悪役令嬢の惚れ薬騒動!? 林檎は隷属の香り〜摂取した人がゾンビ化したので国外に逃げます!・短編
前世で読んでいた小説の悪役令嬢フランソワーズに転生したと気がついたのは、自宅の研究室で惚れ薬を完成させた後だった。
小瓶に入った緑色の液体が、瓶の中でボコボコと音を立てている。
この惚れ薬は飲んだ相手を隷属させ、相手の自由を奪い、開発者の命令に絶対服従させるもの。
隷属というよりは、血の気の引いた顔で、虚ろな目で、舌とよだれを垂らして開発者の後をついて歩くゾンビ状態になる。
フランソワーズはそんな危険な薬を、婚約者の王太子に飲ませようとして捕まり、自ら作った惚れ薬を飲まされ、ナルシストゾンビ化して死ぬのだ。
あかん……!
いくら婚約者が男爵令嬢と浮気していても、こんなものを作ってはいけない!
……というかゾンビ化した婚約者に言い寄られて嬉しいのか!? 小説のフランソワーズ!?
こんな危険なものさっさと処分してしまおう!
家に置いておくと、男爵令嬢の取り巻きの義弟に見つかって断罪の材料にされてしまう。
私は研究室のドアを開け、瓶の中身を投げ捨てた。
「ふ〜〜、これでよし! 危険は去ったわ!」
◇◇◇◇◇◇
まさか、私が薬を投げ捨てた側に林檎の木があり、林檎が薬の成分を吸収してしまうなんて……!
その木から取れた林檎を、義弟がアップルパイにして使用人や学園の生徒に食べさせるなんて……夢にも思わなかった。
◇◇◇◇◇◇
――数日後――
気分良く目を覚ました私は、朝日を浴びようとバルコニーに出た。
門のところに人だかりが出来ていて、よく見るとそれは、王太子を始めとした学園の生徒で、全員ゾンビ化していた。
ゾンビ達は虚ろな目で「我が愛しのフランソワーズ様……」と呟きながら、門を叩いている。
その数、十人や二十人ではきかない……!
背筋ゾワっとして思わず後ずさる……!
その時、扉をバンバンと叩く音と共に、扉の向こうから「我が愛しのフランソワーズ様……」というおぞましい声が聞こえた。
ひぃぃぃ……!
今のは使用人の声……! お父様と継母と義弟の声も混じっている……!
どういう経緯かは知らないが、使用人と学園の生徒は私が作った惚れ薬を接種してしまったらしい。
そう言えば、私が惚れ薬を捨てた場所の近くに林檎の木が生えていたわ。
その林檎を昨日義弟が収穫していたような……?
それをアップルパイにして皆に食べさせようとかなんとか話していたような……?
これは私の推測だけど、林檎が惚れ薬の効果を吸収し、その林檎を食べた人間がゾンビ化したんだわ!
恋愛小説の世界に転生したと思っていたけど、これじゃあどう見てもホラー漫画の世界よ!
とにかく一刻も早く解毒剤を作らないと!!
王太子や学園の生徒をゾンビ化させたと知られたら、処刑されてしまう……!
幸い研究室は自室と内扉で繋がっている。
私はゾンビ化した使用人達に部屋を開けられないように、ソファーでバリケードを作り、研究室に入った。
悪役令嬢の能力が高かったおかげか、解毒剤は数時間で完成した。
しかし、解毒剤をこのまま飲ませたのではまずい。
正気に戻った彼らは私を捉え断罪するだろう。
「悪意は無いし、食べさせるつもりはなかった!」と言っても信じてもらえないだろう。
そこで私は考えた。
開発者に絶対服従の隷属の力を使い、その場で待機させ、二日後に解毒剤を飲むように命令しよう。
その間に国外に逃亡しよう!
そう決意してからは行動が早かった。
貴重品を詰めたバッグを一つ持ち、バリケードを解除し、扉を開けた。
土色の顔をし、覇気のない目をし、舌を垂らした顔の家族と使用人が廊下に集まっていた。
その光景は、予想の斜め上をいくグロさで、ちょっと吐きそうになった。
「我が愛しのフランソワーズ様……」と言って、じわじわと近づいてくる父親や使用人に、待機を命じる。
隷属の影響で彼らは命令を素直に聞いた。
その事にほっと胸を撫で下ろす。
命令を聞かずにずっとついてこられたらどうしようかと思った。
というか……小説のフランソワーズは、王太子をこんな状態にして側に置いて嬉しいのだろうか?
