第5話 記録資料:友人・香月氏のスマートフォンに残された音声および画像ログ
【資料概要】
本資料は、藤代氏の友人である香月氏が、藤代を自宅に招き入れる直前から数時間の間に記録していたデータである。香月氏は藤代が到着するのを待つ間、部屋の「異変」に気づき、記録を開始したと思われる。
【音声ログ:202X年4月15日 19:20】
(香月氏の声:少し笑っている)
「……あー、藤代が今から来るんだけどさ。あいつ、マジでビビりすぎ。前の住人の手紙がどうとか言っちゃって。
……っていうか、なんか俺の部屋も変なんだよね。さっきから、ドアの郵便受けがパタパタ鳴ってんの。風かな?
あ、また鳴った。ちょっと見てくるわ」
(足音。カサカサという乾いた音)
「……え、何これ。手紙?
いや、違う。これ、藤代の保険証じゃん。 なんでこんなとこに入って……。
……おい、藤代! お前もう着いてんのか? 外にいるんだろ?」
(ドアを開ける音。廊下には誰もいない静寂)
【画像データ:19:45】
香月氏が自室のデスクを撮影した写真。
ノートPCのキーボードの隙間から、真っ黒な髪の毛のようなものが数本、宛先を探す触手のように突き出しているのが確認できる。また、画面上には「未読メール 999+」の表示があり、そのすべてが「サトウユキオ」という差出人からである。
【音声ログ:20:15】
(香月氏の声:呼吸が荒い。クローゼットの中に隠れているような密閉音)
「……おかしい。おかしい。藤代が外にいるのに、ドアが開かない。
外で藤代が『開けて』って叫んでるのに、内側から糊みたいなベタベタしたものが溢れてきて、 扉が固まって動かないんだ。
……それと、さっきから部屋の隅にあるゴミ箱から音がする。
ゴミ箱の中に、誰かがいる。
さっきからずっと、『宛先は?』『宛先は?』って、低い声で聞いてくるんだ。
藤代、助けてくれ。お前、何を連れてきたんだよ。
あ、待て……ポストの口から、何か入ってきた。
手紙じゃない。
……指だ。 白い、細い指が、何本も、何本も……」
(ここで音声は、激しい紙の擦れる音と共に途絶えている)
202X年4月15日(月) 21:00 藤代氏の手記(震える筆跡)
和也の部屋の前で、1時間以上叫び続けた。
中から和也の悲鳴が聞こえたのに、ドアがどうしても開かない。
まるで、ドア全体が一枚の封筒として閉じられてしまったみたいに。
管理人に連絡して予備鍵で開けてもらったとき、部屋にはもう、カズキはいなかった。
ただ、部屋の中は足の踏み場もないほどの「シュレッダーにかけられた紙屑」で埋め尽くされていた。
その紙屑を一つ拾ってみた。
バラバラに切り刻まれていたのは、手紙だけじゃない。
和也が着ていた服と、和也の……。
そして、部屋の中央に、一通だけ巨大な「小包」が置いてあった。
中身が何かなんて、考えたくもなかった。
でも、その小包の「送り主」の欄に、和也の筆跡でこう書かれていたんだ。
『転送先:302号室 藤代様』
私は、和也を「転送」させてしまった。
私が、彼を郵便物にしてしまったんだ。
【調査報告:補足】
香月氏は現在も行方不明である。
警察が現場に到着した際、部屋を埋め尽くしていた紙屑はすべて「真っ白な白紙」に変わっており、DNA鑑定に必要な痕跡すら、何一つ残されていなかった。




