EP1 彼女を名乗られた日
わたしのクラスには美少女がいる。その名は蒼園華那。その彼女と、わたしは見つめ合っている。
何も告げない碧眼に引き出されるように口を開く。
「ど、どうしたの? 蒼園さん」
しおりを挟む暇もなく文庫本を閉じた。
蒼園さんは何度も確かめる様に、わたしをジロジロと見回す。わたし、なんかしちゃったかな。額から冷や汗が滲んでくる。
蒼園さんはそんなわたしの様子は気にも止めず、その白く華奢な手でわたしの手を取る。
そして、再度目を見つめ合い、蒼園さんは口を開く。
「沙楽、今日からあなたは私の彼女よ」
「へ?」
言い終えた蒼園さんは目を逸らし、頬を紅潮させる。
わたしの手を握る力は弱くなるどころか少し強くなる。
――なんで、なんで!?
――遡ること、一ヶ月。
初めての高校の教室。何もかもが新しい中、わたしは友達作りに励んでいた。
みんなに声を掛けていく中、一人だけ声を掛けられなかった子がいた。
透き通るような白髪に海より青い碧眼。
明らかに空気の違う美少女。
彼女の周りにはいつの間にか男女多くの人が集まっていて、到底話しかけられない雰囲気が出来ていた。
まあ、後でいっかと思いながら、席についた。
――回想終わり!
……と、何一つ心辺りがないのだ。
入学したてのときに挨拶することすらなく、蒼園さんとはそれ以外に大した接点もない。あ、わたしの名前知ってくれてたんだ、くらいの距離間だ。
それがどうして、なぜ!?
『今日から私の彼女よ』?
聞き間違えだろうか、そうだ、聞き間違えに違いない。わたしは蒼園さんに聞き返す。
「えーっと、ごめん、よく聞こえなかったっ。もう一回言ってくれる?」
それを聞いた蒼園さんはハッと目を大きくした後、目を潤ませ更に頬を赤らめた。
彼女は小声で告げる。
「あなたって、結構欲張りさんなのね……。でもいいわ、もう一回言ってあげる。沙楽、あなたは私の彼女よ。よろしくね」
おっと、聞き間違えではなかったようだ。
わたしは驚きによって、椅子からずり落ちる。
しかし、わたしの体は床につくことはなかった。蒼園さんの両手にしっかりと支えられていたからだった。
「だ、大丈夫!? 沙楽、怪我はない?」
蒼園さんは目の色を変えてわたしの体を引き起こす。体をじっくりと見回されながらわたしは棒立ちする。
「うん、とりあえずは怪我はなさそう。よかったわ」
ふーとため息を吐く蒼園さん。
蒼園さん、こんなに表情豊かだったんだ。
わたしは蒼園さんの新たな一面を知れたような気がした。
いつも凛としているところしか見た事がなかった。
そんな蒼園さんは私に微笑みを向けてくる。
「じゃあ、これからよろしくね。彼女の沙楽!」
「ごめんなさい、付き合えません」
即座に頭を下げる。
わたしたちの間に確かな沈黙が広がった。
前からは蒼園さんの声がする。
「……だいじょうぶ、だいじょうぶ……」
その声はか細く、震えていた。
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