅だ」

 

 指定席に腰を下ろすと、列車はすぐに加速を始めた。

 

 洞爺を出てすぐ、車窓の左手には広大な内浦湾(噴火湾)が広がる。

 

「佐藤様、見てください。あの水平線の先が、これから向かう渡島半島です。……ちなみに、特急料金と乗車券を合わせると、もやしの袋数に換算して約180袋分。貴方の胃袋が半年間もやしだけで満たされる金額が、この1時間20分で消費されます。噛み締めて乗りなさい」

 

「冷子……お前、そういう計算だけは速いな……」

 

 俺は窓の外を流れる海を眺めながら、昨日買った『天体のメソッド』のクリアファイルをそっと撫でた。

 

 長万部を過ぎ、森駅のあたりで駒ヶ岳がその雄大な姿を見せ始める。かつて土方歳三率いる旧幕府軍が上陸した鷲ノ木もこの近くだ。

 

「いよいよ、函館が近づいてきたな……」

 

【10:10:函館駅着】

 

 終着、函館。

 

 行き止まり式のホームに降り立つと、そこにはどこかノスタルジックな、それでいて「ここが北の戦地の終着点だ」と言わんばかりの重厚な空気が漂っていた。

 

「予定通りです。……さあ、佐藤様。目的地:一本木関門。ここからは、星の運命が交差する戦地へ突入します。心のシートベルトを締めなさい」

 

 駅から歩くこと約10分。国道沿いにひっそりと佇む「土方歳三最期の地碑」。

 

 そこへ足を踏み入れた瞬間、視界の端に強烈な「バグ」が生じた。

 

 碑の前に、一人の男が立っている。黒い洋装、腰には和泉守兼定。鋭い眼光が、現代の函館の街並みを射抜いている。

 

「……遅かったな。朝飯を食いすぎていたのか?」

 

「……ひ、土方、歳三……!?」

 

 俺の叫びに、スマホの中から冷子が淡々と告げる。

 

「佐藤様。……解析不能です。目の前の個体は1869年に戦死したはずの土方氏と外見・バイタル・威圧感ともに100%一致しますが、私のデータベースにある『コスプレイヤー』には該当しません。……ですが、論理的に判断してください。函館という複雑な戦地を突破するには、これ以上のガイドはいません。知床でアシㇼパさんが隣にいた時と同じ……これは、貴方の孤独な旅が生んだ『高度なバグ(幻覚)』**です」

 

「幻覚って言い切るなよ! 寂しすぎるだろ!」

 

 土方は不敵に笑い、俺の肩を叩いた。

 

「らぶらいぶ、だったか? 現代の戦士たちが集う城へ行くんだろ。案内してやる。ついて来い」

 

【11:30:五稜郭タワー・展望台】

 

 市電を乗り継ぎ、俺たちは五稜郭タワーの展望台へ。地上90メートル、エレベーターの扉が開いた瞬間、完璧な「星形」が眼下に広がった。

 

「……美しいな。泥と硝煙にまみれていたあの頃とは、まるで別世界だ」

 

 土方が窓辺に寄る。その視線の先、タワー内には『ラブライブ!サンシャイン!!』のSaint Snow、鹿角姉妹のパネルが鎮座している。

 

「土方さん、彼女たちが今の五稜郭の主です。彼女たちもここで、頂点を目指して『戦った』んですよ」

 

 土方はパネルに近づき、じっと姉妹の瞳を見つめた。

 

「ふん、いい面構えだ。己の信念を曲げぬ者の目だな。……佐藤。この城が、今も誰かの『一番』を決める場所であるなら、俺が死んだ甲斐もあったというものだ」

 

「……佐藤様、感動しているところを邪魔して恐縮ですが」と冷子が割り込む。「土方さんのブロンズ像とのツーショットを撮影しました。題名は『ダブル土方』。もやし100袋分くらいのインパクトはあります」

 

【12:30:五稜郭公園・箱館奉行所】

 

