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柔道着の代わりに、愛を着てみようか? 01

[BL] 柔道着の代わりに、愛を着てみようか? 01

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時間は、体育館のマットの上で転がる汗のしずくのように、図書館の本のページをめくる手のように、止めどなく流れていった。ヒョヌは、自分が変わりつつあることをぼんやりと感じていた。以前は、柔道のこと、次の練習のこと、来る試合のことだけが頭を占めていたのに、今ではその隙間に別の景色が入り込んでくるようになっていた。眼鏡越しに見える真剣な瞳、ぎこちなく柔道着を直す細い指、説明を聞くときに少し開く唇。キム・ジンスという存在が、ヒョヌの固く閉ざされた世界に、静かだけど止まらない波紋を広げていた。


体育の授業が終わって一人で追加練習をしているときでさえ、ふとジンスのぎこちない仕草が頭に浮かび、思わずくすっと笑ってしまうことがあった。その笑いの後に、なぜか分からないもどかしさや「もっと会いたい」という思いが続くのか、自分でも混乱していた。授業中、何気なく窓際に座るジンスの横顔を覗き込む回数が増えていた。難しい問題に集中しているときの少ししかめた眉、ノートを取る細い手首といった些細なことが、ヒョヌの視線を捕らえて離さなかった。これは単なる好奇心やパートナーとしての関心とは違う感情だった。もっと深く、個人的で、説明しがたい鼓動を伴う感情。しかし「友情」という慣れた言葉の裏に隠れて、ヒョヌは必死にその感情の名前を無視しようとしていた。


「ただちょっと変わったやつだから気になるだけさ」

自分にそう言い聞かせたが、心臓は別の答えを示しているようだった。


ある日の体育の授業後だった。更衣室で柔道着を脱ぎ、制服に着替えていると、先に着替え終えて出ようとするジンスの後ろ姿が目に入った。普段よりも小さく、華奢に見える肩。ヒョヌは思わず衝動的に声を出してしまった。心臓が先に反応し、口がついていったようだった。


「ねぇ、キム・ジンス。」


ジンスは少し驚いたようなウサギのような目で振り返った。眼鏡越しの瞳が大きく見開かれる。ヒョヌは頸をかきながら、どこを見ればいいのか迷って一瞬ためらった。


「…今夜、一緒に食べない?」


言ってから「しまった」と思ったが、もう後の祭りだった。ジンスの顔には戸惑いと驚きが入り混じっていた。そりゃそうだ、二人は体育の授業以外ではほとんど交流がなかったのだから。短い沈黙が流れた。ヒョヌは緊張で喉の渇きを覚えた。断られたら気まずくなる、急すぎたかな。後悔が押し寄せる頃、ジンスが小さな声で答えた。


「…え?あ、うん。いいよ。」


意外な肯定に、ヒョヌは心の中で安堵の息をついた。同時に、心臓は嬉しくて高鳴った。


二人は学校前の、学生に人気の小さな軽食屋へ向かった。賑やかな店内で、隅のテーブルに向かい合わせに座ると、気まずい空気が漂った。お互いにカツを注文し、料理が出るのを待つ間、ジンスは気まずさを隠そうとするように、テーブルの水のコップをいじっていた。普段の落ち着きはどこへやら、どこか浮き立っているようで、緊張が表れていた。ヒョヌはそんなジンスの様子を可愛く感じ、思わず口元に微笑みが浮かんだ。その微笑みを意識したジンスの頬が少し赤くなるのを見逃さなかった。


「体育の授業、きつくない?」


ヒョヌが先に沈黙を破った。


「え?あ、ちょっと…でも、最近は君のおかげで楽しい。」


ジンスは正直に答え、ヒョヌを見つめた。その視線に込められた飾らない感謝が、ヒョヌの心をくすぐった。


「よかった。君、意外と根性あるんだな。最初は全然ダメかと思ったけど。」


ヒョヌが冗談めかして言うと、


「ダメだよ…でも、君がちゃんと教えてくれるから。」


ジンスは照れくさそうに笑った。


湯気の立つカツが運ばれ、二人はしばし食事に集中した。サクサクと揚げ衣がこすれる音、フォークとナイフがぶつかる音だけが気まずさを埋めた。しかし、食べながら少しずつ緊張が解け、自然に会話が続いた。学校生活、好きな科目、嫌いな先生の話といった普通の話題が行き交った。するとジンスがふと、慎重に質問した。普段の彼の性格なら口にしなかったであろう質問だった。