考えるのは後だ!
異常に気づいた衛兵が屋敷を取り囲む前に逃げなくては……!
私は彼らに解毒剤の入った小瓶を渡し、二日後に薬を飲むように命じた。
この命令に従ってくれたかどうかは、私には確認する術はない。
何故なら二日後、私は異国に渡る船の上だからだ。
私は馬を調達し、正門の前に集まった学園の生徒にも同じように待機と二日後に解毒剤を飲む命令を下すと、港に向けて馬を走らせた。
◇◇◇◇◇
「はぁ〜〜、一時はどうなるかと思った〜〜」
その日の夕刻、私は無事に港までたどり着いた。
そして、運良くその日の夜に出港する船に乗れたのだ。
夕食を食べて、ふかふかのベッドで休んで、美味しい朝食を食べて、腹ごなしに甲板を散歩しているところだ。
惚れ薬なんて安易に作るもんじゃないよね……。
「やはり悪役令嬢に転生したら、面倒なイベントを避けて、国を離れるのが一番よね……クシュン!」
潮風のせいかくしゃみが出た。
「大丈夫ですか? 良かったらこれをどうぞ」
不意に現れたイケメンが、ハンカチを差し出してくれた。
「これはどうもご親切にって……ゲッ……!」
思わず感想を口に出してしまい、慌てて自分の口を抑えた。
隠れ逆ハーレム要因の隣国の王子がなぜここに……!!
ひーー、もう小説の登場人物とは関わりたくないよ〜〜!
「僕の顔に何か?」
王子は美しい眉をしかめ、困惑した表情で私を見つめていた。
「い、いえ何も……!
あ、あなたとのような美麗な殿方にくしゃみをしたところを見られて、その……は、恥ずかしくて……」
そう言って私は、顔を手で押さえ軽く俯いた。
王子は特に私の行動を疑う様子もなく「そうですか。乙女の恥じらいというやつですね」と言って、朗らかに微笑んでいた。
「では、僕はこれで。ハンカチは返さなくて結構です」
そう言って立ち去る王子を、作り笑いで見送る。
さすが逆ハーレム要員の王子様。「美麗」と言われることに慣れている。
「あれとあと二日も同じ船の中で過ごさないといけないなんて……。
さっさと船を降りて別行動したいわ……」
王子から借りたハンカチで鼻をかみ、上着のポケットにしまう。
その時、ポケットに硬い物が入っているのに気づいた。
「ん、これって……?」
ポケットに入っていた物を取り出し、私は血の気が引いた。
このボコボコと音を立てる緑色の液体は……捨てたはずのゾンビ化する惚れ薬!!
まだ、一本残っていたなんて……!
「どうしよう!? 海に捨てる? でも魚が薬を吸収してその魚を食べた人がゾンビ化したら……!」
地獄絵図だ……!
もう解毒剤はない!
船の中には解毒剤を作るための材料も道具もない!
「とりあえず、陸に着くまで安全な場所で保管を……」
そのとき、大きな波のうねりで船体が大きく揺れた。
「あっ……!」
気がついた時には瓶は私の手から離れ、甲板を転がっていた。
私はそのままバランスを崩し、甲板に体を打ちつけた。
「駄目……! その瓶を誰か拾って……!」
しかし、私の声は誰にも届かない。
その間にも瓶はコロコロと甲板の上を転がっていく。
私が体を起こした時には、瓶はもう見えなくなっていた。
◇◇◇◇◇
――同時刻――
小瓶はコロコロと転がり、階段を伝って下の階にたどり着いていた。
「おかしいな、この辺に瓶を落としたはずなんだが……」
料理人が床に膝をついて、捜し物をしていた。
船員の足にフランソワーズが落とした小瓶が触れる。
「あった!
この緑色の液体は間違いない!
異国から輸入した貴重な調味料だ!
これを無くしたら、料理長にどやされるところだった!」
料理人はポケットに小瓶をしまい厨房へと向かった。
少し遅れてフランソワーズが階段を降りてきた。
物陰から転がってきた小瓶を見つけ、フランソワーズは安堵の息をついた。
「良かった。
これを無くしたら大変な事になるところだったわ!
誰かがうっかり飲んでしまわないよう、カバンに入れて厳重に保管しましょう!」
その日の夕食に、惚れ薬が入ったスープが出され、隣国の王子を始めとした乗客全員がゾンビ化することを……フランソワーズはまだ知らない。
――終わり――
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