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第1話 大天使降臨

 俺は今、真っ白な空間にいた。

 視界に入るのは白一色。そしてそれがどこまでも続いている。


「どこだよここ……」


 確かにさっきまでは部屋のベッドで横になっていたはず。

 それが気がついたらこんな意味不明な場所にいて、今が何時なのかもわからない。

 家族も心配するし、まだ夕飯も食べてないから早く帰りたいんだけど……。


「――この異常事態に夕食の心配とは余裕ね」


 すると、何もなかったこの場に凛とした声が響く。

 そしてその声とともに、目の前の空間に歪みが発生し始めた。

 まるで便器の水が吸い込まれるように中心に向かって渦を巻く歪みは、徐々に周りを侵食していく。

 それはそのまま人が通れるくらいの大きさまで続くと、今度は吸い込まれていた空間が逆回転を始めた。


 うわ……なんか逆流してきたよ。便器でイメージしてたからシンプルに汚ぇ。


「ちょっと! さっきから私の華麗かれいな空間魔法に便器、便器って! 失礼な例えはやめてくれないかしら!」


「――へっ!?」


 俺は、逆流してきた空間――そこから突如現れた人物を見て驚愕する。

 そこにいたのは不機嫌そうに頬を膨らませ、こちらをジトッとした目で睨む金髪碧眼の美少女だった。

 服装は薄手の白いワンピース。足元は容姿とのギャップを演出したのだろうか、ワイルドな裸足だ。


 けれど、ここまでなら俺も驚きはしない。

 「えっ! めちゃくちゃ好みのタイプなんですけど……」とか「頬を膨らませて不機嫌アピールってあざといな。でもそこがいい!」とか、他にもいろいろと思うことはあっても驚愕するほどではない。


 じゃあ何をそんなに驚いているのか。

 それは目の前の美少女が、純白の翼を広げて宙に浮いていたからだ。おまけに彼女の頭上にはきらめく光の輪まで存在している。


 それらを見た瞬間。俺の頭の中では彼女が何者なのか、その答えがすでに出ていた。


 信じられない。でも、夢でないならこの美少女の正体は――――



「――…………あざとい天使」


「…………あざといは余計だけど、そうよ。私はあなたの担当を任された大天使、名はセラ。短い間だけどよろしくね、朝霧景斗あさぎりけいとくん」


 そう言って純白の天使は、俺に向かってにっこりと微笑んだ。



   ◇  ◇  ◇



「異世界を救うねぇ~」


 俺は、大天使を自称する美少女――セラちゃんが創造魔法なる謎の力で作ったソファーに腰かけながら、手渡された資料に目を通す。

 その資料の表紙には『異世界救世プロジェクト』と題されており、主に異世界を救うことについての計画が記されていた。


「そうよ、朝霧くん。あなたには私たち天使の代理として、魔王によって消滅の危機にある異世界を救ってほしいの!」


 そう言って対面のソファーに座るセラちゃんは、胸の前で祈るように両手を組むと、瞳を潤ませながら上目遣いでこちらを見つめてくる。


 なんでもセラちゃんたち天界の存在には数多あまたの世界の平和と秩序を守る役目があり、世界の存在が保たれるように管理をしているらしい。

 

 さすがは天使様。俺たち下界の存在を守るために日々尽力してるんだな~。

 しかもそれを気が遠くなるくらいの年月ずっと続けてるって、まさに慈愛に満ちた天使様って感じだ。


 そして何より、そんな天使様の上目遣いとうるんだ瞳の組み合わせ……これはシンプルに破壊力がやばい。

 可愛すぎて思わず二つ返事でオッケーをしてしまいたくなるくらいには可愛いが過ぎる。

 けど、それにもさすがに限度というものがあった。


「いや無理っす。俺、痛いのとか苦手だし」


「うぅ、わかってはいたけど速攻の拒否ね」


「そもそもなんで代理? こんなしがない学生に頼まず、セラちゃんたちが倒せばよくない?」


「それが私たちには直接世界に干渉することができないという絶対のルールがあって……。だから異世界へと渡ることのできる適性を持つ者――転移者にお願いするしかないの」


「じゃあ、悪いんだけど他を当たってもらうということで」


「……やっぱりそうよね。これで何回目のお断りだったかな……。そもそも転移者は本当に稀少な存在なの。朝霧くんの代わりを見つけるのも次は一体いつになるのかしら…………」


 そう言ってソファーの背もたれに体を預けたセラちゃんは、遠い目をしながら呪詛じゅそのように言葉を紡ぐ。

 その姿は天使とは思えないほどに暗い負のオーラをまとっていて、俺の罪悪感を猛烈に刺激してくる。


 正直、俺には会ったこともない異世界の人々を救いたいと思うような正義感はないし、そのために自分の命を賭けるなんてのはもってのほかだ。

 それよりも単純に目の前で落ち込んでいる天使様を何とかしてあげたい。そんな気持ちが湧き上がってくるほうが自然なことだった。


「う~ん、もちろん俺もセラちゃんの悲しむ顔は見たくないんだけど――ん? これは…………」


 話しを聞きながらペラペラとめくっていた『異世界救世プロジェクト』の計画書。

 俺はその中の一ページに記されていた内容に思わず手を止めた。

 そして、見間違いじゃないかと素早く何度も目を通す。


「……おいおいマジかよ! セラちゃんここに書いてあることなんだけどさ」


 テーブルに開けた資料を指差しながら、俺はすぐさま確認を取る。

 そこには主に魔王討伐の報酬についての記載がされていた。こんな重要なところに冗談は書かないはずだとはわかってはいる。

 けど、その記載された報酬の中でも最上級の報酬――その破格さに思わず確認を取っていた。その内容は…………


「ええ、本当よ。私たちには魔王を()()()()で倒した者の願い――それをなんでも一つ叶える準備があるわ」


「受けましょう」


「えっ!? 受けるって……」


「――――俺が魔王を倒して、異世界を救います!」

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