EP6 パンケーキより甘いもの
週末の駅前、待ち合わせの一時間前に到着した浮かれポンチが一人。
そう、私――沙楽だ。
ただ友達と一緒にパンケーキ屋に行くだけなのにこんなに浮かれている。
なんだか少し虚しい塊が心にひょこっと姿を現す。
わたしと瓜ふたつだ。
『何勝手に浮かれてんだよぉ』とか。
『ただの『お友達』になりたかたったんじゃないのかよ』とか。
……若干、的を射ていることを言ってくる。
わたしが静かに自滅していると、向こう側から見覚えのある白髪が近づいてきた。
「沙楽ー、来たわよー」
蒼園さんが走って近づいてくる。
揺れる白髪は高級カーテンのよう。
質感が良さそうでさらさらしているのが一目で分かる。
そして何より、可愛い!
わたしと蒼園さんは向き合う。
可愛い。
白のフリフリのブラウスにピンクのスカート。
いつもかっちりとした制服姿とはおよそかけ離れたとんでもなく可愛すぎる服装!
……やばい、鼻血出るかもしれない。
思わず顔を背ける。
すると、蒼園さんがとことこと歩いてわたしと向き合う。
「急に目を背けないで。……服装、やっぱり変だったかしら……」
俯き、少し目を細めた蒼園さんに、わたしは即座に首を横に振る。
「そんなことない。全然変じゃない。蒼園さん、可愛すぎるよ」
そういうと、蒼園さんは顔を赤くし、俯いたまま答える。
「……そう、ありがとう」
やけに塩らしかった。変なこと言っちゃったかな。
でも蒼園さんは機嫌を損ねたようではなく、わたしの手をとって繋ぐ。
白い華奢な手。その手をわたしがすっぽりと覆い被せる。
「じゃあ、行きましょっ!」
「うん、行こっか」
わたしたちはパンケーキ屋に向けて歩き始めた。
数分、歩いてわたしたちはパンケーキ屋に着く。
「ここ、『レグナント・パンケーキ』。人気店ですっごく美味しいの」
「え、沙楽、来たことあるの?」
蒼園さんは青くて大きな目を丸くして、わたしに問いかける。
「うん、一回だけだけどね」
「……誰かと、来たの?」
「うん、楓と」
「へぇ、そうなんだ……」
蒼園さんはそれだけ聞いて無言になった。
返ってくるのは、手を握られる力が強くなっているということだけ。
……あれ、なんかやらかした?
何かをやらかした可能性のあるわたしは、すぐさまカバーを試みる。
「そ、そんなことより、早く入ろう」
「……うん、入ろう」
蒼園さんの声がいつもより低い。
やべぇ。
わたしたちは独特な緊張感の中、パンケーキ屋に入る。
「いらっしゃいませ〜。テイクアウトですか? イートインですか?」
店に入るや否や、長い栗毛の少女が案内してくれる。
青と白のチェックの制服が可愛らしい。
「イートインで」
「かしこまりましたー」
わたしたちは促されるまま、向き合うように席につき、一番人気を注文した。
「楽しみだね」
「……うん、そうだね」
……蒼園さんが目を合わせてくれない。辛うじてこちらからの会話には応えてくれるものの、それ以上がない。
友達としての初お出かけ、ミスったか。
頭の中では大反省会。蒼園さんは運ばれてきた飲み物をちびちび飲んでる。ストローもちょっと齧ってる。
反省会が佳境に差し掛かりそうな中、パンケーキが運ばれてきた。
「どうぞー、レグナントスペシャルでーす」
「ありがとうございます」
「……ありがとうございます」
わたしたちの目の前には山盛りのパンケーキ。
「美味しそうだね」
「……うん、美味しそう」
蒼園さんは大きく一口。リスみたいになりながら、それでも上品に咀嚼する。
――ゴクッ。
「……美味しいっ」
蒼園さんは微笑む。わたしとも目を合わせてくれるようになった。よかった、機嫌を取り戻せたようだ。
安堵で胸の奥が軽くなったわたしも、パンケーキを口にする。
「あ、美味しい」
自然と口角が上がる。
美味しいね、そう言おうとして蒼園さんの方を見た、その時だった。
――パシャッ。
「え?」
スマホを構えた蒼園さんがシャッターを切っていた。
わたしと目が合った蒼園さんはスマホで口を隠し、こう言った。
「ごめんなさい、沙楽が可愛すぎるから、うっかり……」
……かわよ。
「いいよいいよ。わたしでよければじゃんじゃん撮っちゃっていいよ」
「本当に!? ありがとう!」
蒼園さんはパァっと笑顔になって、再度スマホを構える。
蒼園さんのパンケーキはゆっくりと減っていった。
それよりも早いペースで店内の一角にはシャッター音が響いた。
……これ、『お友達』なのか……?
疑問は過ったが、さっきなんかやらかしちゃった(?)みたいだし、まぁ、今日はいっか。
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