第4話 記録資料:〇〇県立図書館 所蔵・地域史調査メモ
【資料概要】
本資料は、藤代氏が失踪の3日前に図書館で複写したと思われる、郷土資料のコピーと彼の自筆メモである。
郷土資料:『〇〇市・災厄の記憶』(198X年刊)より
「19XX年、土砂崩れによる郵便局〇〇分室の崩壊について」
当時、山間部にあった〇〇分室には、配達困難な「宛先不明」の郵便物が集められていた。
民間伝承によれば、この土地には古くから「届かなかった想い」を土に還す儀式があったという。
分室が崩壊した際、局員5名と共に、約10万通の「未配送の郵便物」が地中に埋まった。
当時の生存者の証言によれば、崩壊の直前、局内では「手紙が泣いている」という奇妙な音が響いていたという。
【藤代氏による手書きの付箋】
佐藤幸男は、この分室の元局員名簿に名前があった。
しかし、名簿上の佐藤幸男は、土砂崩れの時点で当時25歳。
もし生きていたら、今は60歳を越えているはず。
でも、アパートの管理人は「佐藤さんは30代くらいの、物静かな男だった」と言っていた。
時間が、手紙の中だけ止まっている?
202X年4月15日(月) 藤代の手記より
図書館から帰る途中、妙なことに気づいた。
街中のポストが、全部「私の方を向いている」気がする。
いや、そんなはずはない。ポストは固定されている。
でも、角を曲がるたびに、あの赤い箱の「投函口」が、大きな口を開けて私を待っているように見えるんだ。
耐えられなくなって、大学の友人、和也のアパートに泊めてもらうことにした。
自分のアパートには、もう二度と戻らない。
着替えも教科書も全部置いてきた。
これで、あの郵便物からは逃げられるはずだ。
和也のアパートに着いて、ドアを開ける前。
ふと、彼の部屋のドアに付いている郵便受けを見た。
そこから、「私の健康保険証」が、半分だけ顔を出していた。
私は、自分の財布を確認した。
保険証はある。ここにある。
じゃあ、あそこに刺さっている「保険証」は、なんだ?
震える手でそれを引き抜くと、裏側に赤いインクでハンコが押してあった。
『検印:佐藤幸男』
同時に、和也の部屋の中から、ガサガサと大量の紙をかき回すような音が聞こえてきた。




