第1話 記録資料:入居者による生活記録、および郵便物仕分けリスト
【資料概要】
本資料は、〇〇大学1年生の藤代氏が、入居初日から記録していた手記、およびスマートフォンのメモ機能に残されていた「未転送郵便物」のリストである。
202X年4月1日(月)
今日から「コーポ・ササユリ」302号室での生活が始まった。
家賃4万2千円。築年数相応にガタは来ているが、日当たりは悪くない。
ただ、一点だけ気になることがある。
郵便受けが、前の住人宛の封筒でパンパンに膨れ上がっていた。
「佐藤 幸男」
それが、この部屋に住んでいた男の名前らしい。
管理会社には「こちらで処分していい」と言われたが、あまりに数が多い。
念のため、内容をリスト化して、まとめて郵便局に「受取拒絶」で返そうと思う。
【郵便物リスト:4月1日〜4月7日分】
4/1: 〇〇電力 督促状(佐藤幸男様 宛)
4/1: 某大手カード会社 利用明細(同上)
4/2: 紳士服店 セール案内(同上)
4/3: 差出人不明 茶封筒(宛名:佐藤幸男様へ)※切手が貼られていない。
4/5: 市役所 税務課からの通知(佐藤幸男様 宛)
4/7: 白い和封筒(宛名:さとうゆきおさまへ)※子供のような丸文字。
202X年4月8日(月)
少し気味が悪くなってきた。
今日届いた「さとうゆきおさまへ」という手紙。切手も消印もない。
誰かが直接、このアパートのポストに差し入れたということか。
間違えて開けたふりをして、中身を少しだけ確認した。
便箋は入っておらず、中に入っていたのは**「使い古された、千切れた爪」**が数片と、一言だけ書かれたメモ。
「おへんじ、まだ?」
佐藤さんは、何に返事をしていないんだろうか。
それに、この爪。よく見ると、マニキュアが塗ってある。
202X年4月10日(水)
管理会社に電話した。
「前の住人の佐藤さんの転居先を教えてほしい。手紙が止まらない」と。
担当者は少し沈黙した後、こう言った。
「佐藤さんは、転居していません。清掃が入った時、お部屋はもぬけの殻でした。 荷物も、家具も、全てそのまま。鍵だけがテーブルに置いてあったそうです」
じゃあ、この大量の郵便物は、どこへ向かっているんだ?
夜、寝ようとすると、玄関のドアの向こうで**「カサリ」**と音がした。
郵便受けの隙間から、何かが滑り込んできた音だ。
時刻は午前3時。
こんな時間に配達が来るわけがない。
恐る恐る玄関に行き、床に落ちたものを見た。
それは、昨日私が郵便局に返したはずの、あの「白い和封筒」だった。
表面の宛名が変わっていた。
「302ごうしつの、つぎのひとへ」
【調査報告:補足】
藤代氏が撮影したとされる「画像データ」によれば、和封筒の裏側には、泥で汚れた指紋のような跡が無数に付着していた。また、この日の周辺防犯カメラには、アパートの敷地に立ち入る不審者の姿は一切記録されていない。




