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不在届:302号室 郵便物集積記録  作者: ちぱ


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第8話 〇〇警察署 現場実況見分記録(202X年4月18日)

【資料概要】

本資料は、4月15日の香月氏失踪、および16日の管理人・大谷氏の変死を受け、藤代氏の自宅(コーポ・ササユリ302号室)をアパート管理会社立会いのもと家宅捜索した際の、室内状況に関する記録である。


1. 玄関周辺の状況

4月18日午前10時30分、管理会社による解錠後、捜査員が入室を試みたが、玄関ドアが内側から強固に固着されており、開放に1時間近くを要した。


当初はドアクローザーの故障が疑われたが、実際にはドアと枠の隙間、およびドア全面が、内側から「濡れた不在票と、粘着質の液体」を混ぜ合わせた特殊な充填物によって完全に埋め尽くされていた。


それは単なる紙の堆積ではなく、まるで「巨大な封筒を糊付けして閉じた」かのような状態であり、捜査員がバールでその「紙の層」を剥ぎ取るたびに、内側から生臭い、古紙が腐ったような悪臭が噴出した。


302号室のドアに備え付けられた郵便受けは、内側の受け箱(郵便物を受けるプラスチック製の箱)が何者かによって乱暴に破壊・撤去されており、外部からの投函物がすべてこの「粘着質な紙の層」の中へと、ダイレクトに埋没していく構造になっていた。


玄関の床には、以下のものが異常な密度で堆積していた。


無数の「不在票」: 数千枚に及ぶ。差出人欄には「サトウ」「和也」のほか、判読不能な幾何学模様が記されたものが多数含まれていた。


湿った和紙の束: 糊のような粘着質な液体で固められた紙の塊。


昭和50年代の消印がある封筒: 土砂に汚れたような跡があるが、宛名は藤代氏の現住所になっている。


2. 証拠品(スマートフォンおよび手記)の回収

堆積した不在票の山の中から、以下の2点が重なるように発見された。


スマートフォン: 数十枚の不在票を何重にも巻き付けられ、輪ゴムで縛られた状態。


【特記事項:GPS信号の矛盾】

当該端末の電源は、回収時も「ON」の状態であった。しかし、捜査本部の端末確認によれば、本端末が発信し続けているGPS信号は、依然として「〇〇分室(40年前に土砂崩れで消失した地点)」の座標を指し示している。

目の前にある物理的な筐体と、衛星が捕捉している位置情報が数百キロ離れているというこの異常現象について、通信事業者側も「技術的に説明がつかない。システム上では、この端末は今も土砂の下に埋まっていることになっている」と回答している。


藤代氏の手記: スマートフォンの直下に置かれていた。数枚のルーズリーフが、紐ではなく「細く削り取られた人間の指の骨」で綴じられており、表面には大量の糊が付着していた。


【手記:最終ページ(202X年4月18日 未明)】

いつからここにいるのか、もう分からない。

気づいた時には、私は自分の部屋の玄関にいた。

でも、部屋の中には入れない。郵便受けの「受け箱」が壊されているから、私は扉と床のわずかな隙間、不在票が降り積もる暗闇の中に、無理やり押し込められている。


さっきから、郵便受けの蓋がパタン、パタンと鳴るたびに、何かが私の顔の上に落ちてくる。

和也の保険証。管理人さんの眼鏡。

それらは全部、あの日「分室」から私を追ってきた、**あの「配達員」**が投げ込んでいるものだ。


そいつは今、扉のすぐ外に立っている。

顔に巨大な「切手」のような紋章を貼り付けた、あの異形な男だ。

そいつの背後からは、佐藤さんの泣き叫ぶような声が絶えず聞こえてくる。

「不在ですよ。ずっと、不在ですよ」

鉄板一枚隔てた向こう側から、紙を破くような不自然な音で、その「切手顔の男」が佐藤さんの声を使って囁き続けている。


もう、身体が薄くなりすぎて、文字を書く感覚も消えかかっている。

自分の皮膚が、カサカサと乾いた封筒の紙質に変わっていくのがわかる。

この手記を綴じているのは、私の右手の指の骨だ。

これを書き終えたとき、私は完全に「一通の郵便物」として完成する。


お願いだ。誰でもいい。

この扉を開けて、私を見つけたら、すぐに「受領印」を押して。

そうして「配達完了」にしてくれないと、私は一生、この郵便受けの隙間で、あの男に投函され続けてしまう。


【解析資料】スマートフォン内部・最後のビデオメモ(4月18日 03:33)

(※映像は真っ暗。不規則に郵便受けの蓋が打ち鳴らされる音と、何かが床に落ちる音が反響している)


(藤代の声:ひどく掠れており、呼吸のたびに喉から紙が擦れるような音がする)


「……また、蓋が開いた。

隙間から、あの男の指が見える。関節が変な方向に曲がった、あの白い指だ。

……いや、違う。

男の指が、細長い封筒みたいに伸びて、私の目の中に刺さろうとしている。

あの男の顔の『切手』が、真ん中から裂けて、そこから真っ黒なインクが溢れてるんだ。


あ、ああ……。

今、私に、宛名が書かれた。

身体が、勝手に折り畳まれていく。

もうすぐ、私は私に封をして、この不在票の山の中に消える。


受領印を……誰か、早く受領印を……!」


(ここで映像は途絶えている。記録時間は03:33)


【調査報告:補足】

警察が踏み込んだ際、玄関を埋め尽くしていた無数の不在票には、すべて「10時30分」の受領印が、まだ乾いていない鮮明な朱肉で押されていた。

しかし、室内に藤代氏の姿はなく、奥の和室の壁一面には「受領いたしました」という血文字が、部屋を一周するように執拗に刻まれていた。


また、鑑識の結果、手記を綴じていた骨のDNA型は藤代氏のものと一致したが、その骨からは「40年以上前に土に埋められていたような微細な土壌成分」が検出された。

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