EP10 水族館
水族館――ロマンがあって、ハイセンスな場所。
今日はそんな水族館に向かっている。なんでか『お友達』に誘われてしまったのだ。
駅の改札を出ると、見覚えのある赤髪が見えてきた。待ち合わせ時間より十分は早いのに、もうすでにそこにいた。
彼女はスマホのインカメを鏡代わりにして、前髪を整えている。
しかし、わたしが来たのを察したのか、パッと後ろを振り返った。
「やあ、片原さん。おはよう」
「ごめんね、安房さん。待ったせちゃったかな?」
「うん、待ったけど、退屈じゃなかった」
首を傾げる安房さん、赤い髪が風を纏って膨らむ。
「片原さんと一緒に水族館に行けるから、だね」
「へ?」
あまりのキラーフレーズに耳を疑う。
これだけのことを言っておきながら、安房さんの表情はいつも通りの笑顔。微塵も動揺していないようだった。
「じゃあ、行こうか」
すっと手を差し出してくる片原さん。
「……うん、行こうか」
その手はさらさらしてて、ほんのり暖かかった。
――
「わぁ、見て。ペンギン」
目の前の美少女、安房さんがニコニコで水槽を指差す。
正直、とんでもなく可愛い。
水族館の薄暗さも安房さんの肌の白さを引き立てる。
改めて、凄い美少女と『友達』になったのだなぁ。
いや、安房さんは『彼女』になって欲しかったんだっけ……。
「よし、次行こ」
導かれるままに、手を引かれてペンギンの水槽を後にした。
続いて向かったのはマグロの大水槽。
「じゃあ、ここで一回休憩しようか」
「うん、そうだね」
わたしたちはその前に広がる広いベンチに腰掛けた。
マグロは大きな箱海の中でゆっくりと流れていた。
彼らには何も悩みごとなんてなさそうに見える。
わたしはどうだろう、悩みはあるだろうか。
悩み……蒼園さん、安房さんと友達になった。今はかなり順調だと言える。
だけど、今冷静に考えるとその二人を振ってるんだよね。
……やばくね?
……やばいな。
あんなに美少女な蒼園さん、学年一の優等生の安房さん。
多分、彼女たちを不幸にすると、死神とか出てきて首に鎌を当てられるかもしれない。
だから、そうならないように彼女たちとはいい『お友達』としての関係を築かないといけないんだ。
ひっそりと暗闇で拳を握りしめる。
ふと、隣を見た。安房さんはジッとマグロを見つめていた。その目はどこかいつもとは違い、少し緩んでいた。
わたしたちはそのまま、マグロを見続けた。
マグロは大きな箱海の中でゆっくりと流れていた。




