【第6話:役人の影】
庶民の信頼を得た俺の小さな商会は、日ごとに繁盛していた。
リオもエリーも笑顔を取り戻し、仲間たちはやる気に満ちている。
だが――。
その裏で、ひとつの“視線”が俺に注がれていた。
◇
「おい、お前……あの若造を知っているか?」
「ええ、塩の相場をひっくり返した商人ですね」
路地裏の酒場。
役人風の男たちがひそひそと話している。
「庶民の支持を集めている……面白くないな」
「商会連合からも苦情が来ています。
“あの小僧を放置すれば、既存の秩序が崩れる”と」
その目は、完全に“処分対象”を見るものだった。
◇
数日後。
俺の露店の前に、豪奢な服を着た男が現れた。
護衛を連れ、威圧的な態度で言い放つ。
「貴様が最近噂の小僧か。役所に届け出もせず勝手に商いをするとは、大胆だな」
リオが慌てて口を開く。
「ちょ、ちょっと待ってください! 兄さんは何も悪いことしてません!」
だが役人は冷たく笑った。
「悪いかどうかを決めるのは、我々だ」
◇
俺は一歩前に出て、男をまっすぐに見据えた。
「……なるほど。庶民を救うのがそんなに都合が悪いか」
男の顔が歪む。
「身の程を知れ! お前のような無名の商人が、我らの秩序を乱すなど――」
その言葉を遮り、俺は静かに告げた。
「秩序じゃない。腐敗だろう?」
周囲で立ち聞きしていた庶民たちが、ざわめき始める。
「そうだ! あの人は俺たちを助けてくれたんだ!」
「役人こそ、私腹を肥やしてるじゃないか!」
群衆の声に押され、役人は一瞬たじろぐ。
だが、その目にはまだ余裕があった。
「……よかろう。ならば正式に調べさせてもらう。お前の商いが本当に正しいのかどうか、な」
そう言い残し、役人は護衛を従えて立ち去った。
◇
リオが不安げに俺を見上げる。
「兄さん……どうするんです? 本当に調べられたら……」
俺はニヤリと笑った。
「いいさ。正々堂々と受けて立つ。
……俺が本当に“尊厳ある商人”かどうか、奴らに思い知らせてやろう」
こうして――俺と役人との、最初の対立が幕を開けた。