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EP7 友達と教室と嵐?

 パンケーキの香りが、まだ鼻腔の奥に残っている。

 ベッドの上、わたしはスマホを見つめている。

 画面に映るのは蒼園(あおぞの)さんとのライン。


「『今日はありが』……。『本日は誠に』……」


 蒼園さんへのメッセージを打っては消す。

 頭の中が甘い香りで満ちて文字を掻き消す。

 頭を冷ますために一旦スマホを置く。

 見上げた天井はベージュの見慣れたもの。だけど、今日はパンケーキと重なって甘い香りをさらに想起させる。


「……それにしても、蒼園さん、可愛かったな……」


 ――ブーッ。


 少し遠くでスマホが鳴った。

 ゆっくりとスマホに手を伸ばし、画面を見る。


「あっ……えっ!?」


 そこに映っていたのは蒼園(あおぞの)さんからの通知だった。

 指を素早く動かして内容を確認する。


 蒼園『今日は楽しかったよ。ありがとう』


 工夫も飾り気もない言葉だったが、輝いてみえた。

 指を再度素早く動かす。


 『こちらこそありがとう。また明日ね!』


 スマホを置いた。優しく、ゆっくりと。



 ――翌日。


 教室はいつもと変わらない。


「おはよぉ〜」

「うん、おはよ」


 隣の(かえで)に挨拶をして自分の席につこうとした、だがわたしの席には先客がいた。


 さらさらの赤髪を堂々と(なび)かせ、栗のような茶色の目をした少女。当然のようにわたしの席に座っていたその人は……。


「あれ、安房(あわ)さん? どうしてここに?」


 その人は生徒会書記の一年生、安房(あわ)柚香(ゆずか)。入試一位で入学式のときに挨拶をしていた。

 その安房さんがわたしの席に座って、ニコニコと手を振ってくる。え、面識ないよ? クラス隣だよ?

 わたしは助けを求めるように隣の楓を見る。


「楓、これ、どういう状況?」

「え、見たまんまだよぉ〜」


 笑顔で答える楓。まるで現状をこいつ、安房さんに手懐けられたのか。

 楓は信頼できない、肩を落としつつ安房さんと向き合う。


「安房さん、何か用事?」


 安房さんはひらひらと手を横に振る。


「じゃあ、なに?」


 そう聞くと、安房さんは立ち上がり、わたしを顎クイしてきた……!?

 わたしより少し背の高い安房さんと、ちょうど目が合う。

 いい香りする、指先から安房さんの体温を感じる。

 心拍が高鳴り、頬が熱くなってきた。

 安房さんは(あや)しく微笑み、口を開く。


片原(かたはら)さん、ワタシと付き合わない?」

「……へ?」


 耳がおかしくなったのだろうか、流石にありえない。

 ぽかんと、無言で安房さんを見つめる。

 少しの間見つめ合った後、安房さんは目を少し細める。

 

「そうか、片原さん、結構ワガママさんだね。いいよ、もう一回言ってあげる」


 うわっ!?安房さんがわたしの左耳に顔を近づけてくる。

 安房さんの髪の香りが嗅げてしまうほど近い。

 安房さんはわたしの左耳に向かって口を開く。囁くように、優しく甘い声で。


「片原さん、ワタシと付き合おう」


 安房さんの声が体中に響く。

 震える。

 お腹の辺りが熱い。

 安房さんは顔を引いて、顎クイを外す。

 安房さんの顔はケロッとしていて、さっきまでと何一つ変わっていなかった。

 安房さんは畳み掛けるように続ける。


「じゃあ、ここで周りのみんなの様子を見ようか」


 安房さんは再度、わたしの顎を取る。

 ゆっくりと舐め回させるように教室中を見させられる。

 みんなの視線はわたしたちに集まっていた。

 中でも蒼園さんは目をわなわなさせていた。

 安房さんはまた顎クイしてわたしと目を合わせる。


「さあ、どうする? お姫さま」

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