表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/8

第3話 契約完了

「――これでよし! じゃあ、改めて契約内容の確認ね?」


 そう言ってセラちゃんは、金色のデザインがあしらわれた上質そうな用紙に向かって何やら書き込んでいた手を止めると、目配せをしてくる。

 それに対して俺が了解の意味で一度頷くと、そのまま用紙――『契約』の魔法に使う契約書の魔道具らしい――を手に取り、内容を読み上げていく。


 その中身について要約すると、まず契約の成立条件として俺が転移後168時間――七日以内に魔王を倒すこと。

 そして次に、その条件が達成された場合はセラちゃんが俺と幼馴染になる――厳密に言うと、俺たちが幼馴染だった世界に現実を改変することなどが記されていた。


 うん。世界の改変とはなかなかに壮大な話だ。

 でも、「二人が幼馴染になるために世界を変える」って映画のキャッチフレーズみたいでいいじゃないか。これは俄然がぜん燃えてくるな!


「ちなみになんだけど……私たち天使って性別って概念がないの」


「えっ!? マジで?」


「うん、マジ。だからもし朝霧くんと幼馴染になった場合、私はこの見た目のまま性別は女性でいこうかなと――」


「――それでお願いします」


「…………はあ、わかってはいたけど気持ちいいほどの即答ね」


「ありがとうございます!」


 「いや、全く褒めてないから……」そう言って呆れた様子のセラちゃんは、契約書に自身のサインらしきものを記入していく。それに続いて俺も自分の名前を書き記す。


「それにしてもセラちゃんは本当に良かったのか?」


「ん? 何のこと?」


「【幼馴染契約】のことあんなに嫌がってたのに……」


 そんな俺の疑問に可愛らしく小首をかしげていた彼女は、今度は少し得意げな様子でニヤリと口の端を釣り上げる。


「フッフッフ。人の心配をしているとは余裕ね、朝霧くん。でも心配ご無用よ」


「なんか自信満々だね」


「実は私たち天使はこの頭上の光輪を使って、人知を超えた思考処理をすることができるの」


 俺はその言葉につられて、今も彼女の頭上で煌めく天使の象徴に目を向ける。

 どうやらあの高速回転はその思考処理をしていた影響だったらしい。

 それにしてもそんなシステムを搭載とうさいしていたとはさすがは天使様。俺たち人間とは作りからしても違うんだな。


「つまりその天使式の思考処理で導き出した答えは、俺が魔王を最短最速で倒す可能性は限りなく低いってこと?」


「さあ? それは朝霧くんの頑張り次第じゃないかな~」


 そう言って目の前の天使様はにっこりと微笑む。その表情からは言葉とは裏腹に絶対的な自信が感じられた。

 とは言え俺のやることは変わらない。

 最短最速で魔王を倒す。シンプルにそれだけだ。



 続いて、セラちゃんは契約書に手をかざすと何やら口ずさむように言葉を紡いでいく。

 そしてそれに呼応するように、俺たちを色とりどりの温かい光が包み込む。


「じゃあ、魔法を発動したら後戻りはできないけど大丈夫?」


「イエス、マイエンジェル!」


「はいはい……我、大天使セラの名のもとに――――『契約完了コントラクト』!」


 セラちゃんがゲームやアニメで見る魔法の詠唱っぽいやつを終えると同時に、カラフルな光たちが一斉に契約書に吸い込まれていく。

 そんなファンタジーな光景を見届けた後、そのまま用紙は丸められて筒状のケースに厳重に保管された。


「さあ、これで契約も終わり! 次はいよいよ朝霧くんの武器と装備、『スキル』の選定ね」


「ああ~それなんだけどさ。実はもう決めてあるんだよね」


「うんうん、大丈夫よ。武器と装備、特にスキルの選定は魔王討伐の最重要項目の一つ。だからじっくり時間をかけ――ってうそ!? いつの間に!?」


「さっき渡された資料の中にそれぞれの一覧が載ってたからさ。効果や能力の説明も詳しく書いてあったしね」


 俺は『異世界救世プロジェクト』の分厚い冊子をめくりながら、あらかじめ決めていた武器に装備、スキルなどをセラちゃんにスラスラと伝えていく。

 彼女はそんな様子に困惑しつつも、まずは指定した武器と装備を次々と空間魔法でこの場に取り出してくれた。


「ほんとにこれでいいの? 異世界では厳しい戦いが待ち受けてるのよ。私もサポートするからもっと時間をかけて選んだほうがいいんじゃない?」


「大丈夫、大丈夫。ってかそれよりも……」


「ん? どうしたの?」


「いや、俺は全然このままでかまわないんだけどさ。着替え――うおぉっ!」


 言葉を言い終える前に、セラちゃんは素早く身体ごと後ろを向くと一度手を叩いた。

 するとそれを合図に、俺の四方に目隠し用のカーテンが次々と現れる。そしてそのままあっという間に厳重に取り囲まれてしまった。


「まったくこっちは心配してるのに……着替え終わったら教えて!」


「了解~。にしてもセラちゃん! このカーテン三重さんじゅうなんだけど! ここまでする必要あったの!?」


「………………」



 しばらく待ってみたが彼女からの返事はない。

 そのことに若干の悲しみを覚えつつも、俺はその中で一つの仮説について考えていた。

 それはセラちゃんが使っている読心の魔法は、相手の両眼を視界に収めないと使用できないのではないかというものだ。


 テーブルを囲んで会話をしていた時からこの仮説には気が付いていて、魔法を常時発動しているわけではないことはすでに把握していた。

 でもこの仮説が正しかった場合、この中ではいちいち思考が読まれることを警戒する必要がなくなる。なのでさっそく正しいかを確認しておこう。


 そう決めた俺は、まずはセラちゃんに向けて様々な妄想をしてみる。

 そして続けて、おふざけなしの緊急の呼びかけも心の中でしてみた。

 短い間のやり取りとはいえ、彼女の性格は何となくわかっている。

 妄想を無視することはあっても、例えば装備で指を切ってケガをしたなどの思考を見逃すはずはないだろう。



 …………うん、やっぱり返事はないな。

 どうやら仮説は正しかったみたいだ。つまりこの中にいる間は思考が読まれる心配はない。


 俺はそのことを頭に入れつつ、目の前に置かれた装備を前にまずは着ている服を脱いでいく。

 そして、一つ一つの感触を確かめながら装備を着用していった。

 これから行く異世界はゲームなんかで見る剣と魔法のファンタジー世界らしい。

 そのため俺が身に纏っているこの装備も、その世界にいるようなまさしく冒険者といった感じの格好だった。

 なるべく動きやすそうなやつを選んだとは言え、それでも現代服と比べると見た目からしてかなり重厚じゅうこうだ。

 けれど、着用してみると普段着ている服と変わらないくらいの重さしか感じない。

 どうやら説明に書いてあったように軽量化の魔法とやらが使われているみたいだ。


「よっ! ほっ! ――よし、これなら大丈夫だな」


 俺はその場で軽くジャンプしたり身体を動かして、問題がないことを確認する。次に指定した武器を手に取って軽く扱ってみた。


「……う~ん。こっちは少し短すぎるかな」


 武器の方にはもう少し改善の余地はあるが、だいたいはイメージ通りで使いやすい。これなら計画に支障はないだろう。


 そんな感じで俺はもう一度頭の中でプランを組み立てつつ、着々と魔王攻略の準備を進めていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