表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不在届:302号室 郵便物集積記録  作者: ちぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/14

第7話 記録資料:藤代氏のスマートフォンより回収された未送信メールおよびボイスメモ

【資料概要】

本資料は、ネットカフェを逃走した後の藤代氏が、自身の母親(あるいは特定の知人)宛てに作成し、送信されぬまま下書き保存されていたメール、および逃走中に記録されたボイスメモを繋ぎ合わせたものである。


【未送信メール:202X年4月16日 16:30】

ネットカフェを出た。受付の「現金書留」なんて無視して、とにかく走った。

でも、おかしいんだ。

街を走っていると、住宅一軒一軒の玄関にある「郵便受け」が、全部私の方を向いて口を開けているように見える。

ガチャン、ガチャン、とあちこちで蓋が跳ねる音が聞こえる。

まるで、私の足音に合わせてリズムを取っているみたいに。


さっき、信号待ちをしていたとき、隣に立っていたサラリーマンの持っていたカバンを見た。

カバンのファスナーの隙間から、大量の「不在票」が溢れ出していた。

それだけじゃない。彼の耳の裏に、赤い判子が押されていた。

『転送』

彼は無表情でスマホを見ていたけど、その画面には、私の顔写真が「切手」みたいに四角くトリミングされて表示されていた。


街全体が、私をどこかへ運ぼうとしている。

「宛先」がない場所なんて、どこにもないんだ。


【ボイスメモ:202X年4月16日 19:45】

(藤代氏の声:激しい息切れ。周囲には風の音と、遠くで聞こえる規則的な「パタパタ」という音)


「……山の方へ向かってる。図書館の資料で見つけた、あの郵便局の分室跡がある山だ。

あそこに行けば、何か、終わらせる方法があるかもしれない。

……いや、本当はわかってる。私は、引き寄せられているんだ。


さっき、自分の腕を見て気づいた。

手首のあたりに、点線ができている。

『ここから切り取ってください』っていう、ハサミのマークと一緒に。

私の体は、もう半分、紙になりかけてる。

触ると、カサカサと音がするんだ。皮膚の感覚がない。


……待て、誰か来る。

自転車の音だ。

こんな街外れの山道に、配達員なんて来るはずがない。

でも、鈴の音が聞こえる。

昭和の、古い郵便自転車の音だ。


佐藤さん……? 佐藤さん、そこにいるのか?」


【未送信メール(下書き):202X年4月16日 21:10】

宛先:お母さん

件名:(なし)


ごめんなさい。

今、目の前に古い石造りの建物が見える。

地図には載っていない。でも、壁に「郵便」のマークが彫ってある。

入り口に、和也の靴が置いてあった。

綺麗に揃えられて、その中に、和也の「指」が一本ずつ、切手みたいに並べられてた。


中から、スタンプを押す音が聞こえる。

ドン、ドン、ドン、って。

私の名前を呼ぶ声がする。

佐藤さんじゃない。

和也の声だ。

『藤代、中身を見せてくれ。お前の、中身を』


今から、この扉を開ける。

封を切るみたいに。


【調査報告:補足】

藤代氏が最後にGPS信号を発信した地点は、40年前に土砂崩れで消失した「〇〇分室」の真上であった。しかし、現地は現在も深い土砂に覆われており、建物どころか人一人が入り込める隙間すら存在しなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