【第8話:権力の影】
ベルク――あの役人は、俺に一度恥をかかされた。
だが、そんな小物が簡単に引き下がるはずもない。
◇
役所の会議室。
豪奢な机の上で、ベルクは顔を真っ赤にして叫んでいた。
「許せん! あの小僧、私を公衆の面前で愚弄した!
……庶民どもまで調子づいているではないか!」
同席していた別の役人が肩をすくめる。
「だが証拠もなく処罰するのは難しいぞ。かえって反発を招く」
すると、部屋の奥に座っていた初老の男が口を開いた。
低い声は、まるで蛇が這うようだった。
「……では、証拠を作ればいい」
ベルクが振り返る。
「課長……!」
「どうせ庶民の支持など、一過性のものだ。
小僧が“悪事を働いた”と噂を流し、帳簿を偽造し、証人を買収すればいい。
権力とはそういうものだ」
ベルクの目に陰険な光が宿る。
「……なるほど。ならば、奴を“犯罪者”にしてやりましょう」
◇
その夜。
市場の倉庫で、俺の商会の物資に紛れて“密輸品”が仕込まれた。
酒に溺れた商人たちに金を渡し、「あの小僧がやっていた」と証言させる手筈も整えられる。
翌朝――。
「不正の証拠を見つけた!」
「この商会は密輸に関与している!」
ベルク率いる兵士たちが、俺の露店を包囲した。
庶民たちは驚愕の声を上げる。
「そんなはずない! あの人が悪いことをするはずが!」
だが兵士たちは冷酷に物資を取り上げ、証拠として突きつけた。
◇
リオが絶望の表情を浮かべる。
「兄さん……! こんなの、罠だよ!」
俺は目を細め、落ち着いた声で答える。
「ああ、分かっている。奴らは“証拠を作った”……ならば、俺は“真実を暴く”だけだ」
ベルクが勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ははは! 今度は逃げられんぞ、小僧!
お前は今日から、“密輸商人”として牢に入ってもらう!」
◇
俺はゆっくりと周囲を見渡した。
集まった庶民の顔。仲間の不安。
そして、自分の中に燃え上がる怒りと冷静さ。
「いいだろう……ベルク。
お前の腐敗を、この町の誰もが分かる形で暴いてやる」
静かにそう告げた瞬間、群衆の中でざわめきが広がった。
戦いは、もう後戻りできない。