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【第2話:最初の商売と小さな経済】

通りを歩いていると、果物を売る露店の前で足が止まった。

山積みになったリンゴ。だが、どう見ても売れていない。


「その果物は腐りかけじゃないか?」


声をかけると、店主のオヤジが苦い顔をする。

「……ああ、そうだよ。だがな、仕入れに金を使っちまったから、赤字覚悟で売るしかねえ」


なるほど。完全に価格競争に負けている。

俺はすぐに脳内で計算する。


(このリンゴ、近場で売るから赤字になる。

でも……保存して少し加工すれば、菓子や酒に使える。むしろ値段は跳ね上がる)


俺は笑みを浮かべて言った。

「そのリンゴ、まとめて俺が買う。銅貨十枚でどうだ?」


「なっ……安すぎる!」


「どうせ売れなかったら捨てるんだろ? それなら多少の金になる方がマシじゃないか」


結局、オヤジは渋々ながらも頷いた。



その足で俺は、路地裏のパン屋に向かう。

パン屋の女主人は、保存用の果物を探していると聞いていた。


「このリンゴ、まだ使える。ジャムや菓子パンにどうだ?」


試しに味見させると、女主人の目が輝く。

「これなら十分だわ! ちょうど仕入れ先が高くて困っていたのよ」


銅貨十枚で買ったリンゴが、銅貨五十枚に化けた。

――利益率は五倍。



その帰り道。

さきほどのオヤジが、別の商人に愚痴をこぼしているのが聞こえた。


「クソっ、あの小僧に買い叩かれちまった……」


商人は鼻で笑う。

「ははっ、見る目がねえな。腐った果物なんざ銅貨一枚の価値もねえよ」


俺はわざと二人の前を通り、にやりと笑った。

「銅貨五十枚、感謝するよ」


二人の顔が同時に凍りつく。

捨て値だと思ったものが、数倍の価値に化けたと知った瞬間の絶望。


――これが、俺の最初の「経済」だった。


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