EP12 お昼ご飯タイム
目の前の楓が目を丸くしながら口を開く。
「で、なんでこうなってるの?」
「……さあ、分かんない」
両隣から声が聞こえる。
右から蒼園さんの声が、わたしの後ろを通って左の安房さんに届く。
「柚香、今日という今日は譲らないわよっ」
いつになくハキハキと力のこもった声と共に、蒼園さんが安房さんを指差す。その頬は膨らんでいて、赤く染まり、目がいつもの二倍くらい大きくなっていた。なんだ、なにかいつもと様子が違う。
「……ふーん?」
言葉に眉一つ動かさず、安房さんが立ち上がる。一歩二歩近づき、蒼園さんの指をその手で絡めて握った。
「そう? じゃあ頑張ってね」
落ち着いた声色で、取り払うように告げた。蒼園さんの目が細まっていく。
冷たい、彼女たちの空気がピリピリとしてきてわたしまでも巻き込まれそうだ。
と、嫌な予感とは得てして当たるもので、彼女たちの細まった視線が全てわたしの方に向いてきた。
怖い、まるで針の先がこちらに向いたかのよう。
先に口を開いたのは蒼園さんだった。
手にはいつの間にかお弁当箱を持っていて、もう片方の手では箸を持っている。なぜかぷるぷると震えている手で唐揚げを一つ持ち上げ、わたしの方に差し出してくる。
「さ、沙楽っ! 私お手製の唐揚げよっ! 食べて……?」
声が上擦っていて、目はどこを見つめているのかキョロキョロと動き回る始末だ。絶対に動揺してるじゃん。
箸は止まらず、わたしの口にじわじわと近づいてきて、揚げ物のいい香りが充満してきた。
「……おいしそう」
思わず口から出た言葉は、思わぬ効力を持っていた。なんと、一瞬にして蒼園さんの表情を柔和させ、にやつかせたのだった。手の震えも収まり、目はちゃんとこっちを向いている。蒼すぎる瞳がわたしを捉えて離さない。少し潤んで、可愛い、可愛すぎる。そう思った時には、もう口が動いていた。
――ぱくっ。
含んだ唐揚げは内包する肉汁を惜しげもなく解放した。
「おいしい……おいしいよ、蒼園さんっ」
ふと見直した蒼園さんの表情、もとい口角は上がりきっていた。目は蕩け、頬は緩み、なんというかその、とてもだらしない表情になっていた。ニマニマという効果音が似合いそうな笑顔が、一歩近づいてきて、視界がほとんど蒼園さんに染まる。
「……本当に、おいしい?」
「うん、おいしいよ。最高に」
――
そこから先は、よく覚えてない。ただ、わんこそばみたく弁当を口に運ばれたことだけは確かだ。