 その時、大きなリュックにAqoursの寝そべりぬいぐるみやキーホルダーをジャラジャラと付けた若者たちが、楽しそうに奉行所をバックに写真を撮りながら通り過ぎていった。

 

 土方はその異様な装備品を眺め、「……あいつらは、さっきの女子おなごたちの仲間か?」と不思議そうに呟く。

 

「そうですよ、土方さん!」

 

 俺はここぞとばかりに身を乗り出した。

 

「あれはSaint Snowの、そしてAqoursのファンです! 彼女たちは、この函館で開催された大会で、自分たちのすべてを懸けて歌った。土方さんたちがこの場所で『新しい国』を作ろうとしたように、彼女たちもここで、自分たちの『音楽』という国を証明しようとしたんです。挫折しても、雪の中に倒れても、立ち上がって歌い続けた……。だからこそ、あの若者たちは、かつての戦場を『聖地』と呼んで、あんなに笑顔で集まってくるんですよ!」

 

 土方は、若者たちが奉行所をバックにピースサインを作る姿をじっと見ていた。

 

「自分たちの国、か。……ふん、あいつらも戦士というわけだ」

 

 土方は少しだけ、口角を上げた。

 

「佐藤。俺たちが刀で斬り拓けなかった未来を、あいつらは歌で掴み取ろうとしているのか。……面白い。この城が『夢の跡』ではなく『夢の始まり』の場所であるなら、本望だ」

 

「……佐藤様。解説という名の『オタクの早口』、エネルギー消費を確認しました。暑苦しいので少し離れてください」

 

 冷子の無機質な声が割り込む。

 

「土方氏のバイタルに空腹信号を確認。歴史的感傷も胃袋が空では持続しません。次なる目的地は、五稜郭の向かいにある最強の補給基地、ラッキーピエロです。土方氏に『チャイニーズチキンバーガー』という現代の洗礼を受けさせなさい」

 

「……はんばーがー? 面白い、案内しろ」

 

 幕末の志士を連れて、俺たちは次なる戦地へと進軍を開始した。

 

【13:30:ラッキーピエロ 五稜郭公園前店】

 

「……佐藤様。五稜郭タワーの向かい、あの派手な緑色の看板から発せられる『高カロリーのプレッシャー』を検知しました。装飾過多な店内に足を踏み入れる勇気はありますか?」

 

 冷子のナビゲートに従い、俺と土方さんはラッキーピエロの扉を潜った。店内に一歩足を踏み入れた瞬間、陽気な「ラララ、ラッキーピエロ♪」のテーマソングが鳴り響く。

 

 土方さんは、壁一面を埋め尽くすエンジェル(天使)の装飾と、あまりに原色豊かな内装を凝視して固まった。

 

「……佐藤、ここは異国の見世物小屋か? それとも、敵を油断させるための罠か?」

 

「いえ、土方さん。ここは函館最強の胃袋の守護神です。ここでは誰もが『チャイチキ』の前に膝を屈するんですよ」

 

 俺は一番人気の「チャイニーズチキンバーガー」のセットを二つ注文した。土方さんは、渡された「ガラナ」の瓶を、爆弾でも扱うような手つきで掲げている。

 

「……この、黒い水の中で泡が跳ねているのは何だ? 爆薬か?」

 

「飲み物です。喉に刺さるような刺激が、戦の前には丁度いいんですよ」

 

 土方さんが覚悟を決め、巨大なバーガーを一口頬張った。

 

 咀嚼すること数回。彼の鋭い眼光が、驚きに見開かれる。

 

「……なんだ、これは。この鶏、甘さと辛さが絶妙な均衡を保っている。まるで和泉守兼定の切れ味と、俺の冷徹さが同居しているようだ……。しかも、この泡立つ黒い水が、喉の奥の脂を斬り捨てていく……ッ!」

 

「気に入ってもらえてよかったです。……おや、土方さん、メニューを凝視してどうしたんですか?」

 

 土方さんは、メニュー表の隅にある「ある一点」を、まるで敵陣の弱点を見つけたかのような鋭さで見つめていた。

 

