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不在届:302号室 郵便物集積記録  作者:


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第2話 記録資料:302号室退去後の清掃時、および藤代氏による発見資料

【資料概要】

本資料は、前の住人・佐藤幸男の失踪後に管理会社が行った簡易清掃の記録と、その後に入居した藤代氏が「畳の裏」および「壁紙の剥がれ」から発見した、未投函のハガキ・メモの書き起こしである。


管理会社・清掃担当者の報告メモ(抜粋)

「302号室、清掃終了。残置物なし。

ただし、和室の畳に不自然な浮きあり。また、部屋全体に古い紙が焼けたような、あるいは生臭いような異臭が僅かに残る。換気扇を回し、消臭対応済み」


202X年4月12日(金) 藤代の日記より

あの「302号室の次の人へ」と書かれた封筒が届いてから、一睡もできていない。

中身を見る勇気はなかった。ゴミ箱の奥に押し込み、その上から重い雑誌を乗せて蓋をした。


掃除でもして気を紛らわせようと思い、和室の模様替えを始めた時のことだ。

家具を動かすと、畳の一枚が妙にガタついていることに気づいた。

隙間に指を入れ、少し持ち上げてみた。


そこには、大量の「ハガキ」が敷き詰められていた。

すべて、佐藤幸男が書いたと思われる、狂気じみた返信の山だった。


【発見資料:畳の下の「返信」書き出し】

(資料A:官製ハガキ。宛名は真っ黒に塗りつぶされている)


「まだ出せません。爪は届きましたが、色が違います。

佐藤はもっと、赤いものを求めています。

玄関の隙間から覗くのはやめてください。まだ書いている途中です」


(資料B:ノートの切れ端。血のような茶色いシミが付着)


「わかっています。毎日午前3時に来ているのは知っています。

返事を書かなければ郵便受けが壊れてしまう。

郵便受けを壊さないで。私はここから出られません。

鍵はテーブルに置きました。でも、扉が開きません。

外側から、誰かがずっと、私宛の手紙を押し込み続けているからです」


(資料C:破り取られたチラシの裏。筆跡が激しく乱れている)


「お迎えですか? 違いますね。

郵便受けから入ってきた指が、私の喉をなぞりました。

とても冷たかった。

佐藤幸男はもうすぐ完成します。

あとは、宛名を書くだけです。

次は、誰の名前にすればいいですか?」


202X年4月13日(土) 藤代氏の手記より

手が震えて、ハガキを元に戻すことができなかった。

佐藤さんは「出られなかった」んだ。荷物もそのままで、もぬけの殻だったんじゃなくて、「手紙の山に埋め尽くされて、消えた」んじゃないのか。


その時、また音がした。

郵便受けのパタパタという音じゃない。


今度は、和室の壁の裏から。

「カリ、カリカリ、カリ……」

誰かが、壁の内側から爪で引っ掻いているような音。


ふと見ると、クローゼットの横の壁紙が少しだけ浮いている。

私は吸い寄せられるように、その壁紙を少しだけ剥がした。


壁の石膏ボードには、びっしりと文字が刻まれていた。

鉛筆やペンじゃない。尖った何かで、深く、何度も。


「たすけて さとうゆきお たすけて さとうゆきお たすけて」


その無数の文字の中に、たった一つだけ、今日の日付と共に、私の名前が刻まれていた。


【調査報告:補足】

藤代氏はこの直後、警察に連絡を試みているが、彼のスマートフォンからは「宛先不明」の電子メールが数百通、一斉に送信されていたことが判明している。メールの内容はすべて、「受取拒絶」という4文字のみであった。

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