「ヒョヌ、君の…夢って何?」


質問を投げかけるジンスの瞳は好奇心で輝いていた。ヒョヌは一瞬フォークを置き、ジンスを見つめた。自分の夢について誰かに真剣に聞かれたのは久しぶりだった。


「俺は、柔道でオリンピックに出ること。代表になって、一番高い表彰台に立つのが目標だ。」


ためらいのないヒョヌの答えには、彼の人生を貫く情熱と汗がそのまま込められていた。ジンスは目を大きく見開き、感嘆の声を漏らした。


「わ…本当にすごい。絶対叶うよ。応援するね。」


心のこもった応援だった。ヒョヌは胸の奥が熱くなるのを感じた。いつも一人で戦っていると思っていたのに、誰かが自分の夢を心から応援してくれることが、こんなにも心に響くとは。


「ありがとう、ジンス。君は?君は何になりたいの?」


「私は…医者になりたい。病気の人を助けたいから。」


ジンスは少し恥ずかしそうに視線を下に向けて答えた。その落ち着いた声には、静かだけど確かな意志が感じられた。


お互いの夢を語り合うことで、二人の間の壁は目に見えて崩れた。ヒョヌは、ジンスがただの“勉強できる優等生”ではなく、温かい心と思慮深さを持った人だと改めて気づいた。そしてジンスへの自分の気持ちが、もはや「友情」や「好奇心」といった言葉では説明できないことを、はっきりと理解した。ジンスの静かな声、真剣な瞳、ときどき見せる照れた微笑の一つひとつが、ヒョヌの心を強く揺さぶっていた。これが…好きという感情だった。


食事を終え店を出ると、すでに日が沈み暗闇が訪れていた。街灯の明かりがまばらに道を照らす学校の運動場を並んで歩く夏の夜、ヒョヌの心臓は制御できないほど高鳴っていた。もはやこの感情を隠すことも、隠したいとも思わなかった。ヒョヌは歩みを止め、ジンスを振り返った。ジンスも立ち止まり、驚いたような目でヒョヌを見つめた。ヒョヌは深呼吸をして、声が震えないことを願いながら、勇気を出して口を開いた。


「ジンス…」


「うん?」


「俺…やっぱり君のこと…好きみたいだ。」


震える声で吐き出した告白は、夜の空気に静かに溶けていった。コオロギの鳴き声だけが静寂を満たす。ジンスはその場で固まったように動けなかった。驚きで大きく見開かれた瞳が、街灯の下で揺れた。予期せぬ告白に、何を言えばいいのか分からないように唇だけがわずかに動いた。ヒョヌはじっとジンスの言葉を待った。胸が張り裂けそうだった。


数秒が永遠のように過ぎ、ジンスはゆっくりと顔を上げ、ヒョヌの目を見た。頬は赤く、目には混乱とともにヒョヌが気づかなかった深い感情が揺れていた。そして、ほとんど囁きのような小さな声で答えた。


「…私も。」


「…え?」


ヒョヌは耳を疑った。


「私も…好きだよ、ヒョヌ。」


今度はもう少しはっきりと聞こえた。その瞬間、ヒョヌは世界を手に入れたかのような安心感と喜びで大きく息を吐いた。抑えきれない感情に身を任せ、思わず一歩踏み出してジンスの前に立った。ためらいは短く、すべてが自然に感じられた。ヒョヌは震える手を伸ばし、ジンスの頬をそっと包んだ。眼鏡越しに見えるジンスの瞳が、驚きと照れで細く震えた。ヒョヌはゆっくりと顔を近づけ、慎重にジンスの唇に自分の唇を重ねた。


