【第3話:市場での対決】
朝仕入れて昼に売る。わずかな差額でも積み重ねれば確実に増える。
そんな俺の前に、一人の男が現れた。
派手な服に金の首飾り、肥え太った身体。
市場を牛耳っているという、中規模商会のボスだ。
「おい小僧、聞いたぞ。お前がこの市場で妙な商売をしているらしいな」
取り巻きの商人たちが俺を囲む。
どうやら、本格的に目をつけられたらしい。
「妙な商売? ただ普通に売買してるだけだ」
俺が涼しい顔で答えると、ボスは鼻で笑った。
「この市場で勝手に商売をするには、俺に“場所代”を払わなきゃならねえんだよ。……知らなかったのか?」
取り巻きたちがニヤニヤと笑う。
完全にカツアゲだ。
だが、俺は動じない。
(なるほど。こいつらは力で市場を支配しているのか。だが、数字の前では力など無意味だ)
俺は懐から帳簿を取り出した。
「なるほど、場所代ね。じゃあ逆に訊くが……お前の店の利益率は何パーセントだ?」
「はあ?」
「俺はすでに、この市場全体の流通と価格を調べている。
――お前の商会は、利益率がわずか二パーセント。
しかも在庫を抱え込みすぎて、半年以内に資金繰りが破綻する」
ざわっ、と取り巻きたちの顔が揺らぐ。
「な、何を……根拠はあるのか!」
俺は涼しい笑みを浮かべる。
「根拠? 帳簿と数字だ。お前が“場所代”なんて不当な搾取をしているから、市場全体の流れが歪んでいる。
……つまり、この市場の癌はお前自身ってことだ」
「貴様ぁ!」
怒鳴るボス。だが周囲の商人や客たちも集まり始め、ざわめきが広がる。
「確かに最近、あの商会は値段ばかり釣り上げていたな」
「損してるのは俺たち客だ!」
群衆の声が一斉にボスに向かう。
俺は最後に突き刺した。
「“尊厳を持った商売人”は、客を裏切らない。
お前のような腐った商人は……この市場には必要ない」
次の瞬間、ボスは怒号を上げながら退散していった。
取り巻きたちも顔を青くし、散り散りに消えていく。
市場は静まり返った。
やがて誰かが拍手を始め、次々に賛同の声が上がる。
――こうして俺は、市場で正式に「尊敬される商人」として認められたのだった。