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EP11 機嫌が悪い

 週明けの学校、わたしは隣の(かえで)に囁く。


「ねぇ、楓。蒼園(あおぞの)さん、最近なんか変じゃない?」

「へん〜? そうかなぁ」


 楓はニヤニヤしながら目を逸らす。

 だめだこいつ、当てにならない。

 席から立ち、蒼園さんの席に向かう。

 いつものように凛としていて、座る姿はまるでボタン。

 わたしはその碧眼を覗き込みながら、口を開く。


「あのー、蒼園さん?」

「はいッ!」


 蒼園さんは体を震わせながら、飛ぶように立ち上がった。反動で席は倒れた。


「あっあっあっ」


 目をうるうるさせながら、くるくると回る蒼園さん。わたしと席の方を交互に見て、どっちから先に対処しようかと困惑しているようだった。

 さらさらの青髪が舞う、その姿はどこか美しさすら感じた。

 こんな人がわたしに告白してきてくれたんだよな……。

 と、眺め続けるわけにもいかない。

 

「先に椅子直していいよ」

「あっ……うん」


 もう少し眺めていたかったが、致し方ない。

 やると決まった蒼園さんが椅子を直すのは早かった。すぐさまわたしの方を向き直す。

 しかし。


「……あ、あの、その。な、何か用かな?」


 目がわたしと合わない。

 わたしは蒼園さんの目を追いかける。

 

「よっは、はっは」

「……」


 蒼園さんは無言で避け続ける。

 最近、いつもこうなのだ。

 目を合わせてくれないし、話し方もなんだか辿々しい。

「ふー」っとため息を吐きながら、わたしは止まる。

 蒼園さんもそれに合わせるように止まる。


「蒼園さん」

「……はい」

「最近、一緒にお昼を食べてくれないのって、なんで?」

「……」


 俯く蒼園さん。

 わたしたちの間に沈黙が漂う。

 少しして、蒼園さんはその青い髪を、指でくるくると巻きながら話す。


「……気分」

「気分?」

「……気分」


 どうやら気分だったようだ。

 気分だったようだ。

 気分だった。

 気分。

 ……。

 気分ってなんだよ!

 結局何が原因かわからない。

 混乱するわたしを前に蒼園さんは続ける。


「その、急に、一緒にお昼ご飯食べなくなっちゃったのは、その……ごめんなさい」


 唇をまごつかせながら、蒼園さんは言い切った。

 そしてその頭を下げる。


「いやいや、頭下げなくていいから」


 急いで目の前の緊急事態に対処する。


「でも、怒ってる、よね?」

「いやいや、怒ってるなんて微塵も」


 蒼園さんがゆっくりと、覗き込むように頭を上げはじめる。

 よし、あと少し上げてくれたら元通り。

 畳み掛ける。

  

「むしろ、蒼園さんの方が怒ってないかどうか心配だったんだからね」


 ――バッ。


 そう言った瞬間、蒼園さんが急にわたしの手を取った。

 

「え?」


 鼓動。

 蒼園さんは息を切らしながら、途切れ途切れで言葉を紡ぐ。


「怒って、なんか、ない。……だから、これからも、お友達、でいて……」


 蒼園さんの瞳は、潤んでいた。

 胸の奥。


「もちろん、蒼園さんは大切な友達だよ。これからも、よろしくね」


 強く、白く華奢な手を握り返した。

 蒼園さんの口からは、僅かな笑みが溢れた。

 

 

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