初めてのキスだった。


世界のすべての音が消え、互いの呼吸と心臓の鼓動だけが感じられるようだった。ジンスの唇は思ったより柔らかく温かかった。ヒョヌは溢れる感情に目を閉じた。ぎこちないけれど、心を込めた温もりが全身の感覚を覚醒させるようだった。ジンスも最初は硬直していたが、やがてヒョヌの腰に手を回し、衣の端をそっと握った。短いが永遠のように感じる瞬間だった。夜空の星たちが二人のために輝いているかのようだった。


唇が離れ、二人は息を整えながら見つめ合った。気まずさとときめきが混ざった空気の中、二人の関係が以前とは完全に変わったことは、誰も言わなくても分かるようだった。友達という名前では収まりきらない、新しい感情が鮮やかに芽生えていた。


「…これから…どうすればいいの?」


ジンスはまだ震える声で、赤くなった顔を必死に隠しながら尋ねた。


「俺もよく分からない。」


ヒョヌは正直に答え、柔らかく笑った。


「でも…ただこうして、一緒にいるだけ。それで十分だと思う。」


ヒョヌはジンスの頬を包んでいた手を下ろし、彼の手を握った。少しためらうようにしていたジンスの指先も、すぐにヒョヌの手をしっかり握り返した。温かく柔らかい感触が、手のひらを通して心臓まで伝わるようだった。


「…じゃあ、私たち…これからもっと会おうね。」


ジンスは勇気を出して言った。握った手に軽く力が入った。


「うん。毎日でも。」


ヒョヌは迷わず答え、ジンスの手をさらに強く握った。


暖かい夏の夜、星明かりの下で握り合った手のように、二人の心もしっかりと繋がった。空には無数の星が輝き、ヒョヌとジンスの心にも、今まさに始まったばかりの愛の光が明るく灯り始めた。共に過ごす時間が増えるほど、この光はさらに明るく強くなるだろう。互いの体温も、ぎこちない告白も、そしてさっき交わした初めてのキスの感触も、この世のどんなものより大切に感じられる夜だった。


その後、二人の日常は微妙に、しかし確実に変わっていった。体育館での時間は、もはや単なる練習時間ではなかった。ヒョヌはジンスの姿勢を直しながら触れる手に、以前とは違うときめきを感じ、ジンスはヒョヌの低い声や集中する横顔に、つい視線を奪われた。学校が終われば、誰からともなく互いを探すようになった。図書館で並んで勉強したり、運動場のベンチでささいな話をしたりした。ヒョヌの練習がある日は、ジンスが体育館の隅で汗を流すヒョヌの姿をそっと見守ることもあった。その姿は依然としてかっこよかったが、今では単なる憧れの対象ではなく、自分の心をときめかせる特別な存在として映った。


ある日、一緒に下校していたジンスがふと口を開いた。


「ヒョヌ、私…柔道、もっとちゃんと習ってみたい。」


ヒョヌは驚いて足を止め、ジンスを見つめた。


「本当?体育の授業だけじゃなく?」


「うん。大変だろうけど…君と一緒に運動するの、楽しそうだし。それに…君が好きなこと、もっと知りたい。」


ジンスは照れくさそうに視線をそらした。


ヒョヌの顔に明るい笑みが広がった。本当に嬉しそうな表情だった。


「本当?じゃあもちろん一緒にやろう!隣でちゃんと教えてあげるから!辛かったらいつでも言ってね!」


ジンスは笑顔のヒョヌにつられて、自然と嬉しくなった。


「うん!頑張る!」


柔道という接点は、二人を結ぶ特別な絆となるだろう。ピシッとした柔道着の感触のようにぎこちなくても、互いへの気持ちはどんな技よりも強く、深く根付いていた。初めて気づいた感情と甘い初キスは、二人の恋物語のときめく序章となり、これからの日々は予測不能な出来事で満ちるだろうが、互いの存在だけで十分に輝くことを予感させた。

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