「……佐藤。先ほどから気になっていたのだが、あの品書きにある『しるくそふと』とは何だ? シルクのように滑らか、と書かれているが……。まさか、異国の織物を食わせるわけではあるまいな」

 

「おっ、土方さん、お目が高い! あれは織物じゃなくて、現代の乳製品の最高傑作ですよ。……冷子、追加だ!」

 

 俺はレジへ走り、特製濃厚シルクソフトクリームを一つ追加で召喚した。

 

【デザートの儀:特製濃厚シルクソフトクリーム】

 

 運ばれてきた、真っ白で美しい曲線を描くソフトクリーム。

 

「……ほう。この、口の中で雪のように消える食感。濃厚な乳の味が、喉元を冬の風のように通り抜けていく。……佐藤、これはこれで『あり』だ。戦の合間に食った雪よりも、ずっと温かい味がする」

 

「土方さん……それ、最高の食レポですよ」

 

 土方さんは、最後の一口を惜しむように飲み込み、ふっと笑った。

 かつて泥と硝煙の中で戦った男が、21世紀の乳製品の暴力的な旨味に、再び完敗したようだった。

 

「ふん。……気に入ったぞ。これほどの甘味を供された以上、次は相応の働きをせねばな。佐藤、腹は満ちた。次はどこだ? あの赤い煉瓦の倉庫とやらへ行くのだろう」

 

 土方さんは、満足げに和泉守兼定の鞘をカチャリと鳴らし、席を立った。


冷子の「旅のしおり」:鉄路の咆哮と星の運命編

【禁断の過積載:ホテルの朝食バイキング】

 「無料」という甘美な響きに誘われ、胃袋の限界を超えてカレーとコロッケを詰め込む、佐藤様伝統の儀式です。その摂取カロリーは、もやし生活1週間分に相当します。蓄えなさい、佐藤様。その脂肪こそが、現実という名の寒空を生き抜くための「断熱材」なのですから。


【鉄路の境界線:特急北斗の車窓】

 洞爺から函館へ。内浦湾の水平線と駒ヶ岳の雄姿を眺めながら、もやし換算で180袋分の運賃を贅沢に消費する時間です。車窓を流れる景色は、過去(幕末)と現在(聖地)を繋ぐスリット。スマホの充電と共に、巡礼への気合をフルチャージしなさい。


【函館の洗礼:ラッキーピエロと土方氏】

 五稜郭の星の下、幕末の志士が現代の高カロリー爆弾「チャイチキ」と対峙する歴史的瞬間です。シルクソフトの甘みに陥落する副長の姿は、私のデータベースでも「最重要バグ」として記録されました。ガラナの刺激で喉を焼き、次なる戦地へ備えなさい。


【四日目・午前:函館上陸ログ】

07:30 洞爺湖温泉・朝食(茶色い山脈との決戦)

08:52 JR洞爺駅 発(特急北斗4号・もやし180袋分の進軍)

10:10 JR函館駅 着(北の終着駅へ上陸)

10:30 土方歳三最期の地碑(伝説の副長、バグとして顕現)

11:30 五稜郭タワー(星の城とSaint Snowの邂逅)

13:30 ラッキーピエロ 五稜郭公園前店(チャイチキとシルクソフトの乱)


【装備・推奨案】

 函館の風は、土方氏の眼光と同じくらい鋭く冷たいものです。上着のジッパーはしっかり締めなさい。ただし、佐藤様。貴方の胃袋が「チャイチキ」で膨らみすぎて、ボタンが悲鳴を上げています。物理的な限界突破(ボタンの破損)には十分注意しなさい。


 ついに函館に到着し、まさかの副長・土方歳三と合流した三日目。

 「ラッキーピエロ」の洗礼を、武士の矜持で受け止めた土方さんですが、どうやら現代の甘味の魔力には抗えなかったようです。

 

 しかし、旅はここからが本番。

 次回、赤レンガ倉庫での軍需品(お土産)調達と、函館山での涙のフィナーレ!

 「土方さん、カッコいい……!」と思ったら、ぜひ評価をお願いします!

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