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海月

作者: さとう



「私、海月になりたいの」


そう言って海水に足をいれ揺れる白いワンピースは

海月を彷彿とさせた。


「なんで海月?」

「んー、何も考えずにゆらゆらと漂って、そして死にたいから?」


そういった彼女は内容には合わない無邪気な顔で笑う。

…僕はそんなつもりで海に連れてきたわけではないけれど。


僕の彼女は精神疾患を患っている。

感情の喜怒哀楽が激しくて、怒ったかと思えば

泣き始め、泣いたかと思えば笑い始める。


今日も気分転換になれば、と

彼女を海に連れてきたのだった。


「海斗はさ、名前に海が入ってるから

私が死んでも海斗の中で私は海月として生きるよ」


前向きなのか後ろ向きなのかわからないことを言われて、小声でいや、死なないでよ…と呟いた。

彼女は一言、ごめんね。とだけ言って

足で海水をぱちゃぱちゃと跳ねて遊んでいる。


希死念慮が酷いのか最近はそのような事ばかりを言ってる彼女に僕は不安を募らせる。


「…海月にならないでね」

とだけいうと彼女はこちらを向いて、えー?とだけ

いって笑った。とても無邪気そうな顔だった。




そんな彼女が亡くなったのは、冬だった。

死にたがってた彼女は呆気なく事故でなくなったのであった。

本望だった?僕といられて幸せだった?なんで事故なんてあったの?疑問がおしよせては僕の目から涙が零れた。


正直、精神疾患を持ってる彼女と付き合っていくのは生半可なことじゃなかったし、大変なことも多かった。周りにも反対された。でも愛してた。

本当にただそれだけの理由だった。


好きだった、愛してた、あの無邪気な笑顔も

急に怒って罪悪感に打ちのめされてしまうところも。全て。


僕は、ご両親から遺灰を少し分けてもらった。

海に、まこうと思った。

海月になりたかった彼女が海月になれますようにと、願いを込めて。

海月になってただ海を漂う自由な彼女になれますように。


海に灰をまいた後、

僕はクラゲのキーホルダーを買った。

そしてそれを彼女だと思うことにした。

僕の名前に海が入っているから僕の海でも

泳いで欲しかった。


どんな形であれ縋りたかったんだと思う。

きっと僕はこれを一生持ち続けるし、

新しい恋なんてできないだろうなと思った。


それでもいいと思えるほどなのだから

僕を残していった彼女は大層罪深いと思う。


そして彼女らしくもあると思う。


来世なんて大して信じてもないが

もし来世があるならこの広い海でまたなにかしらで

出会えたらいい。

そう、思って僕は生きていくしかいないのだ、

彼女のいない、この世界で。












縋りながらも生きてくしかない主人公と

死にたさを抱え予期せぬ事故で亡くなった彼女に

なにかしら思っていただけたら幸いです。

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