【第7話:役人の嫌がらせ】
翌日。
市場に向かうと、俺の露店の前に兵士たちが立ちはだかっていた。
「本日より、この店は営業停止とする!」
突然の宣告に、リオが真っ青になる。
「ど、どうしてですか!? 兄さんは何も悪いことしてないのに!」
兵士は鼻で笑った。
「役所からの命令だ。理由は“安全上の問題”だとよ」
◇
俺は静かに状況を観察した。
兵士の背後には、あの役人――ベルクと名乗った男の姿。
目が合った瞬間、奴は口の端を吊り上げる。
「小僧。お前のような無法商人を野放しにすれば、町の秩序が乱れる。
……だから、少し休んでもらう」
要するに、庶民の支持を削ぎ落とすための嫌がらせだ。
◇
群衆がざわめき始める。
「なんでだ! この人は俺たちを助けてくれたのに!」
「役人が商売を潰すなんておかしいだろ!」
だが兵士たちが武器を構えると、庶民は押し黙った。
恐怖に勝てる者は少ない。
リオが震える声で俺に囁く。
「兄さん……どうするの?」
俺は深く息を吐き、笑みを浮かべた。
「……簡単な話だ。奴らの“穴”を突けばいい」
◇
俺はベルクに向かって声を張った。
「営業停止だと? その命令書を見せてもらおうか」
ベルクの眉が動いた。
「な、何?」
「役所の正式な命令なら、必ず“署名と印章”があるはずだ。
まさか、口約束だけで兵を動かしたんじゃないだろうな?」
群衆がざわつく。
「そうだ! ちゃんとした命令書を見せろ!」
「法律を守るのはお前らの方だろ!」
ベルクの顔がみるみる赤くなる。
「ぐっ……!」
◇
結局、命令書など存在しないことが露呈した。
兵士たちは困惑し、群衆の怒号が役人を包み込む。
「出て行け!」
「庶民を苦しめるな!」
ベルクは唇を噛みしめ、護衛とともに退散していった。
◇
リオがぱあっと笑顔を見せる。
「兄さん、すごい! あんな人を言い負かしちゃうなんて!」
俺は肩をすくめた。
「権力に頼る奴は、必ずどこかに綻びがある。
……俺はただ、それを突いただけさ」
庶民たちの視線が、再び俺に集まる。
そこには畏敬と信頼の色が混じっていた。
こうして俺は、“役人の嫌がらせを退けた商人”として、さらに名を広めることとなった。